第213話 大司祭の正体 ②
さて、ボストロールが相手か。
トロルの上位種、間違いなくボスモンスターだな。
両手に持った棍棒での攻撃を信条とするパワータイプ。
俺の攻略本知識によると、魔法も使ってくる。
といっても、攻撃魔法ではなく、攻撃補助魔法の類だ。
こちらの防御力を下げる「シールドブレイク」というデパフ魔法を使う。
力押しタイプに見えて、実は魔法で防御を下げ、一撃で粉砕するタイプ。
だが、所詮ボストロール。こちらの魔力が高ければデパフ魔法に抵抗できる。
まずは小手調べ、アクティブスキルのフルパワーコンタクトを使用。
まだ精神コマンドは使わない、ここで使うにはもったいない。
「グフフ、ゆくぞ! 《シールドブレイク》!!」
残念、抵抗できるんだな、これが。
「な!? 何故だ!? 何故効かんのだ!!!」
「さあ、何故でござろうな。」
今度はこちらの番だ、手裏剣を二つ手に持ち、投げる。
狙いは両腕、スキル「投擲」の効果もあって、攻撃力と命中率は高い。
「グワア!!??」
よし、まずは命中。ボストロールの両腕に手裏剣が突き刺さり、動きを止める。
「中々やるではないか! お次はこちらの番だ!!」
棍棒を構え、ドタドタと鈍い走りで接近してくるボストロール。
そして、振り上げた棍棒を地面に叩きつける様に攻撃してきた。
俺は余裕を持ってバックステップで下がる。
回避成功、俺が居た場所にはちょっとしたクレーターが出来ていた。
「中々のパワーだな。」
「フフフ、一撃のもとに粉砕してくれよう。」
当たれば、だがな。
さて、こちらも武器を出し、構える。
雷の小太刀、こいつには世話になってばかりだな。
「ゆくぞ!」
ダッシュで接近し、ボストロールの腕目掛けて小太刀を振るう。
ボストロールがカウンターぎみに棍棒を振るったが、軌道が見えるので回避する。
そして、こちらの攻撃が命中。ボストロールの右腕を切り飛ばす。
「ギャアアアアアアッ!!!???」
地面にゴロリと音を立て、ボストロールの切断された右腕が転がる。
「お、おのれえええーーーー!!! よくもおおおおーーーーー!!!」
動きが鈍いからだよ、だからこちらの攻撃に対処出来ないんだ。
おそらく、俺の動きに追い付いていないだろう。
目で追えないぐらいには、俺の素早さは高い筈だしな。
「忍びを侮るなかれ、ボストロール。」
怒りに我を失ったボストロールは、その棍棒を振り回し、攻撃に精密さが欠けている。
「振り回してばかりでは、当たらんよ。」
「黙れえええええええええええええーーーーーーーーーーーー!!!!」
駄目だこいつ、冷静でなくなったようだ。稚拙な攻撃ばかり繰り返している。
こちらはその攻撃をことごとくを回避するだけだがな。
まあ、こっちは楽ちんだが、そろそろ決めるかな。
精神コマンドを使わずにボスモンスターを討伐できるか、俺も成長したもんだ。
「では、参る。」
闘気を練り、武器に宿らせ、構える。
狙いはボストロールの首を切り落とす事、これで決める。
「必殺! パワースラッシュ!」
接近し、ジャンプ一番。ボストロールの頭の高さまでジャンプし、パワースラッシュをお見舞いする。
「ウオッ!?」
一瞬怯んだボストロールが、身を縮こませた。
それが関係してか、狙いのポイントをずらされ、胴体を切ったに過ぎなかった。
「ちっ、外したでござるか!」
だが大ダメージを負わせた事には違いない。
ボストロールはフラフラとした足取りでふらつき、地面に腰を下ろした。
「ハア、ハア、ハア、よ、よくもこの儂を………………。」
「次で終わりでござるな。」
「諦めん! 儂は諦めんよ! 最後の最後までな!!」
「往生際が悪いでござるぞ。」
武器を構え、今一度闘気を練ろうとしたところで、ボストロールに動きがあった。
「こうなっては仕方ない! もうここでカオス様を!」
「なに!?」
こいつ、何をするつもりだ?
