第232話 リスティル(ちびっ子)の場合 ①



  あたいの名はリスティル、女海賊団ドクロのリリーを纏める女船長さね。


 ドワーフ族の女だから見た目は幼いけどね、これでもちゃんと成人してんのさ。


 酒だって飲めるし、男だって………………。


 けどまあ、大概酒があたいのお供だね、酒を呑むのがドワーフってなもんだよ。


 今日もまた、海から丘に上がって町の酒場へレッツらゴー。


 飲むよー、あたいはー。


 そんで、あたいよりも酒が強い男を引っかけて、ベッドで乱れるのさ。


 恥ずかしい事言わせんなって、まあ、そんな感じで毎日好きにやってるよ。


 今回のお仕事は、要人の護衛兼輸送。あたいにとってはこんなの簡単さね。


 仕事も半分終わり、帰りの事も考えているんだけど。


 ああ、ちなみに今回の仕事はいつもの輸送、ドニっておっさんがお客だよ。


 そういやあ、あたいの事「ちびっ子」って言う奴が居るけど。


 それを許しているのはジャズっていう兵隊さんだけだかんね。


 そこんとこ間違えて貰っちゃ困るよ、あたいは海賊団を纏める船長なんだからね。


 今はドニのおっさんの方の仕事が終わるまで、この酒場で呑んでるとこだよ。


 ここはセコンド大陸の南に位置しているレダ王国だよ、そこの港町へ船を停泊させて、プロマロックの港町の酒場へ繰り出したって訳。


 それにしても、ここの男客はホント根性が無いねえ。


 「も、もう飲めねえ~。」


 「はいっ、船長の勝ち~~!」


 あたいは今、この酒場の客相手に飲み比べをしている。


 まぁ、余興だよ、こんなのはさ。


 ドワーフに酒の勝負を仕掛けるなんて馬鹿な男だよ、まったくさ。


 「さあ! うちの船長に飲み比べで勝てる猛者はいないのかい? 勝ったら船長を好きにできるよ~!」


 ドクロのリリーの船員たちが、周りに声を掛け、囃し立てている。


 「せんちょ~う、もう少し手加減してくださいよ~。でないと何時まで経ってもオボコですよ~?」


 「ば、馬鹿!? 余計な事言うなってば!!」


 まったく、この子たちは! そりゃあ女海賊なんてやってると、男が寄り付かないけどさ。


 だからこそ、こうした酒場で羽目を外して飲んで、男を引っかけるんだが。


 「船長~~っ、あたしは今夜この男としとねを共にしますんで。」


 「はいはい、ごちそうさん。明日の朝までには船に戻ってくるんだよ。いいね。」


 「あいあいさ~~。」


 まぁこんな感じだ、うちの女共は。軽いというか何というか。


 「あたいは身持ちが固いのさ、そんじょそこらの男じゃ満足出来やしないのさ。」


 「せんちょー、一人で何言ってんの?」


 「何でもないよ、聞き流しな。」


 「あいあいさ~。」


 あ~~むしゃくしゃする、こういう時は飲むに限るね。


 「マスター! もう一杯。」


 カウンターでコップを拭いている酒場のマスターに注文する。


 「あいよ。」


 「金は後で纏めて払うからさ、じゃんじゃん持ってきてよ!」


 「程々にしときなよ、お客さん。」


 「いいの! 今日は飲みたい日なの!」


 こうして、一人で酒を煽ると、寄って来る奴が居るものさね。


 「お嬢さん、俺と酒の飲み比べをしようか? 買ったらお嬢ちゃんを好きにして良いんだよな?」


 来た来た、こういう馬鹿が。まあ暇つぶしには丁度いい。


 「ああ、いいよ。やろうか。」


 こうしてまた一人、哀れな男があたいに勝負を挑み、己の力量を思い知る。


 「じゃあいくよ~、まずは一杯目!」


 ドクロのリリーの船員が、面白がって司会進行をやっている。


 「いけいけごーごー」とか、「船長がんばれ~」とか、好きに言っている。


 場を盛り上げる事に、一役買っている事は間違いないけどね。


 「ンゴ、ンゴ、ゲフッ、まだまだいけるぜ!」


 「あたいも序の口だね。」


 5杯目。


 「あ、あれ、お嬢ちゃんが三人に見える?」


 「まだまだ。」


 10杯目。


 「も、もう駄目だ。うっぷ、は、吐きそう。」


 「だらしないねえ、もう終わりかい?」


 こんなのまだまだ、あたいは寧ろ飲み足りないくらいだよ。


 女船員があたいの腕を掴み、高々と上げる。


 「勝負あり! 船長の勝ち~~!!」


 「まあ、こんなもんだね。」


 あたいはまた男との酒の飲み比べで勝利した、何だか虚しい気がするけどね。


 あまり深くは考えない、今を楽しめればそれで良いのさ。


 それが海賊ってもんだろ? 別に強がりじゃないやい!


 「はぁ~~、何処かに素敵な男との出会いはないもんかねえ~。」


 「船~長~~、そういうの諦めた方が良いですよ。船長可愛いけど、酒癖が悪くて。」


 「余計なお世話だよ、あんたもさっさと適当な男とよろしくやってな。」


 「あれ~? 知らないんですか船長~、わたしは今は男に興味が無いですよ。」


 ふーん、そう言う時もあるんだねえ。今はって事は、今後興味が沸くって事だろうね。


 そんな会話をしていたら、不意に妙齢のおねーさんに声を掛けられた。


 「随分とまあ暴れているみたいね、お嬢ちゃん。」


 「別に暴れる程では無いけどね。」


 そのおねーさんは、生唾を飲み込む程の、絶世の美女だった。


 おっぱいも大きく、腰のくびれが良い感じで、お尻の肉付きが程よい。


 身長も高く、男に困る事など無かっただろうに。


 そんなおねーさんが、あたいに声を掛けた。


 「そんなにお酒で勝負したいのなら、私と飲み比べをしない?」


 おねーさんはそう言うと、不敵な笑顔を見せて、あたいの向かいに座った。


 「おねーさん、どうなっても知らないよ?」


 「うふふ、お手柔らかにね。」


 こうして、おねーさんとの酒の飲み比べ勝負が始まったのだった。


 


 


 

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