第183話 伝承される戦い ④



 ミノタウロス。


こいつは間違いなくボスモンスターだ。


頭は牛、上半身は人、下半身は牛の体長4メートル程のデカい奴。


手に持ったグレートアックスによる攻撃は、一撃必殺。喰らえば間違いなく命は無い。


俺達がバルビロン要塞内部から脱出する為には、避けては通れない難関。


周りには、ゴブリンやオークといったモンスターも配置されている。


対してこちらは、六人の精鋭。やるしかない、俺達がここを脱出する為に。


「マトック、イズナ、ケイト、ジュリアナはゴブとオーク。俺と姐御でミノタウロスに仕掛ける。」


「解った、無茶すんなよ。ジャズ。」


「おう。」


「姐御さんも頑張って。」


「ええ、任せて。みんなもしっかりね。」


みんながそれぞれに行動し、広範囲に展開してゆく。


 さて、ミノタウロスか。力が強くタフ、おまけに防御力も高い。アックスのよる攻撃もだが、奴の突進攻撃は脅威だ。気を引き締めて挑まねばなるまい。


「姐御!、左側面に回り込んで! 俺は右側面に回ります!」


「オッケー! 挟み撃ちね!」


姉御に指示を出し、ミノタウロスまで接近し挟み込む。


「よし、いい位置取りだ。」


ミノタウロスを挟み込んだ、これには対処出来ず、ミノタウロスは左右を見て攻撃対象を決めかねている。


他の仲間は上手く連携が取れていて、モンスター相手に大立ち回りをしている。


「あっちは大丈夫そうだな、さて、こちらも!」


ミノタウロスは狙いを姐御に付けたようだ、よし、チャンスだ。こちらに背を向けた。


俺はすかさずナイフをホルダーから全て抜き、ミノタウロスに向け連続投擲をかます。


「グオオオオオオッ!?」


 よっしゃ、ミノタウロスの背中に全部命中。かなりのダメージを与えた。咆哮して怒り心頭らしい。


この攻撃により、ヘイトを稼いだ俺に向け、ミノタウロスは狙いを俺に向けた。


「よし、いいぞ。こっちだ!」


ミノタウロスは俺へと走り込んできて、グレートアックスを振り上げた。


「そんな大振り、当たるかよ!」


すぐさまバックステップで避ける。攻撃は空振り。


ミノタウロスの攻撃直後の隙を突いて接近、ショートソードで脚を切りつける。


ミノタウロスはバランスを崩し、たたらを踏んで後ろへと下がる。


しかし、そこに待っていたのは姐御だ。


「兜割り!!!」


姉御の必殺技が炸裂、ミノタウロスの右腕を切断した。


「ブモオオオオオオッ!?」


ミノタウロスが苦し紛れに片手で斧を振り回す。だが、命中率が悪く、空振りを連続。


姉御も俺も、サイドステップで回避、ミノタウロスから一旦距離を置く。


「流石にタフだな、かなりダメージを与えた筈だが。」


「ジャズ! 一気に畳みかけましょう!」


「了解!」


俺達が戦っている最中にも、モンスターの増援はやってくる。


「ええーい! しつこい! 一体どこから沸いて来るんだこいつ等!」


俺や姐御の周りにも、モンスターが接近してきている。


「邪魔をしようっての? させないわよ!」


姉御が次々とモンスターを切り払っていく。俺も「ブレイジングロード」を発動させ、対処していく。


その間もミノタウロスの攻撃は続いている、しかし、狙いが甘い為、ことごとくを回避していく。


だがここで、ミノタウロスが前傾姿勢になったかと思うと、突如体当たり攻撃による突進をしてきた。


「くっ、回避が間に合わんか!?」


ミノタウロスの攻撃をまともに喰らって、反対側の壁までノーバウンドで吹き飛ばされた。


「ぐっ!? いっつうう。」


壁に激突し、背中から衝撃が走る。痛みはあるものの、まだ動ける。


ダメージ30、中々の攻撃力だ。残りヒットポイント70そこそこ。まだいける。


「ジャズ!? 大丈夫!?」


「大丈夫! まだいける!!」


「もう、心配させないでよね。あなたも大概タフよね。」


(さてと、そろそろ面倒になってきたな。)


