まぼろしおじいさん

@TheDreamer

まぼろしおじいさん

とある町に少女が暮らしていた。


ある日、少女は宿題に悩んでいた。

その内容は、世の中の気になることを調べることだった。


何日も悩んだ末に、少女は橋の下のおじいさんを思い出した。


身なりが汚く、昼寝ばかりしているおじいさんのことを不思議がっていたことを思い出し、次の日、少女はおじいさんにこう尋ねた。


「あなたのことを教えて。」


おじいさんが答えた

「ありがとう、私に興味を持ってくれて。私が答えられるものはなんでも答えよう」


少女が尋ねる「なぜ家がないの?」

おじいさんが答える「それはね、私が昔苦しんだからだ。幻の曖昧さに。それはひどく私を苦しめる」


橋の下で二人きり。


少女の好奇心は止まらない。「なにが苦しかったの?何に疲れたの?どうして生きてきたの?」


すこし驚いたおじいさんはこう返した。「ふふふ、慌てることはない。君の人生は長い。」

少女は隣に座り黙って聞いていた。


「私は芸術が好きで、若い頃は授業を抜け出して美術館に遊びに行っていた。

無知で教養がない愚かな学生だった。

月日が流れ、将来の幅が狭く、人生に生暖かい風があたる頃、私は画家になるしかないと、そう感じるようになった。」


少女は話を聞けなかった。

おじいさんの心の中に色を見出せないことがひどく悲しいからだ。


「私が絵を描き始め、少しばかり腕がついた頃、ある二つの自分を感じた。

一人は描きたいものを描けるように励むべきと考える自分と、描けない自分を認めてやれることをやる自分だ」


少女には理解できなかったのだろう。こう返した。

「それはもちろん描きたいものを描けるようになった方が幸せでしょう?」


ここからおじいさんの表情はわからない。


「きっと君から見たらそうなのだろう。だが若い私には分からなかったのだ。

あるがままに分からない。

自分が何を望み、どんな行動をし、どう描きあげるか。

努力の方向、力加減、種類。若い私は限界だった。

ただ限界だったのだ。

人生のむごたらしい自由度が、汗を知らない者の目を情熱的に固定したのだ。

最後は全てを投げ出し、若き夢は幻と成り果て、芸術の楽しさは己の醜さの証明に感

じるようになったのだ。」

おじいさんがおじいさんに語り終え、少女に向けて語る。


「君はこうなってはいけない。必ず普通に生きなさい。

夢などたかが夢なのだ。見ずに済むならそれがいい。」


少女はこの言葉を体に刻んだ。


少女は帰宅途中に本屋に寄り、数学Aの参考書を購入した。

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