第4話
まんじりとしながら数日が過ぎ、部屋に一人の男がやって来た。
その男にはどこか見覚えがあり……
「では、殿下の診察を始めます」
という言葉で、気が付いた。
この男は、リリアラが医者だと言って手配したあの怪しげな男だ。
父上の命令で来たということは、本当に医師だったらしい。
それから、男の診察を受けた結果――――
わたしの――――病気が、発覚した。
リリアラが言っていた恐ろしい病気とはまた違い、症状も軽く、
治療が済むまでは軟禁。そして、
部屋へ出入りするのは男ばかり。
強制的な禁欲の日々が続き――――
父上に呼び出され、告げられたのは――――
「ラスティード。其方を王太子から降ろすことにした」
「なっ!? どういうことですか父上っ!?」
思わず食って掛かった俺に、
「病持ちの者になど、王は継がせられぬ」
向けられたのは冷たい表情と声だった。
「びょっ、病気はもう治療済みでっ」
「無論、快癒したとの報告は既に受けておる」
「それならっ」
「ラスティード。其方が病を移した者は、幾人いたと思う?」
「は?」
「そなたが迂闊にも病を移され、無自覚とは言え、感染の
「へ? わ、わたしが関係を持った相手はせいぜい四十名程ですよっ!?」
「言ったであろう。お前が
「そんなっ!?」
声を上げた俺を、ぎろりと睨む父上。
「そして、お前が勝手に婚約を破棄し、衆目の前で恥を掻かせようとしたリリアラ・フォルテ嬢にも慰謝料と、名誉毀損の賠償金を払っておいた。無論、お前の不貞と病が原因で、王家が有責としてな」
「あの女のせいでっ、わたしはっ」
「フォルテ嬢をあの女呼ばわりするなど許さぬぞ!」
「っ!?」
「彼女の功績は大きい。病の蔓延防止策を打ち出した功労者だ」
「こ、公衆の面前であんな恥知らずなことを言った女ですよっ!?」
「フォルテ嬢を追い詰め、お前の言う、その恥知らずだという発言をさせたのは誰だ? 王族の暗殺を企てたとなれば、一族郎党家門断絶の沙汰となる。彼女は、自らの身とフォルテ家を守ったに過ぎん。その結果が、これだ。お前に文句を言う資格があるとでも思っているのか? あのとき、フォルテ嬢の提言通りに場を改めていれば、このような大事にならず、秘密裡に処理できたものを。お前の評判は、すこぶる悪い。国民へと性病を撒き散らした、下の緩い王子として、酷く有名になっている」
「そん、なっ!?」
「そして、新しい縁談は軒並み断られている。一体誰が、そんな最低な王子に嫁ぎたいと思う?」
「わ、わたしはっ……」
「白の婚姻か、お前が去勢をするなら嫁いでもいいという家はあったが、どうする?」
「い、嫌ですっ!? そんなの、結婚する意味が無い。絶対に嫌だ!!」
「こんなことになるのだったら、もっとフォルテ嬢の嘆願へと耳を傾けておくべきだった。今更、遅いがな。お前の王太子位は剥奪とする。この、恥曝しめ」
父上の、酷く冷たい眼差しと言葉とが痛い。
こうして俺は、病気持ちの王子として離宮に幽閉されることになった。
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離宮での日々は、部屋で軟禁されていた日々と似ている。
世話役は男ばかり。女は俺のいるこの部屋には、入って来ない。
そして、汚いものを見るような蔑みの視線。
病気は、とうに完治したというのに――――
このような日々が続いて、俺は――――
リリアラ・フォルテに会いたいと願い出た。
毎日毎日、何度もそう頼んで――――
ある日。リリアラ・フォルテとの面談の日時が告げられた。
それからは、リリアラと会える日を指折り数えて過ごし――――
カツン、と聴こえた足音に高鳴る期待。
この部屋には、男しか来ない。そこへ聴こえたヒールの音。
ゆったりとした足音に、焦らされるような焦燥感が募る。
早く、早く来いリリアラ! と、叫びたい衝動をどうにか堪える。
そして、カチャリとドアが開いた。
楚々とした装いで部屋へと入って来たのは、リリアラだった。
知らず、ゴクリと鳴る喉。
この部屋には、数ヶ月間ずっと男しか出入りしなかった。女の姿を見るのは、あの忌々しい屈辱のパーティーの日以来のこと。
以前のリリアラには全く食指が動かなかったが、今のリリアラからはいい匂いがする。そして、以前よりも断然肌の色艶が良い。
有り
「り、リリアラ……」
久々に呼んだ声は、緊張のせいか少し掠れていた。
「呼び捨てにしないで頂けます?」
返ったのは、冷たい返事。
「それで、お話とはなんでしょうか? 手短にお願いします」
「っ……」
想像とは違うリリアラの態度に苛立つが、その怒りを抑えて口を開く。
「また、二人でやり直さないか?」
できるだけ優しい声で言うと、驚いた顔を見せるリリアラ。
「お前も、大変だっただろう?」
「っ!? ……そん、なっ……」
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