第186話 伝承される戦い ⑦



 レッドドラゴンは要塞屋上から動かず、こちらをジッと見下ろしている。


俺達との距離はそこそこある、俺のナイフによる投擲は十分届く距離だ。


「よし、いくぞ!」


まずはこれ、ナイフを持ち、構えて一気に投擲、様子を見る。どうだ?


投擲したナイフは縦回転しながら飛んでいき、見事レッドドラゴンの腹にヒットした。


ナイフはグサリと刺さり、その瞬間から、レッドドラゴンは俺を睨み付けた。


ヘイトを稼いだ、ここからだな。


レッドドラゴンは翼を広げ、空気を巻き込みながら羽ばたき、要塞上空へと飛翔した。


「ち、飛び上がったか! 来るぞ! 警戒しろ!」


皆に指示を出す。奴は上空から炎のブレスを吐き、俺達を一掃しようと強襲した。


「ブレスが来る! 隠れろ!」


 俺はその場にあったモンスターの亡骸を盾に使い、みんなは建物の陰に隠れてやり過ごす。


レッドドラゴンが滑空してきて、その勢いのまま炎を口に蓄えて、ブレスを吐いている。


炎は要塞中庭の中心辺りに吹き付けられ、火の海と化した。


「あち、あちい。」


 モンスターの死体を盾にしているとはいえ、完全に炎のブレスを防げるものでもない。


「どうにかやり過ごしたか。」


ブレス攻撃は止み、レッドドラゴンが悠々と地上に降り立つ。


俺達は急いで態勢を整え、レッドドラゴンの周りを囲む様に躍り出る。


また上空へ飛び上がられると、こちらの攻撃が届かない。そうなる前に!


