第225話 銀影の場合 ④
集いの森を出発してから二日、ようやく目的地に到着した。
「ここがプロマロックの港町か、中々賑わっていそうだが。」
「こんなもんじゃないわよ、いつもの町なら。」
「と言うと?」
「やっぱりあれよね、戦争やってんだから皆気分が沈んでいるわね。」
「ああ、まあそりゃそうか。」
ふーむ、活気があるように見えて、実はそうでもなかったって感じか。
さて、ここにこうしていても始まらない。まずは情報収集だ。
「よし、酒場へ行こう。そこで情報を集めないとな。」
「あ~お腹ペコペコ、早くご飯が食べたいわ。」
「わんわん。」
「わかったわかった、じゃあ早速向かうか。」
町の入り口から中へ入り、周りの様子を見てから行動した。
やはり戦争を身近でやっているからか、人々の顔は沈んでいる。
所々では活気に満ちた声が飛んでいたが、それは商人とかの場合のようだ。
どこでも、商いってのは逞しいもんだな。
何か土産に買っていこうかな?
まぁ、それは情報を集めてからだ。
道ゆく人に挨拶をすれば、ちゃんと返事をしてくれる。
気さくな町人が多く、戦争はしたくないという事が見て取れる。
そりゃそうだろう、誰だって戦争なんてしたかないだろう。
プロマロックの港町は戦争に巻き込まれているって感じだな。
戦火がここまで広がらなければいいな。
「あっ、あったあった。あそこが酒場、うみねこ亭よ。」
「おお、ほんとにあった。」
「わん。」
「何よ! 私が信用出来なかった訳?」
「そうじゃないが、お前、鼻歌とか歌いながら案内するから、てっきり適当に案内するもんだと思ってさ。」
「失礼しちゃうわね! フィリーちゃんはちゃんと約束は守る妖精なんだから!」
「はいはい、わかってるよ。さくらんぼのブランデー漬けだろ? 奢ってやるから大人しくしてろよ。」
「分かってるなら良いのよ。分かってるなら。」
「わんわん。」
「よしよし、はなまるにも何かご馳走してやるからな。」
「わん!」
はなまるは嬉しそうだ、フィリーはまあ、いつもの感じだな。
陽気で気さくな妖精って感じだ、口数も多いし、こいつホントに妖精か?
扉を開けて中へ入り、店内の様子を見る。
「あら~~ぁ、みんな活気が無いわね~。」
「くう~ん。」
「仕方ないさ、ご近所で戦争状態なんだし、何時ここが戦争に巻き込まれるか解らないし、みんな気分が落ち込んでいるんだよ。」
しかし、こんな状態の客で、俺の欲しい情報は得られるだろうか?
こればっかりは聞いてみないと解らんな。
俺達はテーブル席の方に座って、女給のお姉さんがやって来るのを待つ。
セルフサービスじゃない筈だ、しばらくするとウエイトレスのお姉さんが来た。
「あらいらっしゃい、フィリー、お友達?」
「違うわよ、こいつ等私が居ないと駄目なのよ。」
「あっはっはっはっはっは、フィリーはいつもの?」
「私がここに来たら、さくらんぼのブランデー漬けしかないでしょ。」
「確かに、それで? 他の方は?」
俺に注文を聞かれ、取り敢えずエールを注文した。
「あ、それと、この相棒の犬にも何かやって欲しいんだが。」
「そこのわんちゃん? 良いわよ、料理で余った材料で、骨付き肉があったと思うから、それでいいかしら?」
「わん!」
「それでお願いします。」
「はいはい、他には? 何か食べますか?」
「じゃあ、パンとチーズのサンドイッチを一つ。」
「はい、かしこまりました。全部で銀貨1枚と銅貨4枚です。」
俺は財布からお金を取り出し、ウエイトレスへ支払う。
「まいどどうも、少し待っていて下さい。直ぐに持ってきますから。」
言いながら、ウエイトレスのお姉さんは厨房へ声を張り上げ、他の客のところへ行った。
「よーし、これで取り敢えず腹は膨れるな、あとは………………。」
周りの客層を見る、基本的には男の客が多いが、女性客も居る。
酒場なので、子供はまず居ない。
冒険者風の男や、船乗りっぽい人、娼婦っぽい女性、あとは。
「ふーむ、どう見ても兵隊さんっぽいのが居るな。」
「解るの? ぎんかげ。」
「ああ、薄々は気付いている。俺達がこの店に入った時から、目線を向けて来ていた。」
「何かしら? 私達に用事でもあるのかしらね?」
「解らん、が、兵士の募集あたりじゃないか?」
もしくは、間者の情報収集か。
やれやれ、やだねえ。戦争ってのは。
まず疑いの目で見やがる。
普通の状況じゃないのが戦争状態だ、早いとこ終戦してほしいところだな。
「なあフィリー、カナン王国とレダ王国の戦争って、そもそも何が原因なんだ?」
「さあ? あれじゃない、お決まりの領土を寄越せっていう。」
「ふーむ、領土ねえ~。」
何きっかけで戦なんて起こったのだろうか?
必ず原因がある筈だ、その情報に詳しい人に会えればここでの情報収集は終わったも同然なんだが。
厄介事に首を突っ込む物好きは、まず居ないだろう。
噂程度でもいい、兎に角情報が欲しい。
カナンか、レダか、その両方か。
そう言えば、東のカナン、西のレダってのを覚えているが、中央には何があったっけ?
「なあフィリー、セコンド大陸の南部で、カナン王国とレダ王国の中間に位置している国ってどこだったかな?」
俺が尋ねると、フィリーはサクランボのブランデー漬けを頬張りながら答える。
「なにあんた、知らないの? カナン王国とレダ王国の間には、聖リーアベルト王国があるのよ。どう? 物知りの私が居て良かったでしょ?」
「ああ、確かそんな名前の国だったな。」
俺達が聖リーアベルト王国の名前を口に出したところで、奥の席に座っていた兵士が立ち上がり、こちらへやって来る。
「お前達、今リーアベルト王国と言ったか?」
「ん? ええ、言いましたけど、それが何か?」
俺が返答していると、兵士は突然武器を抜き、切りかかって来た。
俺は咄嗟の判断で剣を小太刀で受け止め、兵士の後頭部へ手刀を決め、気絶させる。
ドサリッと兵士が倒れ、その場は騒然となったが、酒場の客はみんな見て見ぬふりを決め込んだ。
「やっぱり問題があるんじゃねえか、他国の名前を出しただけでこの有様かよ。」
やれやれ、落ち着いて食事も出来んとは、何か厄介事の匂いを感じつつ、俺はサンドイッチを頬張るのだった。
「何かもう、ホットスタートの予感しかしない。」
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