第212話 大司祭の正体 ①

 白い炎、ホーリーブレイズは邪悪なモノにのみ効果を発揮する神聖魔法。


フィラが火刑台に括り付けられているので、その中心から発動するようにする。


当然、範囲拡大のオマケ付き。これで広場全体に影響を及ぼす。


そして、文字通り「白い炎」が、辺り一面に燃え広がったのだった。


この場に居る様々な人々を巻き込み、ホーリーブレイズは発動する。


「さて、どう、あい、なり、ます、やら、でござるな。」


木の丸太の上から高みの見物とシャレこもう。



  フィラ視点――――



 フィラは今、火刑にされそうなこんな状況でありつつも、とても嬉しかった。


火刑に処せられようとしていた正にその時、待ったが掛かったのだ。


そして、その声の持ち主は、フィラにとってかけがえのない人物の声だったからだ。


(この声は!?)


まさか、と思いつつ、同時にもしやと期待の眼差しを向けた相手は。


銀の仮面で顔を隠した忍者。しかし、その声は聞き覚えがある。


(聞き間違える筈がありません! この声は!)


そう、フィラが恋焦がれる相手、ジャズの声だったからだ。


 フィラはジャズに何度も助けられた。なのでフィラは、ジャズの事になると心がいっぱいになるのだ。


 ジャズに関してはその声を聞き間違える筈も無く、フィラは一発で銀影の正体を看破した。


「またジャズ様に助けていただきましたね、私は幸運です。」


 フィラは内心、飛び上がるほど嬉しかったのだが、拘束されている為、それもままならず、しかし、顔には満面の笑みの花が咲いていた。


 ご主人様が助けに来てくださったと、フィラはジャズに対して全幅の信頼を寄せていた。


 だから、自分を中心に白い炎が立ち込め、目の前にその炎が燃え広がろうと、フィラはちっとも怖くなかった。


 それどころか、何とも心地よい気分がした。まるで頬をそよ風が撫でるようにすら感じ、あたたかい炎と知る事が解る。


「ジャズ様がなさる事、きっと意味がある筈です。」


 何時の間にか、両手に拘束されていたロープが切れていて、丸太に縛られた身体のロープもまた、切れていた。


 そして、自由になったフィラは目の前の光景を見る。そこには………………。



  ジャズ視点――――


 おお~~、燃えてる燃えてる。


 白い炎が辺り一面に燃え広がっている、一応フィラを中心にスクロールを使ったけど、こりゃ効果が期待以上にあったな。


白い炎が広範囲に立ち込め、広場全体にホーリーブレイズは行き届いていた。


 フィラはもちろん、サキ隊長たちや冒険者組、信者やシスター、一部の神官戦士や聖騎士隊の面々、その予備隊など、全くダメージが無い様子だ。

 

