第231話 ドニの場合 ⑤
カナン王国とレダ王国の戦争、先ずはそこから話を聞く事にした。
プロマロックの盗賊ギルドが得た情報に寄れば、事の発端はこうだ。
ある農耕地を巡って、カナンとレダは毎年のように小競り合いをしているそうな。
といっても、怪我人も無く、死者も出ない大人しい小競り合いだったらしいが。
まぁ、いわゆる領土問題ってやつだな。どこの国でも一つくらいはある事柄だ。
ある時、カナン王国にちょっとした政変が起きた。
カナン王の相談役の賢者と、新しく城に来た妖術師が相談役を変われと言った。
カナン王は余興好きの為、二人に魔法勝負をせよと言い、勝った方を相談役に任命するとした。
そして、勝ったのが妖術師だった。
賢者はその立場が悪くなり、カナン王国での居場所が無くなっていった。
そして新たに相談役になった妖術師が、カナン王に助言を与えるようになった。
そして去年、いつもの様に農耕地での小競り合いの季節になり、レダ王国は軍を派遣し陣を敷いていた。
レダ王ははっきりいって駄目王で、カナン王国から贈られたボードゲームに興じていた。
また、その息子の第一王子は娼館通いに狂い、第二王子は連日連夜パーティーに興じていた。
まともなのは第三王子のメディオン様くらいで、カナンとの小競り合いにも参加していたそうな。
で、ボードゲームに興じていたレダ王の耳に早馬の知らせが届く。
農耕地での戦で、レダ軍500は全滅したとの事だった。
第三王子は無事に帰還し、怪我を負っていたが命に別状はなかった。
事態を受けて、レダ王はカナン王国に使者を送り、返事を待った。
だが、その使者は首を切り落とされた状態で送り返された。
これが、カナンとレダの戦争の始まりだそうな。
「俺が思うに、カナンの相談役ってのが怪しいと思うんだが。」
「その通りだよ、妖術師の名前はダスト。奴がカナンに来てからはレダ王国は負け続きさね。」
「なあ、カナンとレダって、そんなに仲が悪いのか?」
「いや、そうでもない。寧ろ関係は良かった筈だよ。」
「じゃあやっぱり。」
「ああ、妖術師のせいでカナンはおかしくなっちまった。」
「うーん、そもそもカナン王は何故妖術師の相談に応じ続けているんだ?」
「それは解らない、けど、カナン王は妖術師の言いなりらしいよ。」
「ふーん、言いなりねぇ。」
「話を続けるよ。」
ギルマスのリストの話を要約すると、今度は聖リーアベルト王国が出張って来たらしい。
聖リーアベルト王国は、カナン王国とレダ王国の丁度中間に位置している大国である。
カナンとレダの戦で、多くの死者が出てしまい、それを見かねたリーアベルトが仲裁に割って入って来たらしい。
もっとも、リーアベルトにまで戦火が広がって来たから、仲裁に動いたというのがもっぱらの噂だが。
ところが、カナン王国はリーアベルトの仲裁案を拒否、レダ王国との戦争は継続する運びとなった。
今となってはどうでもいいが、カナン王国の王様の真の目的は、レダ王国ではなく聖リーアベルト王国なのではないか、との見解だった。
そこでレダ王国は、関係各国に支援を要請した。
応じたのは婚姻関係を結んだ他国、そこからの援軍が来た事により、何とか膠着状態にまで押しとどめる事に成功したそうな。
第三王子も前線に立ち、大いに奮起していたそうな。
で、相変わらず王と第一王子と第二王子は駄目さ加減に拍車が掛かっていた。
そんなだから、第三王子メディオンに人気が集まり、どうにか他国からの援軍も協力的だったそうな。
「まあ、でなければ、誰がこんな王様の為に戦うんだって話だよな。」
「違いないね。」
で、カナンとレダは今の状況になったという事らしい。
やれやれ、アリシア王国との国交を狙っているって事は、完全に軍事力目的じゃねえか。
「なあ、リストさん、この話、アリシアとしてはちょっと乗れんわ。」
「どうしてさ?」
「レダ王国は戦争をやってんだろ? そんな状態の国と国交を結んだら、アリシアの軍も派遣して欲しいって事だよな。」
「まあ、誰がどう見てもそうなるね。」
「やっぱこの話、乗れんわ。アリシアだって万能ではない。ましてや軍隊だって。」
「駄目かい?」
「駄目だな、今のままじゃ。最低限第三王子メディオンが国王にでもなれば、話は別だが。」
「そりゃ無いね、レダ王が死んだら次は第一王子、それが馬目なら第二王子が居る。王位継承権が一番低いんだよ、メディオン様は。」
「じゃあこの話は無だ、アリシアも暇じゃない。上にはありのままを報告させてもらう。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それじゃあ困るよ、あたしだってレダの上の人からくれぐれも頼むって言われてるんだから。」
「それはそちらの都合だろ、俺には関係ない。」
「そこを何とか。」
「駄目だ、諦めろ。アリシア王国は組む相手を見極めた、残念だが。」
「………居るじゃないか。」
リストが何やらぼそりと呟き、俺にしがみついて来た。
「居るじゃないか! アリシアには、英雄が! その人に頼んで。」
「お前なあ、それこそだよ。アリシアの英雄だって万能ではない。解るだろう。」
「頼むよ、同じ盗賊ギルドの仲間じゃないのさ。情報だって教えただろう。」
「それには感謝してるが、それとこれとは話が別だ。」
よし、もう話は済んだ。やる事はやった、俺の仕事はここまで。以上だ。
アリシア王国は、レダ王国と組む必要性を感じない。軍事力だけをアテにされても困る。
俺は帽子を深く被り、プロマロックの盗賊ギルドを後にした。
その後ろで、ギルマスのリストが「薄情者~~!」とわめいていた。
俺だって協力したいが、国と国の話だ。簡単じゃねえんだよ。
「俺はさ、外交官じゃねえんだよ………………。」
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