第1話

『中学を卒業するまで』

13歳の時にお願いしてやっとのことで村の外の学校の通わせてもらえることになった。でも、それも終わり明日からはもう私は中学生じゃない。因みに高校生でもない。本来は学校になんて通うことができないはずだったから、中学だけでも外の人間たちと同じように生活ができたのが嬉しかった。村のことを誰も知らないようなちょっとだけうちから離れたところに通うことができてよかった、村のことを知っている人だったら誰もあたしと関わろうとなんて思わなかったはずだから。楽しかったな、なんて考えながらバスに揺られていたら終点の村の入り口の最寄りのバス停に着いてしまった。村の入り口にはこのバスではたどり着けないのだから仕方がない。3年間で顔見知りになった車掌さんとも会うのが最後だからいつもよりちょっとだけ心を込めてありがとうございました、と言ってバスを降りる。少しだけしんみりした気持ちで、来た道を折り返すバスを眺めて、ここで走って追いかけて乗せて貰えば永遠にここには帰ってこなくていいのでは…と思いついたけれどそれを実行したら双子の妹のヒナに迷惑をかけてしまうことに気がついて諦めた。


「ヨミさま…」


私がしんみりしていると迎えに来た使用人の薫に声をかけられる。


「少しだけ。」

少しだけ、本当に少しでいいから。ここに居させて。だって私が次に外に出られるのは一年後。黎との婚姻の儀の時なんだもの。


…バスが見えなくなるまで、私と薫はそこにただ立っていた。


「そろそろ、行きましょう。」

耳に心地の良い声で薫が言う。そう言った薫もなんだか、少し寂しそうだった。私がまだここに居たいと言いかけると、薫はほんのり暖かい目で


「このまま逃げちゃいますか?」

と私に問いかける。それはとても甘い誘い。私だってあんな村には帰りたくない。好きでもない人と結婚させられて、そのままずぅっと村の中に閉じ込められて、自由なんて一切ない村、家、そんなの私は嫌よ。でも、薫とヒナがいるからっていつも真っ直ぐに帰っていた。一瞬だけ、薫となら一緒に外で暮らしてもいいんじゃないかってね、思っちゃたの。薫とヒナと私は3年前から一緒にいるもの。薫がいない世界なんて考えられない。でも…私は薫だけじゃなくてヒナも一緒じゃなきゃ嫌。


笑顔を作り薫のちょっとだけ色素の薄い虹彩をしっかり見つめて


「帰りましょ。ヒナが待っているわ。」


よく見ていないと分からないくらいだけど、薫の表情が曇る。それに心がちくりと針でつついたような感じで痛む、それは無視をして歩き出す。ごめんなさい、薫。




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