第214話 大司祭の正体 ③

  


   エストール大神殿 大広場――――



 広場では、サキ小隊とナナ小隊が一般人の避難誘導をしていた。


 それを守る形でシャイニングナイツと予備隊、冒険者組が魔物の攻撃から防衛線を展開していた。


「ニール! そっちの状況は?」


「まずいですね! モンスターの数が半端ないです!」


「リップさん! ニールの援護を!」


「了解! 今いくわよ、ニール!」


「サキ! あとどれくらい避難させればよろしいんですの?」


「半分は避難した! もう半分は今誘導しているところだ!」


「こちらも余裕はありませんわよ!」


現場は混乱を極めていた、たった二個小隊の避難誘導では限界があるのだ。


そこへ、ガーネットから情報が入った。


「サキさん! 一般信者達の中で神官戦士の方が居るみたいです! こちらを支援すると言ってきています!」


「それは助かるけど、今は避難が最優先よ! その人達も護衛にまわして頂戴!」


「はい!」


冒険者組も必至になって一般人を守っていた。


「姐御! 右からモンスターの増援が!!」


「まったく! よくもここまでモンスターの数を揃えたわね!」


「こっちはこれ以上持たないっすよ!」


「ラット! ガーネットと連携しなさい! 一人で戦わないで!」


「解ってるっすけど、モンスターの数が!」


「ラット! 今そっちに行くわよ! もう少し耐えて!」


「急いで欲しいっす、ガーネット早く! こっちはもう!」


「泣き言なんて聞きたくないわよ! あんたの後ろから弓を射かけるから、兎に角数を減らすわよ!」


「ガッテン!」


その更に前線で、シャイニングナイツと予備隊が魔物と交戦に入っていた。


「予備隊は一般人の護衛を! モンスターの相手は聖騎士隊で迎え撃ちます!」


「「「 はい! 」」」


「それにしても、どうしてこうもモンスターの数が?」


「何処から増援が送り込まれてくるのかしら?」


「マーテル! 上空から援護! 他の者は前線ラインを維持! いいわね!」


「「 はい! 」」


 この場の指揮を執っているのはサーシャだが、彼女もまた、こうした集団戦は初めてでは無かった。


「あの頃と比べると、まだマシってところかしら。 だけど、何か嫌な予感がするのよね。」


モンスターの増援も次々と増え、戦局は膠着状態に陥っていた。


「やはり、一般人を守りながらってのは、キツイわね。自由に動けないもの。」


サーシャは巫女の事も気がかりだったが、この場を離れる訳にもいかなかった。


兎に角、魔物の数を減らす作戦を指示していた。


「弱いモンスターから仕留めて! 堅い奴は聖騎士隊に任せなさい!」


「はい!」


ここで一旦、サーシャは辺りを見回した。


 そこには、一般人に紛れて義勇軍のメンバーがコソコソと逃げているのを目の当たりにした。


「だらしないわね! それでも義勇軍なの?」


「いや、俺たちゃ今、酒に酔ってるからさ、戦いに参加したって役に立たないかもよ。」


「情けないわね! もういいわよ! 逃げなさい!」


「へっへっへ、すまねえな。嬢ちゃん。恩に着るぜ。」


 ペコペコしつつも、飄々ひょうひょうと逃げる義勇軍を尻目に、サーシャ達シャイニングナイツの面々は、義勇軍になにも期待してはいなかった。


戦えるのに逃げる者は、逃げれば良い。という考えだったからだ。


これでまた、義勇軍の評判はガタ落ちなのだった。


 ここで更に、スケルトンのスケバンは異様な空気を感じていた。


「おや? 姐さん。ちょっといいかい?」


「サキ隊長と呼べ! 何だ?」


「うーん、さっきから思ってたんだが、ここの空気。」


「何だ? どうした?」


「うーん、あのさあ、どうもこの場所、瘴気が充満してるっぽいよ。」


「何を馬鹿な、ここは女神教会の総本山、エストール大神殿だぞ。」


「いや、解ってる。解ってるけど、妙に俺はそう感じるんだよね。これが。」


サキはここでふと考えた、スケバンの言う事はもしかしたら一理あるかもと。


でなければ、こうも魔物の増援がひっきりなしに来る筈が無いと思ったからだ。


