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「……大丈夫。ちょっと考え事してた」
やんわりと触れそうになるその手を遠ざけながら、梶は苦く笑う。
不快に思う素振りはなくも、橋本文香は何かを言いたげにその場に留まっている。
梶は人見知りをする。率先して関わりを持つタイプでもない梶は、それこそ今も目の前に立つ橋本文香に対してどう接していいのか悩んでいた。
橋本文香のことは、2年生に進級してから知った。控えめでありつつも、クラス委員の初期に立候補し活動するなど、気立てのよい彼女はどこか遠い存在のように見えて、同い年には思えないような雰囲気がある。
表立って活躍することはなく、陰で支えるような感じだ。
外見が特別美人かといえば、そうでもない。
化粧っ気がない(多少はしているのだろうが)のは、元から整った顔立ちをしているからなのだろうか。しかしそれは媚びるような化粧をする者たちに比べてとても印象が良い。
授業中など黒板を見る際だけかける眼鏡は、さらに知的な印象を加えた。
あまりにも美しく、近寄りがたい。
そんな印象が梶にはあった。
梶はじっと橋本文香の抱えていた楽器を見つめる。
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