第215話 聖戦 ①



 さて、困った事になった。


不完全とはいえ、混沌の王カオスが復活してしまった。


 ここでTRPGなんかだと、魔神王とかのラスボスが復活してしまった時点で、世界が混沌に覆われて問答無用でゲームオーバーって事になる。


だが、この時点ではそれが無い。


何故なら不完全な復活だからだ。


もし完全な形で復活したら、即、俺はここでの人生を終了する事になると思う。


それが無いって事は、勝機はそこにあるって事らしい。


だが、俺の攻撃は通じない、障壁か何かで弾かれるだけだ。


 俺の持つゲーム知識を総動員して思い付く事といったら、ある特定の武器でなければダメージを与えられないという事ぐらいだ。


それは何か、答えはもう出ている。


過去にシャイニングナイツの隊長、シャルロットさんが言っていた。


混沌の王カオスを倒すには、聖剣サクシードでなければならない、と。


残念な事に、俺はサクシードを持っていない。


持ち歩いているとすれば、やはりサーシャさんだろうか?


どの道、こちらの攻撃が通用しないのならば、ここは一旦退くべきだろう。


この混乱の中、おそらくサーシャさんも勇猛果敢に魔物に相対しているだろう。


「と、言う訳で、拙者はここで退かせてもらうでござる。」


アイテムボックスから煙玉を取り出し、地面に投げる。


「何が、という訳だ! 儂と戦え!」


「御免被るでござる。」


投げた煙玉から煙幕が噴出し、辺りを白い煙が覆い尽くす。


「今のうちに逃げるでござる! 御免!」


俺は一目散に逃げ出した、後ろは振り向かない。


通用する武器も持っていないのに、戦い続ける意味は無い。


「フフフ、良いのか? 儂を放って置いても。」


 ボストロールの周りに無数の魔法陣が展開され、そこから続々とモンスターが召喚されていた。


「ち、大量に魔物を召喚するか。」


まあ、そうなるわな。


 キメラやサイクロプス、オーガなど様々なモンスターが召喚されていく。その中にはグレーターデーモンまで居た。


不味いな、グレーターデーモンはラスボス級のモンスターだ。それが三体も。


だが、今はサクシードを手に入れなければ。魔物の相手をしている暇は無い。


乱戦になっている所を見る、居た! サーシャさんだ。やはり戦っている。


俺はサーシャさんの居る所を目指してダッシュする。だが。


「グレーターデーモンよ、巫女だ。巫女を探して殺せ!」


「御意。」


グレーターデーモンの一体が、この場を離れ建物の中へと消えてゆく。


「ち、テレポートで移動か! 急がねば!」


ボストロールがグレーターデーモンに命じ、巫女を探し始めた。


「不味いぜ、こいつは!」


急がねば、手遅れになる。


俺は全力疾走で駆け出し、サーシャさんが居る場所へ向かう。


途中、モンスターの妨害があったが、邪魔をするモンスターを蹴散らしながら進む。


その甲斐あって、いとも容易くサーシャさんの居る所へ着いた。


「サーシャ殿!」


「え!? 誰?」


 突然声を掛けられ、サーシャさんがびっくりしていたが、俺を見るなり安堵したのか、声に明るさが宿っていた。


「その声、ジャズ殿ね。どうしたの?」


「急ぎの事ゆえ、手短に話す。聖剣サクシードをお持ちか?」


「聖剣? 今は持っていないわ。巫女様に預けているわ。」


なんと! ここには無いとな!


「解ったでござる、拙者は巫女殿を探すでござる。」


「お願いできる、私は今ここを離れる訳にはいかないのよ。」


「あい分かった。それでは御免!」


ここに聖剣は無かった、焦りだけが募る。


グレーターデーモンよりも先に巫女様を見つけねば。急ごう。


俺はダッシュで建物の中へ駆け出す。祈りの間までノンストップだ。


「間に合えば良いが、誰かが巫女様を守っていてくれれば。」


そう思いつつ神殿の内部へと突入しようとしたところで、妨害があった。


「ここから先は一歩も通さん。我に付き合って貰うぞ、人間。」


「ち、グレーターデーモンか!」


三体の内の一体が、俺の目の前に立ちはだかる。


こいつ強いんだよな、厄介な相手だ。タフだし、魔法も使うし。


「急いでいるってのに、そこをどいて頂けませんかね。」


「フッ、無理だな。出来ぬ相談だ!」


言い終わると同時に巨大な槍で突いて来た、俺はそれを半身を捻って回避。


「時間を掛けていられん! 最初から全力でいく!」


アクティブスキルのフルパワーコンタクトはまだ有効、ならば!