ここで決めるか。


俺は精神コマンドの必中と魂を使用。闘気を練り、剣に宿す。


「ここで決める。いくぜ! ミノタウロス!!」


ショートソードを構え、そして、横一閃。俺の必殺技が発動した。


「必中、魂、フルコン掛けのスラッシュだ。ただで済むと思うなよ!!」


真空の刃が発現し、ミノタウロス目掛けて一直線に飛翔。


 ミノタウロスの左腕を切り飛ばし、斧は上空へと弾き飛び、真空の刃は胴体にも直撃。ミノタウロスをくの字に折れ曲げつつ後方へ吹き飛ばした。


「ブモオオオオオオオオオオオー--------………。」


ミノタウロスは断末魔を上げ、倒れ込み、仰向けになった。


上空へと打ち上げられたグレートアックスが、回転しながら放物線を描き、そして。


「グオオオオッ………………。」


ミノタウロスの胸部に、落下してきたグレートアックスが突き刺さった。


ミノタウロスはピクリとも動かない、どうやら倒したみたいだ。


ここに、ミノタウロスは絶命した。


「勝負ありだ。」


辺りは静けさ、とはいかなかった。まだモンスターの増援が続いていた。




 {経験点5000点獲得しました。}


 {魔剣グラムを入手しました。}



 おや? ボスモンスターを倒したからか? 経験点とアイテムを貰えたよ。やったね。


「やったわね! ジャズ。」


「姐御、俺達もモンスター戦に参戦しましょう。」


「そうね、兎に角数を減らさないと。」


こうして、ボスモンスターを倒した俺達は、そのまま殲滅戦へと雪崩れ込んだ。


 兎に角、倒して倒して倒しまくった。


 どれぐらい時間が経過しただろうか? 気付いた時にはもう、モンスターの影も形も無かった。


「はあ、はあ、はあ、」


「ふう、ふう、ふう、」


みんな疲れている、当たり前か。これまで戦い続けてきたんだから。


しかし、ここへ来てモンスターの増援も無くなって来た。


辺りを見回し、警戒する。やはり動いているモンスターは見当たらない。


更に周りを見回すと、キラリと光る物が目に映った。


「あれは? 何だろうか?」


「どうしたの? ジャズ。」


「いえ、あそこに鏡みたいなのがありまして、ちょっと調べてみます。」


「あ、私達もそっちに行くわ。」


こうして、みんなで怪しい鏡のある所へ近づき、調べる事になった。


「うーん、普通の鏡じゃないか?」


「よく見ろマトック。この鏡は俺達の姿を映していない。」


「あっ、本当だわ! なんで?」


 縦に長い鏡が壁に立てかけてあり、そして、この鏡は俺達を映していない。これは只の鏡ではないな。


 鏡に映し出されているのは、こことは違う場所だ。明るい場所とは言い難く、むしろ暗い場所だ。


森か? 林か? 兎に角自然環境が目に映る。


しばらく様子を見ていたが、モンスターのゴブリンが映し出され、通り過ぎようとしている。


「あ、ゴブリンが映った。」


ケイトが言ったその瞬間、突如鏡から映し出されたゴブリンが、なんと鏡から出てきた。


「何だ!? モンスターが鏡から!!」


俺はすかさず、ショートソードを突き、現れたゴブリンを倒す。


「鏡から、モンスターが………。」


「今の、見たか?」


「見た。」


「ふーむ、間違いないな、この鏡はおそらく「ゲートミラー」だ。」


俺が言うと、みんなはこちらを向いて、質問してきた。


「ゲートミラーって何だ?」


「ん? こことは違う場所に、もう一つ鏡があって、そことここにある鏡が繋がってんだよ。そういうマジックアイテムだな。」


「つまり、ここにこの鏡があるから、モンスターの増援が次々と現れたって訳ね?」


「そういう事でしょうね。」


姉御が結論を言い、イズナも納得していた。


みんなは一時、沈黙し、そして大声ではしゃぎ始めた。


「やったぞー! これを何とかすれば、要塞奪還もあと少しじゃねえか!!」


「まさか、このようなカラクリがあったとは。」


「兎に角、この鏡を何とかしましょうよ!」


「あらあら、みんな興奮しているわねえ。」


「ジャズ、何とかなりそう?」


「ちょっと待って下さい。姐御、おそらくこの鏡は破壊出来ませんよ。なにせマジックアイテムですからね。」


「ええ!? そうなの?」


「はい、しかし、俺のアイテムボックスに入れて死蔵しとけば、いいんじゃないかなと思うんですがね。」


「それよ!! それで行きましょう!」


試しに、鏡を割ろうとしたが、失敗した。鏡面部分が透き通ったのだ。これでは鏡は壊せない。


よって、俺のアイテムボックスに、納まる形で対処した。


まあ、これでバルビロン要塞の一番の問題点である、モンスターの増援が無くなった訳なので、後は時間の問題だな。


 こうして俺達は、地下通路からの脱出に成功した。敵増援を防ぐ事にも成功したという事だな。


ふう~~、やれやれ。こりゃ明日は筋肉痛だな。








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