「瘴気の元凶は? 何処だ?」


「うーん、解んねえ。だけど、おそらくあの大司祭が居た辺りだと思いますよ。あそこから妙な気配が漂ってくるもの。」


「妙な気配?」


 サキは辺りを見て、火刑台がある方を見ると、そこには大司祭だったモノが居て、それに相対する銀影が様子見をしているところだった。


「あの大型モンスターは銀影様に任せて、我等は避難誘導を一刻も早く終えるぞ!」


「了解です。隊長。」


 スケバンは何か引っ掛かる事があるのだが、瘴気が充満しているこの状況は異常だと思うだけだった。


「ともかく、戦いながら一般人の避難を最優先しなければならん。という事か。やれやれ、忙しい事だ。」


スケバンは一人ゴチながらも、サキ隊長の指示に従うのだった。


しかし、スケバンは気付いていた。ボストロールから異様な気配が漂っている事に。



  ジャズ視点――――



 目の前の事態に、俺は戦慄した。


ボストロールの気配が、明らかに変化したからだ。


「この異様な気配、まさかとは思うが、ひょっとして。」


この、肌を突き刺す様なビリビリとした空気。ボストロールから漂って来る気配。


「間違いない、こいつ、何かが変わりやがった。」


先程の攻撃は弾かれた。まるで堅い石かなにかに小太刀を止められた様な感覚。


「障壁か? 或いは単純な防御力か?」


解らないが、兎に角不味い状況なのは確かだ。


どこか落ち着かない、そんな感じがする。


丁度そこへ、フィラともう一人の女性が、建物から出て来ていたのを確認した。


「お待たせしました! 私も戦います!」


「うわっ!? なんじゃこりゃ!? あっちもこっちもモンスターだらけじゃん!」


フィラ達が来たか、だが今のボストロールの相手は俺でさえ苦戦すると思う。


ここはフィラ達には逃げ遅れた人達のサポートをお願いしよう。


「フィラ殿、ここは拙者に任せて、そなたらは一般人の避難誘導の手助けをしてくださらんか。」


「しかし、私は………。」


「頼むでござる、これでは満足に戦えないでござるよ。」


 フィラは考え込んでいるが、もう一人の女性はコクリと頷き、フィラの手を引いてサキ隊長たちの所へと行こうとしていた。


「フィラ、一般人の安全確保も立派な行いだよ。行こう!」


「でも、ジャ…………銀影さんは。」


「拙者の事なら心配ご無用。さあ、ゆかれよ!」


 フィラは最初は渋っていたが、結局リアとか言う女性に連れられて、サキ隊長達の方へと走って行った。


「ふう~~、これで良い。今のボストロールはおそらくフィラ達には荷が重いだろう。」


まあ、俺だってどうなる事か解らんが。


兎に角、やってみるしかないか。アイテムボックスからクナイを取り出し、投擲。


狙いはボストロールの顔面、勢いよく飛翔したクナイは、ボストロールに直撃。


だが、「カキンッ」という音を立てて、地面にクナイが落ちた。


「やはり障壁か何かか。」


魔法か? それともスキルか? ボストロールにそんな芸当は出来ない筈だ。


手をこまねいていたら、ボストロールが突如、嗤いだした。


「ふ、フフフ、フッフッフ。」


「何が可笑しいでござるか?」


「フフフ、もう手遅れだぞ、人間。儂はもうボストロールではない。」


何!? どういう事だ? まさか!!


「カオス………………とでも言いたいのか?」


「フフフ、その通りだ人間。儂はたった今、カオス様の媒体になったのだ。そして、混沌の王様は、ここにおられる。フフフ。」


ち、やはりか。手遅れってのは多分本当だろうな。


混沌の王か、間違いなくラスボスだな。


だが、それにしては些か弱々しい感じがする。


 周りの気配は明らかに変化しているが、これが混沌の王に依るものだとしたら、おそらく………………。


 完全復活………………ではなかろう。こんなものじゃない筈だ、カオスが復活したら。


だが、危険な事には変わりない。


「さて、どうしたものか。」


距離を取って様子見だな。そこからだ、次の動きに出るのは。
















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