 白い炎が立ち込めた時は、流石にみんな動揺していたが、直ぐに落ち着きを払って事態の推移を見守ろうとしている。


ただ、そんな中で、絶叫に声を震わせ叫ぶ者達が居た。


「ぎゃあああああああああああ!!!」


「熱いいいいいいいいいいいいい!!」


「やめ、やめろおおおおおおお!!!」


「ぎゃああああ! 熱いいいいい!!」


そして、その者達は白い炎を一身に受け、黒い霧が身体から溢れてきている。


そいつ等は、まず大司祭、その側近、そして一部の神官戦士たちだった。


邪悪な存在として認識したそいつ等は、倒れ伏し、動かなくなった。


「まだだ、こっからだな。」


そして、大司祭はそのローブが膨れ上がり、破り、その本体が露わになる。


「お、おのれえええ!!」


 その姿は、紛れも無く魔物のそれだった。


「ボストロールか、トロルの上位種だな。」


遂に正体を明かした訳だ、もう逃げられんぞ。


「おのれえ! 今一歩というところで邪魔をしおって!」


「貴様こそ、モンスターだったとはな。相手にとって不足無し! 覚悟!!」


俺が大司祭だったモノに指を差し、戦闘態勢を執る。


ボストロールが吠える。


「お前等! もう人間のフリは止めだ! 殺せ! 目につく奴を片っ端から殺せ!!」


 その瞬間、側近たちや倒れた者達はムクリと立ち上がり、衣服を破り捨て、魔物の姿へと変貌する。


「ほう、ゴブリンにレッサーデーモン、オークにオーガか。中々の面子が揃っている様だな。大司祭。いや、ボストロール!!!」


「我が計画を邪魔した貴様は許さん! この棍棒で嬲り殺してやる!!」


「ほう、計画とな?」


「そうだ! この儂自らが計画し実行に移してきた計画だ!」


「そうか、どんな計画だったんだ? 冥途の土産に聞かせて貰おうか。」


「フンッ、いいだろう。今となってはもうどうでもよい。それにあ奴に対して義理を通さんでもよいし、あいつ等気に入らん奴ばかりだしな。聞いていけ、冥途の土産だ。」


ふーむ、一応聞いてみるか。話したがっている様だし。


おそらく自分の計画とやらを話して、頭の良さを示したかったのかもな。


まあ、敵に話した段階で頭が良いとは言えんが。


ボストロールだし。


「いいか、よく聞け、儂はな、次々と若い女を殺し、処刑し、負の感情や想念を集めて、復活させようとしておったのだ!」


「何をだ?」


「決まっておろう! カオス様だ!」


やはりな、混沌の王カオスを復活させる為か。


「この魔石に負の想念を取り込み、今少しで復活に必要な分が溜まるというところで邪魔をしおって!!」


「それは残念でござったな。もう諦めよ。」


「諦めん! 儂は諦めんよ! 最後の最後までな! 者共! 掛かれい!!!」


おっと、こうしちゃいられんか。もう戦いはあっちこっちで始まっている。


大司祭がボストロールだと判明した、側近はレッサーデーモン。


 他の者達はゴブリンにオークやオーガ、ちょっとしたモンスターハウス状態だなこりゃあ。


兎に角モンスターの数が多い、的確に対処していかなければ。


そして、信者や一般人も守りながら戦わなくてはならない。


ちょっと大変かもな。


 だがそれは杞憂だった、サキ隊長とナナ少尉たちが一般人や信者たちを誘導し、安全な所へと避難誘導を開始している。


流石だ、こういう時軍人さんは頼りになる。


姉御たち冒険者組も活躍している、モンスター相手に一歩も引かない。


 シャイニングナイツやその予備隊の人達も、みんなそれぞれモンスターに対処している。


さて、俺は。


丸太の天辺から飛び降り、フィラに声を掛ける。


「大丈夫でござるか?」


「はい! 平気です。ジャ………銀影さん。」


「そなたにはここで手伝って頂きたい事があるのだが、何か用事がおありかな?」


「あ、はい。実は装備を探しに行きたいのですが、それとは別に友を助けたく思います。」


「友?」


「はい、リアという女性で、中々の使い手です。私の為に投獄されてしまい、牢屋から出してあげたいのです。」


「あい解った。では、そなたはそちらを優先されよ。拙者は成すべき事を成すのでな。」


「はい、助けて頂きありがとうございます。銀影さん。」


「なに、礼には及ばん。さあ、ゆかれよ。」


「はい、では。」


フィラはこちらに一礼し、建物の中へと入って行った。


さて、俺は。


「ええーい! 儂を無視するな!! こうなってはもう終わりだ。貴様を叩き潰してカオス様にくれてやるわい。」


「そうか、ならば拙者の相手は貴様でよいのだな?」


「フン、なにを粋がっておるか! さっさと始めるそ!!!」


では、まあ、俺の相手はこのボストロールって事で。


確かこいつ、魔石に負の想念を蓄えたと言っていたな。


「締めて掛からねばならんか!」


目的はボストロールの討伐、そして、魔石の回収、ってところか。


他のモンスターは皆に任せて、俺はこいつの相手をすればいいか。


「いざ! 尋常に勝負!!!」


























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