必殺技の硬直時間がある為、一定時間のクールタイムが必要だったが、次に繋げる為、ボストロールの動きを見据えた。
ボストロールは懐から黒い石を取り出し、それを口に投げ込み、飲み込んだ。
「何をしたでござるか!」
「ふっふっふ、もう終わりだよ。この世界は。」
何だ? こいつ、今黒い石を飲み込んでいた。
「まさか!!」
「フフ、そのまさかだ。今黒い魔石を飲み込んだ。カオス様復活には足りぬだろうが、負の想念が蓄えられている事には違いないからな。」
突然、ボストロールは天を仰ぎ見て、手を上に掲げて叫ぶ。
「さあ、カオス様! わたしめの身体を媒介に! 今こそご復活されませ!!」
こ、こいつ! 今ここで混沌の王カオスを復活させるつもりか!?
「カオス様! 今こそ! いまこそおおおお!!!」
「させるか!!!」
俺はダッシュし、闘気の纏った武器を振り、ボストロールの首を切り落とそうとした。
だが。
ボストロールの首に刃が当たった瞬間、ガキンッと火花が散って、俺の小太刀はその軌道を止められた。
「堅い!」
次の瞬間、ボストロールの雰囲気が変わった。黒い波動が一気に噴出し、辺りに広がり、その波動が俺を襲い、遠くへ押し戻された。
「くっ、なんというパワーだ! 只の波動で俺を下がらせるとは!」
ボストロールの気配が変わった。それが解るくらいには空気がビリビリとしたモノへと変質していった。
「こりゃ、ちょっと不味いか。」
フィラ視点――――
フィラはまず、牢屋の鍵を探していた。
その牢番部屋に、フィラの荷物が在った為、まずはそれを回収した。
「これで武器は確保しました、後は鍵さえ見つかれば。」
牢番部屋を隈なく探し、机の引き出しから牢屋の鍵を見つけた。
「ありました、これでリアを助け出せますね。」
鍵を持って、フィラは牢屋へと急ぐ。
その途中、外の音が騒がしいのに気付き、牢屋を目指しながら零す。
「みなさんは今、戦っている事でしょう。私も早く合流しなくては。」
フィラは走り、リアが入れられている牢屋へと辿り着く。
「リア、リア、居ますか?」
「ああ、居るよ。ってあんた! 無事だったかい! あたしはてっきり………。」
「ええ、無事です。ある方に助けて頂きました。それよりここを出ますよ。」
「え? そりゃあたしだってこんなとこ早いとこ出たいけどさ、いいのかい? 大司祭に知れたら只じゃ済まないよ。」
フィラは牢屋の鍵を開け、リアの鎖をアックスで叩き切った。
「あんた、凄い怪力だね。」
「大司祭の事なら心配ありません、あの方はもうモンスターになっていましたから。」
「な!? 何だって!? それは一体どういう事だい?」
フィラは呼吸を整えつつ、ゆっくりと説明しだす。
「モンスターだったのです、モンスターが人に化けていたのですよ。大司祭もその側近も。」
「はあ~~、薄々は感じていたけど、まさか本当にモンスターが化けていたとはね。」
フィラはリアの武器を渡し、牢屋を出る。
「貴女の力が必要な事態になりました、私と共に戦って下さい。」
「へっへっへ、そう言う事ならもう手加減しなくてもいいんだね? あたしはやるよ。全力でね。」
「はい、お願いします。リア。」
リアは自分の武器を確かめた後、フィラに聞いた。
「あんたはどうするんだい? あたい等と一緒に戦うのかい?」
そして、フィラは答える。
「はい、私も戦います。あの方と共に。」
「あの方?」
「私の………………、思い人です。」
「はいはいご馳走様、もう、勝手にやってろ。」
「ですが、あの方は私の事をどう思っているのか、解らないのです。それは少し、不安ですよ。」
フィラは俯き、リアはかっかっかと笑う。
「あんたを助けたのが、その思い人なんだろ? なら決まりさね。」
「そうでしょうか?」
「そうだよ、誰が好き好んであんたを火刑から助け出すのさ。大司祭に逆らってまで。あんたを好いている証拠だよ。」
「だと、いいのですが………………。」
フィラのこの煮え切らない態度に、リアはイライラしつつも、こう切り出す。
「じゃあ、あたしがその人と仲良くなっても良いんだね?」
フィラは一瞬の内に答える。
「それは困ります。」
「じゃあ、そう言う事さね。さあ! 行くよ!」
どういう事だと思わなくも無いが、フィラはあまり考えずに外へと向かった。
「今は戦いに集中すべきですね!!」
「そう言う事!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます