第185話 伝承される戦い ⑥



      ――――マトックの回想――――


 今朝、夢を見た………………と、思う。


 子供の頃の夢だ、セコンド大陸の片隅にある小さな村での事。


いつもの様に村の子供達と一緒になって、俺も冒険者ごっこをしていた。


みんなの夢は勇者だったり英雄だったり、まあ俺もそんな村の子供の一人だった。


 時折村にやって来る行商人のおじさんが、村で商売をした後に必ず子供達を集めて昔語りを聞かせてくれた。


俺達子供は、そんなおじさんの昔語りが大好きで、よく話を聞いていた。


 例えば昔に活躍した勇者の物語だったり、英雄騎士伝説だったり、冒険者から貴族になった若者の話だったり、赤毛の冒険者の活躍だったり、魔法の指輪伝説だったり、妖精と剣士の話だったり、兎に角おじさんの話は凄く面白かった。


 そんな昔語りの中で、俺が一番好きな話はいつも決まってこれだった。


そう、ドラゴンスレイヤーを目指した若者の話だ。


よくある一つの冒険譚だが、俺の心はワクワクが止まらなかった。


勇者や英雄の話も好きだが、どこか夢幻のような気がして現実味が無かった。


 だが、ドラゴンスレイヤーは違う。実際にドラゴンを討伐し、名誉と誇りを得た若者の話は、どこか現実味があったのだ。


 そして、実際にドラゴンスレイヤーは古今存在しているという事に、何時しか俺の夢もドラゴンスレイヤーになる事になっていった。


 ドラゴンスレイヤーは、ドラゴンを討伐すればなれる。いや、名乗れる。俺の子供の頃からの夢だ。


 十五になり、成人して、俺は早速町へ行き、冒険者ギルドではなく傭兵ギルドへ赴いた。


 夢の第一歩として、先ずは実戦を経験する事だと思い、モンスター相手の場数を踏みたかった。


いつしか俺は、そこそこ強くなり、名が通るようになってきた。


 そこへもたらされた情報、アワー大陸にレッドドラゴンが現れ、人々を苦しめていると言う。


俺は一も二も無く飛び出していた、大陸横断船に乗り、アワー大陸へ渡った。


そして、俺は見た。初めてのレッドドラゴン。その雄々しさと強大さ。


倒せるのだろうか、こんなの………………。


その咆哮を聞いた時、俺は震えた。恐怖したのだ。恐ろしい、怖い。


だが。


それよりも。


俺は嬉しかった。


初めて本物のドラゴンを目の当たりにして、俺は怖気つつも興奮していた。


こいつを倒せば、俺は………………。




――――朝 仮設基地――――




 早朝、朝靄がかかる基地内を見回し、俺達は準備に取り掛かっていた。


そういやあ、灰色の魔女が言っていたっけ。寝起きの悪いドラゴンの話を………。


 朝早くから出撃し、レッドドラゴンと相対した時、寝起きが悪く攻撃が熾烈だったらどうしよう。


はは、笑えない。


 姉御と朝飯を食っている最中に、傭兵三人とジュリアナさんが朝の挨拶に来た。


「おはよう、眠れたか?」


「おはよう。」


俺と姐御が先に挨拶をする。


「おはよう、いい天気だな。」


「おはようございます。」


「おはようさん。」


「ジャズ、昨日はなぜ来なかったの?」


四人共、それぞれ挨拶をし、俺達と一緒に朝飯を食べ始める。


鍋を囲み、温かいスープで暖を取り、パンを齧りつつ今日の予定を話し合う。


「いよいよだな………。」


マトックが言い、俺が周りを見渡し返事をする。


「ああ、バルビロン要塞奪還作戦。最後の仕上げだ、四種族連合軍総出での出撃準備中、みんな気合が入っているな。」


と、ここでイズナが言葉を発する。


「しかし、その前に問題がありますね。」


それに返事をするケイト。


「レッドドラゴンでしょ? どうするのかしら?」


 そうなのだ、モンスターの増援が無くなった事で、要塞に蔓延るモンスターの数は決して多くない。


チャンスなのだ、今を逃せばもうこれ以上の好機は巡ってこないだろう。


 要塞戦でのモンスター殲滅作戦は、昨日の段階でバルク将軍たちが軍議で話し合って決めたらしい。


「で、俺達にそのレッドドラゴンを討伐して欲しいって事だよな? 要塞戦が始まる前に。」


「ああ、そうだマトック。でだ、お前さ、ドラゴンスレイヤーを目指してるんだよな?」


「ん? そうだが、俺一人じゃ出来ないぜ。別にビビってる訳じゃねえがな。」


「よし、やる気はあるか。血気盛んな若者よ、俺が良い物を貸してやろう。」


俺はアイテムボックスから、一振りの剣を取り出す。


「マトック、こいつは竜殺しの剣。「魔剣グラム」だ、こいつをお前に貸してやる。見事レッドドラゴンを討伐してこい。」


「な、なにい~~!?」


マトックはすっとんきょうな声を上げた。やる気はありそうだが。


「心配すんな、俺と姐御も付き合ってやる。一狩り行こうぜ。」


「いや! そうじゃなくて! 何でジャズがそんな伝説級の武器を持ってんだ?」


「ん? 今はそんな事どうでもいいだろ。やるのかやらねえのか、どうなんだ?」


 マトックは深く考えを巡らしている様だ。まあ無理も無い、相手はレッドドラゴン。一筋縄ではいかないだろう。


だが、この剣があれば、攻撃が届くのだ。魔剣グラムはとてつもなく強力な武器だ。


 ちなみに、俺はこの手の武器は装備出来ない。俺は忍者なので、長物は装備してもたいして使いこなせないのだ。


 だから、マトックにグラムを渡そうと思う。ドラゴンスレイヤーを目指しているなら、一度は夢に見るだろう。


「どうだ? マトック。やってみるか?」


俺の問いかけに、マトックは真剣な表情で答える。


「………よ、よし! やってみる! 俺がレッドドラゴンを討伐してみせる! ジャズ、その剣を渡してくれ。」


「よーし、良く言った! だが貸すだけだ、貸すだけだからな。ちゃんと返せよ。いいな。」


「おう、解ってるぜ!」


こうして、俺はマトックに「魔剣グラム」を渡した。


マトックはその剣をまじまじと見つめ、心なしか顔つきが逞しくなった様な気がした。


「よし、これで必要最低限の戦力は確保したな。」


俺が言うと、イズナとジュリアナさんが挙手をして、言葉を述べた。


「あの、私もレッドドラゴン討伐戦に参加させて下さい。」


「あん、私もよ。ここまで来たら最後までイキたいじゃない? 宝物庫の件もあるし。」


二人はやる気の様だ。しかし、相手はドラゴン。危険な相手だ、それを解っているだろうから、止めはしないが、さて。


「いいのかい? 危険な戦いになるよ。」


「はい、私はもっと、今よりももっと強くならなければならないのです。お願いします。」


 ふーむ、イズナは何か、目的があってここまでやって来たらしいが、強くなりたいか。


「私はまだまだイケるわよ、お姉さんに任せなさい。」


 ジュリアナさんは、どっちかっていうと強者と戦いたいみたいな感じではある。正気の沙汰じゃないな。


だけど、二人が戦線に加わってくれれば、確かに心強い味方ではある。


二人共、確かに強い。姐御並みに戦える事は、昨日の段階で知っている。


「解った、二人共協力に感謝する。だが危険な事には変わりないから、十分に気を付けてくれよ。」


「はい、ありがとうございます。ジャズ殿。」


「うふふ、腕が鳴るわ。」


と、ここでケイトが話に加わって来た。


「私はパスよ、幾ら何でもレッドドラゴン討伐戦には参加できないわ。私はその後の殲滅戦に加わるつもりだから、今回はパスね。」


「解った、まあ、それが普通の奴の考えだと思うから。無理しなくていいからね。」


「ごめんね、私はあまり戦えないのよ。シーフだから。」


「気にしちゃいない、お互いに生き残ればいいんだ。それだけさ。」


よし、これで決まったな。レッドドラゴンを討伐するメンバーは、俺、姐御、マトック、イズナ、ジュリアナ、この五人でいく。


 朝飯を食べ終わり、装備を身体に装着していき、準備を整える。


「準備完了、みんな、いけるか?」


「ああ、問題無い。」


「こちらも。」


「大丈夫よ、お姉さんに任せて。」


「貴女、一々会話が艶めかしいのよね。私もいいわよ、ジャズ。」


「よし! じゃあ、出撃!」


俺の号令と共に、みんなは駆け出した。気合が入っているな。いい兆候だ。みんな気負っていない。


大丈夫、いける。俺のゲーム知識でも、ゲーマーとしての予感も、レッドドラゴンを討伐出来ると確信している。


だが、油断はしない。足元を掬われるかもしれんからな。慎重に行動すべきだろう。


 仮設基地を出て、進み続けて要塞手前まで来た。ガーゴイルゲートは開いたままだ。


「流石にここにはモンスターは居ないようだな。」


「手間が省けてよかったじゃない、ジャズ、このまま奥まで進みましょう。」


「了解、行きましょう。」


 要塞の中庭まで来た、動いているモンスターはまったく居ない。静かなものだ。


 そして、要塞の屋上に居るのは、赤い鱗に翼のある、体長20メートルはあろうかという赤竜。


「レッドドラゴンだ、確認した。多分こちらに気付いている。」


「ここからね、更に近づくと、おそらく襲って来るわね。」


「ジャズ、作戦はどうすんだ?」


「おう、まず俺がレッドドラゴンの翼を攻撃し、上空へ飛び立てない様に仕掛ける。」


「その後は? どう動きますか? ジャズ殿。」


「後は簡単だ、兎に角ドラゴンを叩いて叩いて叩きまくれ。」


「まあ、お姉さんの出番は無さそうね。ちょっとがっかり。相手の鼻先でちょこまかと動いていればいいかしら?」


「ええ、しかしみんな。奴の炎の息。ドラゴンブレスが来たら、兎に角逃げろ。物陰に隠れる、モンスターの死体を盾にする、逃げる、兎に角、炎のブレスは喰らうなよ。いいな。」


「「「「 解ってる。 」」」」


「とどめはマトック、お前だ。頼むぞ。」


「おう! やってやるぜ!」


よし、後はやってみるしかないか。ショートソードを抜き、構えながらレッドドラゴンに接近。


みんなも俺の後を付いて来て、油断なく進み、間隔をひらけながら陣形を作る。


「グルルルル?」


うむ、流石にここまで近づいたら気付くか。レッドドラゴンは首をもたげながら、ゆっくりと持ち上げて、辺りを見回す。


そこで、俺と目が合った。途端にレッドドラゴンは怒り心頭といった咆哮を上げ、威嚇しだす。


「グオオオオオオー--!!!」


ち、この耳をつんざく様な咆哮で、みんなの戦意を消失しようとしている。


後ろを向き、みんなの様子を確かめる。


「平気か? みんな!」


みんなはコクリと頷き、問題無い事を示した。


よし、行くぞ。先ずは俺にヘイトが来るように、ナイフの投擲だ。必中、フルコンは既に使っている。


精神コマンドの使用回数は残り9回。この一戦で持つと良いが。


さて、どうなる、この一手。




















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