第211話 聖なる炎

 義勇軍会議が終了し、というより飲み会が終わり、広場にぞろぞろとメンバーが出て行く。


 丁度同じ頃、シャイニングナイツの会議も終わったらしく、ぞくぞくと聖騎士隊の方々が広場へと出て来た。


 シャイニングナイツのマーテルさんに話があるので、探しているけど一向に見つからない。


聖騎士隊と言っても色んな女性の方々がいるなあ。


みんなカッコいい騎士鎧を着こなし、凛々しい顔立ちをしている。


 冒険者風の装備をしているのは、おそらく予備隊という人達だろう。姐御と同じだな。


そんな中、一際目立つ一角があった。何やら騒々しいな、なんだろう?


「何故今になって火刑などするのですか!? 大司祭様!!」


「ええーい! しつこいぞ! もう決定事項なのだ! 今更覆らんぞ!」


広場の一角で、何やら揉めている様だ。あれはサーシャさんか。


「火刑などしたら負の想念が広がる一方じゃない! どうして今なのです!」


「しつこいと言っている! もう決めた事だ! 直ぐにでも火刑を執り行う! 邪魔立てはするでないぞ! よいな!!」


「そんな一方的な事!! 何の罪ですか!!?」


「この儂を傷つけた罪だ! 見よ、この火傷痕を! これ以上の事も無かろう!」


サーシャさんと大司祭が広場の火刑台の前で言い合いをしている。


 サーシャさんは火刑を止めさせようとしているが、大司祭は取り付くしまも無しと言った感じだ。


義勇軍メンバーが零す。


「けっ、酒が不味くならぁ。」


「ふんっ、火刑か。下らん、そんな暇があったらモンスターの一体でも討伐してこいってんだ。」


「大司祭の奴、また嫌な事をするつもりっみたいだな。」


「火刑など、今月に入ってもう三人目だぞ。何考えてやがる。」


いつの間にか周りには、一般の信者達が神殿に集まって来ていた。


 火刑を見に来た、とは言えないか。


おそらく大司祭が何かやるって事で見に来た様だ。


俺も火刑など見たくも無い、酔いが覚めちまう。


「兵隊さん、火刑だってさ。やだねえ。」


「ああ、ここって女神教会の総本山だろ? そんな場所で火刑かよ。虫唾が走るぜ。」


人だかりの中に、サキ隊長達も居た。冒険者組も一緒だ。


「俺は仲間と合流するが、ちびっこはどうする?」


「あたいも付いて行くよ、紹介しておくれよ。」


「ああ、いいぞ。」


隊長たちの居る方へ向かい、歩き出したところで、俺は見てしまった。


火刑に処せられる人物を。


「あれは、まさか………………。」


「どうしたの? 兵隊さん。」


誰が見間違うかよ! あれはフィラだ! フィラが拘束されている。


そして、火刑台の木の丸太に括り付けられようとしている。


「どういう事だ! なぜフィラが!」


「フィラ? フィラってシャイニングナイツになる為にエストールに旅立った人だよね?」


間違いない、あれはフィラだ。どうなってる?


「フィラが火刑に処せられようとしている。」


「ええ!? 何で?」


「知らん!! だが、このまま見過ごす訳には行かないぞ!!」


「どうするんだい? 兵隊さん。」


さて、どうしたものか。


今の俺は軍服を着ている。つまり俺は今アリシア王国の人間としての立場がある。


 流石にこの恰好じゃまずい、ここで無茶をしてフィラを救出したら、間違いなくアリシア王国の立場が悪くなる。


今、女神教と事を構える訳にはいかない。


ならば、一介の冒険者でいこう。


「久々に銀仮面の出番だな。」


アイテムボックスからマジックアイテムの銀仮面を取り出す。


ついでに忍者装備一式も取り出し、早着替えを済ませる。


「え? 兵隊さん? その恰好?」


「ちびっこ、今から俺は仮面の忍者、「銀影」だ。その正体は秘密だぞ、いいな?」


「わ、解ったよ。兵隊さんが動くんだね、あたいは何をすれば良い?」


「今は何も、兎に角状況が変わるまで事態を見守ってくれ。」


「解った。任せな。」


さてと、フィラにあんな顔をさせている奴を、俺は許さん。


どうも頭に血が上っているようだ、落ち着け俺。冷静に立ち回らないとな。


会話の内容から察して、大司祭あたりの横暴だろう、それを許すつもりは無い。


おあつらえ向きに、火刑台の周りに人だかりが出来ている。


身を隠しながら行動するにはもってこいの状況だな。


「火刑を邪魔してやる。いくぞ!!!」


小声で気合を入れ、俺はアクティブスキルの「加速」を使用。


これで俺の移動力はプラス2された、目標に届かないという事は無いだろう。


大司祭が松明に火を付けつつ、言い放つ。


「これより! 聖なる炎によって悪魔を浄化する! 女神よ、御照覧あれ!」


「やめなさい大司祭! 火刑などしても無意味です!」


「誰かこの女エルフを遠ざけよ。」


大司祭の側近が、サーシャさんを掴み後ろへと下がらせる。


「放しなさい! こんな横暴は許しませんよ! 大司祭!」


「結構、儂は刑を執行するのみ。この聖なる炎によってな。ふふふ、はははは。」


「何が聖なる炎よ! 只の火じゃない! やめなさい大司祭!」


サーシャさんは羽交い絞めにされていて、自由が効かない様だ。


必至になって大司祭を説得しようとしているが、相手にされていない。


 他のシャイニングナイツの方々は、火刑を止めさせようとしているが、大司祭の側近や神官戦士に邪魔をされて身動きが取れていない。


ここは俺の出番らしいかな?


 ノーマークの俺は人だかりの間をぬって全力疾走し、ジャンプ一番。ムーンサルトを決めて、フィラが括り付けられている丸太の天辺に着地する。


「待てええええええええええええーーーーいい!!!!!」


みんなの注目が俺に集まる。銀仮面を着けているので正体は謎だろう。


「な、何者だ!?」


大司祭が吠え、俺は答える。


「正義の志を持つ者を火刑に処すとは、言語道断! この拙者がそれを許すつもりは無い!!!」


「何者だと聞いておるのだ! 名を名乗れ!」


「闇に光るは銀の仮面、正義を照らす光なり。この世を乱す無法者よ、そこまでだ!」


大司祭に向け指を差し、そして言い放つ。


「我が名は銀影、仮面の忍者「銀影」。只今、見参!!!」


 ここでサキ隊長あたりから「きゃーー銀影様ーー!」と言う様な黄色い声が上がったが気にせず先に進む。


「大司祭よ、聖なる炎で焼くと言ったな? ならばその松明の火は「ホーリーブレイズ」なのであろうな?」


「ふん、儂が聖なる炎と言ったら聖なる炎なのだ。それ以外にあるのかね?」


「ならば聞こう、聖なる炎「ホーリーブレイズ」は人には何の影響も無いが、邪悪な存在には効果テキメンなのも知っていような?」


「当然だ! それがどうした!」


「貴様の持つ松明の火は只の炎の様に見受けられるが?」


「何を馬鹿な! これは聖なる炎だ! これで悪魔を焼く、そして浄化するのだ! 邪魔立てするなら貴様は容赦せんぞ!」


「なるほど、ホーリーブレイズならば問題無い訳だな? ならば、拙者が本物の聖なる炎「ホーリーブレイズ」をお見せしよう。」


「な、なんだと!!!?」


俺はここで、ショップコマンドを使い魔法のスクロールを二つ購入。


一つは「ホーリーブレイズ」の巻物、そしてもう一つは。


 俺は魔法のスクロールをアイテムボックスから二つ取り出し、みんなに見える様に掲げた。


「ここに二つの魔法のスクロールがある。「ホーリーブレイズ」の神聖魔法ともう一つは、範囲拡大のスクロールだ。」


これを見た大司祭は、途端に慌てふためき、俺に指を差しこう叫んだ。


「こ、殺せえええーーーー!!! あの男を殺せええ!! 今すぐにだ!!」


「何を焦っておいでかな? 大司祭ともあろう者が。」


 そう、神聖魔法が封じられた魔法のスクロール。「ホーリーブレイズ」の効果は人には何の効果も無い。しかし、邪悪な存在に対しては効果てきめんなのだった。


大司祭は焦っている、それを見るに、おそらく俺の勘は正しい。


「何をグズグズしておるか!! 早くあの者を殺せえええーーーーー!!!」


焦ってる焦ってる、これで決まりだな。大司祭は邪悪な存在だ。


「今、馬脚を現してもらおうか! 大司祭!!!!」


魔法のスクロールを空へ向けて放り投げる。


そして、その効果が発動するのだった。


「ホーリーブレイズ! 効果範囲拡大版! 発動!!!」


「やめろおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!????」










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