第184話 伝承される戦い ⑤
要塞からの脱出に成功した。
暗い通路を抜け、外に出たと思ったらここは要塞の壁づたいにあるボロボロの小屋だった。
「なるほど、ここへ出るのか。」
辺りを見ると、もう夜中だった。太陽は沈み、暗かったので警戒しつつ要塞を見上げる。
「まだモンスターの気配があるな、壁上に数匹のゴブリン。見つからない様にそっと立ち去ろう。」
俺の小声に、みんなは頷き、無言で返事をする。
物音を立てずに、静かに歩き移動する。まずは仮設基地を目指そう。
しばらく静かに歩き、そして徐々に足早になり最後には走り出して基地へ辿り着いた。
出迎えたのは、四種族連合軍に参加している獣人の戦士だ。
「遅かったな、大丈夫だったか?」
見張りの獣人に心配され、「何とかな。」と答える。
「もう皆とっくに基地に帰還している、報告があるならバルク将軍が指揮官用テントにいらっしゃるから、急いだ方がいいだろう。」
「解った、行ってみる事にするよ。見張りご苦労さん。」
こうして、俺達は仮設基地へと帰還した。みんな流石に疲れの色が見える。
早いとこ休みたいだろうが、バルク将軍に報告する事がある。まずはそこからだ。
「みんな、バルク将軍への報告をしなきゃならんが、どうする?」
俺が尋ねると、みんなは流石に疲れが溜まっているのか、俺の方を向き口々に言った。
「すまねえが、俺はパスだ。もう寝たい。」
「申し訳ありませんが、私もです。流石に疲れました。」
「もう寝たい。」
「あらあら、夜はこれからよ。でも私も少々疲れてしまったわ。」
「じゃあ、みんなは寝てていいよ。俺だけでも報告しに行って来るから。」
俺が言うと、姐御が「私は付き合うわよ。」と言ってくれた。
姉御も疲れているだろうに、Bランク冒険者は凄いんだな。体力が違う。
「では、姐御と俺で将軍に報告しに行って来るから、みんなは休んでて。」
「ああ、すまんが、そうさせてもらう。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ~。」
「ジャズ、私の寝床へ来てもいいわよ。」
ジュリアナさんは相変わらずだな、丁重にお断りしておいた。
「さ、行きましょう、ジャズ。」
俺と姐御の二人で、指揮官用のテントへ向けて歩き出す。
仮設基地内はかがり火が焚かれ、意外と明るい。迷う事無くテントへ着いた。
テントの前で立ち止まり、名を名乗る。
「ジャズ曹長、並びに仲間の剣士、バルク将軍に報告があります。」
「入れ。」
短い返事と共に、誰かの話し声も聞こえてきた。まだ軍議をしているという事か。
「入ります。」
そう言って、テントの幕を開け、中へと入る。そこには、見慣れた人物が居た。
「リース殿、お疲れ様です。騎士ゴートも騎士クリスもお疲れ様です。」
「うむ、そなたもお疲れだな。ジャズ殿。」
リースさん達が居た、何故かは解らないが何か重要な事を話し合っていたみたいだ。
そして、一番目を引くのが、ローブを着こなし、つば広の帽子を被った老人が一人。兎に角目立つのが………。
「そこの翁は何で鼻眼鏡など掛けているのでしょうか?」
姉御が尋ねると、御老人は快活に語りだす。
「これは儂の所有アイテムじゃ。マジックアイテムじゃぞ。凄いじゃろう。気にするでない。」
「はあ。」
鼻眼鏡を掛けたお爺さんだった、眼鏡のレンズ部分は「がり勉」使用の瓶底眼鏡だった。
妙に様になっている。ぱっと見、ひょうきんなお爺さんだ。
だが、その存在から醸し出されるオーラは、桁違いの強さがにじみ出ていた。
(何者だ?)