「アクティブスキル、鉄壁を使用!」


よし、これで討たれ強くなった。「スピード」の効果は切れて今はクールタイム中。


「続いて精神コマンド、必中と熱血を使用!」


更にアイテムボックスからアサシンダガーを取り出す。


こいつはヒットしたらクリティカル率100%だ。こいつで決める。


まずは接近戦に持ち込む、攻撃を躱されたグレーターデーモンは魔法を唱え始める。


「遅い!」


魔法の詠唱が完了する前に、俺はジャンプし高度を上げる。


狙いはグレーターデーモンの首、切り落とす!


そうすれば一撃で倒せるからだ。忍者の会心の一撃ってやつだ。


だがグレーターデーモンの魔法は完了し、俺に火の玉が襲い掛かる。


「ファイヤーボール!」


「く!?」


だが残念、鉄壁の効果でダメージは殆ど無い。


これならイケる!


 ダメージは多少負ったが、勢いを殺さずジャンプ。グレーターデーモンの頭の位置まで上がる。


「その首! 取った!」


アサシンダガーを逆手に持ち、そのまま振り抜く。


ズバッと音がして、ゆっくりとグレーターデーモンの首から上がズレ落ちた。


 ボトリと地面にグレーターデーモンの首から上の頭が落ち、断末魔を上げる事無く絶命した。


ゆっくりと後ろへ倒れ込み、ドシンと音を立てて崩れ、砂へと変わって行った。


「手間取る訳にはいかんのでな、さらば!」


グレーターデーモンの一体を下し、俺は神殿内へと突入する。


「急がねば、もう一体のグレーターデーモンが巫女様を見つける前に。」


俺は神殿の廊下を走る。間に合ってくれ。



  神殿の最奥 祈りの間――――


 

 巫女は外の気配は察知して、祈りを捧げていた。


「戦いが早く終わりますように。」


だが、その声も虚しく扉の前に現れたのは、一体のグレーターデーモンだった。


巫女はその邪悪な存在を感じ取り、振り向きざまに聖なるナイフを手に構える。


「出て行きなさい!! ここはあなた方が居て良い場所ではありません!」


「フッフッフ、威勢がいいな。小娘。誰も助けになど来ぬよ。」


「それならそれで、わたくしがお相手します。」


気丈に振舞ってはいたが、巫女は全身の震えが止まらなかった。


(怖い。)


巫女の率直な心の声だった、だがここで、思いもよらぬ者が現れた。


祈りの間の扉を勢いよく開け放ったのは、一人の漢だった。


「いや~~、参った参った。わしとした事がここに予備のブーメランパンツを忘れてしまったぞい。」


現れたのは、筋肉ムキムキのボディービルダー。アドンだった。


「おや? お取込み中だったかの?」


「アドンさん!」


「何だ貴様は? 邪魔だ、消えろ。」


「む! それが初対面で言うセリフかの? どうやらお仕置きが必要らしいのう。」


 グレーターデーモンはやって来た謎のボディービルダーを無視して、巫女に刃を向ける。


「おっと、困るなあ~。その様な物騒な物は仕舞って頂きたいのじゃがのう。」


「邪魔だと言っている。」


アドンはグレーターデーモンと巫女との間に割って入り、身構える。


「貴様にも味合わせてやるぞい! 筋肉の素晴らしさをな!!!」


「そんなものに興味は無い、大人しく下がるのならば、そうだな、苦痛を味わう事無く地獄へ送ってやろう。」


言葉を交わしつつも、アドンは全身に筋肉の躍動をみなぎらせる。


「どうやら、口で言っても解らんようじゃな、ならばこそ、愛のパワーで筋肉の素晴らしさを教えてやろう。」


巫女を背に、アドンは仁王立ち、にこやかに相手を見据え、白い歯が光る。


ここに、アドン対グレーターデーモンの戦いの火蓋が切って落とされた。


はたして、勝負の行方は如何に。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る