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 この学校は、陸上部と吹奏楽部の活躍が目覚ましく、強豪校として名を連ねるうちの1校だ。


 しかしその実、陸上部と吹奏楽部の生徒は接点が極端に少ない。1年のうちはともかく、2年に上がるとその所属する部活によってクラス編成が別れるのだ。


 吹奏楽部入部者は偏差値が平均的に高いのに対し、陸上部入部者は低い。その為、学力に合った授業を進めようとなると、どうしても偏りが出てしまう。


 学力を見てクラス編成がなされた結果、吹奏楽部と陸上部はクラスが別れ接点がなくなるのである。


 梶が戸惑っていることを察したのか、それとも何か踏ん切りがついたのかは分からないが、橋本文香はそっとその手で、梶の、杖を持たない側の腕をとった。


 「今から個人練習なの。ここで練習するから、聴いててくれないかな」


 梶は瞬きを繰り返す。


 頭2つ分背が低い橋本文香は、じっと梶の怪我をした膝辺りを見つめながら、そう切り出した。


 ちょうど身も心も行き場に困っていた梶は、しばしの沈黙の後に「……橋本さんがいいなら」と答えた。

 

 思ったより震えた声になってしまったのは、急な申し出に戸惑っているからだ、と梶は言い訳をする。

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