12

 安堵したような顔をした橋本文香は、嬉しそうに顔を綻ばせる。


 ああ、こんな顔もするのか、と梶は思った。


 橋本文香はあまり感情を見せないように思っていただけに、ちょっと意外だった。



 近くにあった席に椅子を引いて腰掛ける。

 カタン、と乾いた音を立て落ちた松葉杖を拾おうとしたら、橋本文香がそれを拾ってくれた。椅子の背もたれに引っかけるようにして、立てかけてくれる。


 梶が礼を述べれば、橋本文香はぶんぶんと首を横にふる。待てど暮らせど返事がないので、大したことないよ、という意味合いの動作だったのだろうと、梶は解釈をした。

 

 戸口の横に置いていた楽器を取りに、橋本文香は身をひるがえす。


 ふわりと膝上で揺れるプリーツスカート。橋本文香も裾上げをしているんだな、なんてことを思う。


 まあそれもそうか、学校指定のされたスカート丈の長さのままだと、かえって目立つ。


 シルバーの美しい光沢を魅せる楽器が、橋本文香に抱えられた。

 

 彼女の顔を覆い隠す大きさのその楽器の名前を、梶は知らなかった。もともと音楽に、そして特にクラシックには滅法弱い。


 「橋本さん、その楽器、なんていう楽器?」

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