月が綺麗な夜でした
郁野ゆじあ
プロローグ
冬だった。吹雪でとてもじゃないけど外で遊ぶ気にはなれなかった。そんな日の夜中に綺麗な女の人が赤ちゃんを抱えて僕のうちを訪ねてきた。こんな天気なのに赤ちゃんを連れて外に出るこの女はやばい、僕たちはそう思った。
彼女と赤ちゃんが一切濡れていないことにこの時の僕たちは疑問を持たなかった。
「貴方が
女の人が僕をじぃっと見ながらいう。真っ赤な唇がとても印象に残っている。どうも僕はぼーっとしてしまっていたようで、隣にいた黎に肘で小突かれてハッとした。
「僕は
黎を指差しながら応える。僕たちは年が一つしか離れていないからどっちがどっちか初めての人にはよく間違われる。正直、僕と黎は似ていない。でももう、間違えられるのには慣れっこだ。
女の人は体の向きをちょっと変えて黎を見る。途端に、ぱぁっと花が咲いたように明るい表情に変わった。
「お母様から聞いていたけれど本当に
女の人は、早口でそういった。明兄さんというのは僕たちの父だ。ところでヨミって誰だろうと僕が首を傾げていると
「その子がヨミちゃん?ぼく知っているよ。父上がぼくとヨミちゃんは番になるんだって言っていたよ」
「あら、今日は貴方にこれを渡しがてら、ヨミを紹介に来たのにすっかりヨミのことを忘れていたわ。」
静かに彼女は笑った。本題を忘れてしまうなんて抜けた人だな。ヨミと呼ばれた赤ちゃんはすやすや眠っていた。女の人はヨミちゃんの額に手をかざす。ヨミちゃんの何かが手をかざされたところから吸い取られているように見えた。女の人の手の中にはいつの間にか小さな瓶の中に入った真っ黒な液体があった。液体は揺れるとちょっとだけ金色の粒が入っているようで夜空のよう。
ちょっとよく見ようと小瓶に顔を近づけたら、女の人に汚らわしいものを見るような目で見られた。曰く、女の人は僕には用がなく、邪魔だから失せてほしいとのことだった。
僕はここでその場を退いたから、ここから先はあとで黎から聞いた話だ。
女の人の持っていた夜空の液体は、ヨミちゃんの魔力?だか、気?を集めて事前に用意してあった泉の水を混ぜ合わせた水溶液だったらしい。うちとヨミちゃんの家は特殊な能力を持つ人が度々生まれてくるから、その力の元になるものを取り出したのだろう。僕は何も持たずに生まれたよくわからない。
その水溶液を黎は飲むように言われ、言われるがままに飲んだそうだ。お味は可もなく不可もなくといったところ…だと言っていたが、眉間に皺を寄せているところを見るとあまり美味しくはなかったようだ。
黎が水溶液を飲むことで、ヨミちゃんと黎の契約が完了したらしい。ヨミちゃんは、あらかじめ黎が小さい頃に作られた水溶液をうちに来る前に飲まされていたらしい。契約の詳しい内容はまた黎とヨミちゃんが大きくなってから説明すると言って女の人は帰っていったそうだ。
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