只もんじゃない事は解る。この指揮官用のテントに居るという事は、何かしらの重要人物だろう。
「おお、ジャズ曹長か、このような時間に何用かの?」
バルク将軍が俺達を見て、相好を崩したが、緊張感は伝わる。まだ作戦は終わってはいないのだから、当たり前か。
「は! 報告したい事があり、参上しました。」
「うむ、聞こう。」
俺が話そうとしている事に、テント内に居る皆が俺に注目する。緊張するなあ。
「報告します、我々冒険者と傭兵の混合一党の戦果ですが、要塞内部への進入に成功。そこで更に奥まで進行し、宝物庫まで辿り着き、解錠に成功しました。」
「おお!? それは誠か? だとしたらかなりの戦果だぞ。それで、宝はどうなった?」
バルク将軍が尋ねると、皆も興味があるみたいな感じで聞き入っている。
「は、総指揮官のザーリアスに宝を横取りされたので、そのまま引き返してきました。」
「なんだと!? うーむ、ザーリアスめ! ほとほと自分に正直な奴よ。で、その後は?」
「はい、要塞屋上にレッドドラゴンを確認したので、戦うのは得策とは考えず、そのまま地下通路へと行き、脱出を試みました。」
「うむ、レッドドラゴンが戻って来たので、儂等も早々に引き上げたのだ。その中にジャズ達が居なかったので心配したが、そう言う事だったか。」
「はい、そして、出口付近にて、ミノタウロスと交戦に入り、無事、勝利を収め、脱出に成功。今に至ります。」
「うーむ、そうであったか。いや、ご苦労。兎に角今は、ゆっくり休むと良い。」
「いえ、まだ報告があります。実は、脱出の際、あるマジックアイテムの鏡を見つけまして、それが「ゲートミラー」だったのです。勿論回収しました。おそらく、この鏡がモンスター増援の起点だったのではないかと。」
俺が言い終わると同時に、鼻眼鏡のお爺さんが興奮した様に問いかけてきた。
「何!? 鏡じゃと? ふーむ、ゲートミラーという事は、それこそがモンスター増援の謎だったじゃろうて、お手柄じゃぞ。ジャズとか言ったな。」
「はい、あのう、貴方は?」
俺が尋ねると、こほんっと咳払いを一つし、お爺さんは自己紹介した。
「儂はルカイン。巷では賢者と呼ばれておる。よろしくな、若いの。」
なんと、このひょうきんなお爺さんが賢者だったとは、世間は広いようで狭いようだ。
「よろしく頼みます。賢者ルカイン殿。ところで、この鏡ですが、今は自分のアイテムボックスに入っていますが、これは如何致しましょうか?」
ここで、賢者様が答えを言う。
「ふむ、儂に任せて貰えるかのう? 鏡面をセメントで塗り固め、海にでも捨てて来てしまえば良かろう。」
ふむ、なるほど。一理あるな。
「では、賢者様にお願い出来ますか?」
「うむ、任せろ。」
こうして、俺はアイテムボックスから「ゲートミラー」を取り出し、すぐさま賢者様のアイテムボックスへと移す。
一瞬のやり取りだ。ここでモンスターが現れては厄介だからな。
「うむ、確かに受け取った。まあ、鏡の事は儂に任せておけ。」
「はい、ありがとうございます。」
ふうー、これで一つ問題は解決したな。あと、残っている問題は。
「後は、屋上に巣くうレッドドラゴンですね。」
「うむ、今その事を話し合っていたところだ。ジャズ、何か良い策は無いか? 大人数で攻めて行ったところで、ドラゴンのブレスに焼き殺されるだけだからの。」
「うーん、そうですねえ。」
ふむ、レッドドラゴンか………。まあ、倒せない相手ではないが、苦戦する事必至だ。
うーむ、どうしたもんかな。まあ、あれだ。
「まず、少数精鋭で向かうのはセオリーでしょうね。それと、ドラゴンに効果がある武器の存在でしょうか。」
「ドラゴンに効果がある武器とな? ドラゴンは、その鱗が強固な事で有名だが、効果がある武器などあるのか?」
「はい、自分が所有している「魔剣グラム」ならば、竜殺しの剣ですので、大丈夫ではないかと。」
俺が何の気なしに答えると、バルク将軍はガタンッと椅子から勢いよく立ち上がった。
「な、なにー-!? 魔剣グラムだと!! そんな伝説の武器を持っておるのか? ジャズ曹長!」
「は、はあ。持っておりますが、何か問題でも?」
これには、賢者ルカインも驚きを隠せない様子だった。
「大ありじゃ馬鹿者! そんな伝説級のアイテム! 持ち歩くだけで命を狙われるぞい!」
賢者様が興奮している、やっぱり不味かったのかな? でも、一応貰ったアイテムだし、いいか。
「バルク将軍、自分の仲間に一人、ドラゴンスレイヤーを夢見る若者がいますが、その者にグラムを任せ、ドラゴンを討伐してみてはいかがでしょう。」
「なに? その様な若者がおるのか。では、その者に魔剣グラムを貸与し、レッドドラゴンを討伐させてみよう。勿論、ジャズ、お前も行くのであろう?」
おっと、俺も行けってか、まあ、俺が言い出しっぺだし、まあ、いいけどさ。
「解りました、明日、バルビロン要塞へ出発し、レッドドラゴンと戦います。」
そこで、姐御も話に加わって来た。
「当然、私も行くわよ、いいわよね? ジャズ。」
うーむ、危険ではあるが、姐御がそう言うならば、最後まで付き合ってもらうか。
「姐御が言うなら、こちらとしても有難いです。頼りにしてますよ。姐御。」
「任せて、レッドドラゴンか………相手にとって不足無し。全力でもって相手をするわ。」
うーん、姐御は気合が入っている。明日はいよいよバルビロン要塞奪還作戦の最後。レッドドラゴン討伐戦だ。ぐっすり眠って英気を養い、気合を入れなきゃな。
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