「俺は右の翼を狙う! 姐御は左側の翼を!」


「了解!!」


俺の指示で動き出す、ショートソードを構え、闘気を練り、剣に宿す。


精神コマンドの「気合」を一度使用した、これで気力はプラス10。


スキルの闘争心の効果により、気力は既にプラス35だ。これで必殺技を叩き込める。


精神コマンドの「魂」も忘れない。これで使用回数は残り7回。


「いくぜ! スラッシュ!!」


 剣を振り抜き、真空の刃が発生して、勢いよく飛翔。ドラゴンの片翼を刃が通り過ぎ、そのまま飛んで行った。


その刹那、レッドドラゴンの右翼が切れ落ち、ボトリと音を立てた。


「よし! 片方の翼は切り落とした! もう飛び上がれまい!」


レッドドラゴンはこちらを向き、俺に顎による噛みつき攻撃を仕掛けてきた。


俺はバックステップで後ろへ後退し、避ける。


その隙を突く形で、姐御がハイジャンプ。レッドドラゴンの背中へ着地し、「兜割り」をかます姐御。


「いくわよ! 兜割り!! せやああああああ!!!」


 裂迫の一刀の下、レッドドラゴンの左翼を切り捨てたのち、姐御は背中から飛び降りる。


「グガアアアア!?」


レッドドラゴンが苦しみだし、地面をその巨体がゴロゴロと転がる。


「よーし! もう飛べまい!!」


俺達はレッドドラゴンから距離を取る。転がるドラゴンに巻き込まれたら災難だ。


一頻り転げ回ったレッドドラゴンが、ゆっくりと立ち上がり、今度は尻尾による回転攻撃に転じた。


「みんな避けろ!!」


 俺の指示に、みんなは更に距離を取る。だがここで、イズナが剣を構え、立ち止まっていた。


「イズナ! 避けろ!」


「大丈夫です、いきます!」


 裂迫の声を出し、イズナは手にしているキルブレードを構え、上段の構えで振り上げた。


 レッドドラゴンの尻尾攻撃が、勢いよく迫って来るところを、イズナはただ、じっと構えていた。


「あぶねえっ!? イズナ!」


マトックが叫ぶ中、レッドドラゴンのテイル攻撃は迫る。


だが、イズナのキルブレードは一瞬キラリと光り、クリティカルの兆候を見せた。


「イズナ!!」


「いきます!!! ハッ!!!」


尻尾がイズナに当たる直前、イズナの剣は既に振り下ろされていた。


上段からの一刀両断、イズナの剣はレッドドラゴンの尻尾を切断し、千切れた方はあらぬ方向へと飛んで行った。


「尻尾を切ったのか!? やるなイズナ!」


「よ、よーし。俺も負けてられねえ!」


今度はマトックがドラゴンに向かって走り込み、魔剣グラムを構えてドラゴンの腹下へと滑り込む。


マトックは魔剣グラムをレッドドラゴンの腹へと突き入れ、かっさばく様に振り切る。


「グガアアアアッ!?」


レッドドラゴンは咆哮を上げ、のたうち回っている。かなりのダメージを与えたようだ。


「よし! いけるか!」


もう一度「魂」を掛け、闘気を練り、剣に宿して構える。


「もう一丁おおおお!!」


俺はスラッシュを叩き込む、狙いは胴体。


上手くヒットして、かなりのダメージを与えた。だがまだ倒れない、流石にドラゴン。タフだな。


しかし、俺の攻撃を喰らっても尚、レッドドラゴンはこちらを向き、その口内に炎を蓄えだす。


「来るか!?」


 俺に対するゼロ距離ブレス。これは流石に避けられない。咄嗟に精神コマンドの「不屈」を使う。


その瞬間、俺にドラゴンブレスが直撃、炎に包まれる。


「きゃああああああああ!?」


「いやああああああああ!? ジャズー--!?」


ジュリアナさんと姐御の、悲鳴にも似た声が叫びとなってこだました。


だが、大丈夫。不屈のお陰で俺のダメージは1で済んでいる。


「大丈夫だ! 心配するな!」


俺が声を上げると、みんなは俺を見て信じられないといった様子で見ていた。


「まだ終わってないぞ! 気を抜くなよ!」


「「「「 りょ、了解! 」」」」


さてと、そろそろ決めにいかないと、消耗するだけだな。


「マトック! 俺が攻撃したら、お前は突撃してレッドドラゴンの首を切り落とせ!」


「で、できんのかよ! そんな事!」


「魔剣グラムは伊達じゃない! いけるはずだ! いいか!」


「わ、解った! 何とかやってみる!」


その会話のやり取りの最中でも、レッドドラゴンの攻撃は続いていたのだが。


「私だって!」


ジュリアナさんが二本あるスティレットの内の一本を投擲し、レッドドラゴンの片目に突き刺さる。


レッドドラゴンはたたらを踏み、体勢を崩した。チャンス。


「よし! いまだ!!」


精神コマンドの魂を掛け、更に気合を4回使う。これで気力は上限のプラス70。


気力限界突破だ、普通は気力の上限は50だが、スキルのお陰で70までいける。


これにより、攻撃力、突破力、クリティカル発生率が上昇した。


残り使用回数は2回、何とかなるか?


 ショートソードを構え、闘気を練り上げ、剣に宿す。マトックの方も準備がいいみたいだ。


「いくぜ! 必殺! 横一文字斬りいいいいいいいいいいー--------!!!!」


構えた剣を横一閃、気迫のこもった一撃をお見舞いする。


真空の刃は、その勢いを殺さずに進み、レッドドラゴンの首目掛けて飛翔し、ズバッと切断音をさせて止まる。


「今だマトック! 思い切り行けええええええええええ!!!!」


「うおおおおおおおおおおおおー--------!!!!」


マトックは駆け出し、レッドドラゴンの首目掛けて魔剣グラムを振り上げた。


「これでもおおおお、くらええええええええええ!!!!」


そして、勢いよく振り下ろす。魔剣グラムは俺の切った切断面に沿って入り、その首を切り落とす。


断末魔は無かった。無言でレッドドラゴンはその首が地面に落ちて、身体がドシーーンと砂埃を上げながら、ゆっくりと倒れ込んだ。


「はあ、はあ、はあ、」


「………。勝負、ありだ。」


「や、やったの、ですか?」


「あら? もしかして倒しちゃったかしら。」


「ふう~~、何とか凌いだみたいね。」


倒した、俺達はレッドドラゴンを倒したのだった。


「よくやったぞ、マトック。ドラゴンスレイヤーの誕生だな。」


見ると、マトックは打ち震えていた。自分の両手を見つめ、プルプルとしていた。


「やった、………やったんだ。俺は、遂に、やったんだ。」


「マトック?」


イズナが心配して、マトックに話しかけたが、本人はまだ気づいていない。


「やったぞおおおおおー---! 俺はやったんだああああー---!!!」


「ああそうだな、おめでとう。じゃあちょっと休憩しよう。皆、お疲れさん。」


マトック以外、みんなはその場でへたり込み、座って休息しだした。


ここに、レッドドラゴンは見事に討伐されたのだった。


ふ~、何とかなったか。やれやれ。








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