第182話 伝承される戦い ③



 バルビロン要塞内部での戦いは、今の所順調なように思える。


今、俺達は要塞内部の通路で、モンスターの増援と戦っている。


まったく、よくもまあここまで数が一気に増えたな。どこから沸いて来るのやら。


みんなで相互支援しつつ、通路を戻って入り口近くまで辿り着いた。


「やれやれ、やっとここまで辿り着いたか。」


俺達が入り口近くまで来た事に、皆は少しだけ安堵する。


「それにしても、悔しいな。ザーリアスに全部財宝を持ってかれるなんて。」


「あの人は貪欲過ぎます。」


「まったく、頭にきちゃうわね。」


傭兵三人は今でも憤慨している、諦めきれないのだろう。


ここで、ジュリアナさんがマトック達に囁いた。


「大丈夫よ、後でまた取りに来ればいいだけよ。それまで大人しくしていましょう。」


「後で?」


「ウフフ、そう。あ・と・で。ウフフ。」


なにやらジュリアナさんが傭兵達に吹き込んでいる。まあ、いいか。


要塞の建物内で、俺達が入って来た入り口に辿り着いた時だった。


外から耳をつんざく様な咆哮が聞こえてきた。


「グヲオオオオオオオオオオオオオオオオオー------!!!」


外から聞こえてくるのに、辺りの空気が振動している。物凄い咆哮だ。


思わず両手を耳にあてがい、塞いだ。だがそれでも聞こえてくる。


「なんだ!? この咆哮は!?」


俺がおののいていると、傭兵達三人は顔を真っ青にし、恐怖の表情で答えた。


「や、奴だ。レッドドラゴンが戻って来やがった!!!」


「レッドドラゴンですって!?」


流石の姉御も戦々恐々としている。ジュリアナさんも同じ様な顔をしていた。


俺は入り口の壁を背に、顔を少しだけ出して屋上を見上げる。


赤い鱗に大きな翼、獰猛な顔つき。巨体。


「………確かに、間違いない。レッドドラゴンだ。」


そして、中庭に視線を向けると、そこには既に四種族連合軍の姿は無かった。


おそらく、レッドドラゴンが舞い戻って来たので、慌てて戦場を離脱したのだろう。


 良い判断だ、上空を飛ぶレッドドラゴンが相手では、地上戦力など捻り潰されるだけだ。


 バリスタやアーバレストと言った機械弓兵器が無い以上、離脱するしかないだろうな。


流石バルク将軍。こちらの消耗を最小限にと考えていたのだろう。


皆の方へ向き、報告し相談する。


「確かに、レッドドラゴンが要塞の屋上に居座っている。」


マトックが青ざめた表情で伺ってくる。


「ど、どうすんだ、ジャズ。」


俺は一旦皆の表情を確認した、明らかにみんな恐れている。


「今の状態では、まともに戦えんだろう。逃げるしかないな。」


「逃げるっつってもよう。どこへだ?」


「ふーむ、ここから中庭へ出たら、まず間違いなくレッドドラゴンに見つかるだろう。」


「他に道は無いの?」


姉御が尋ねると、マトックが思い出した様に返事をした。


「あ、そうだ! バルク将軍が言っていたっけ。確かこの要塞内部には、要人脱出用の地下通路があるって言ってたぞ!」


「よし、それだ。地下通路を使って脱出しよう。みんな、いいかな?」


みんなに尋ねる。


「賛成するわ、そう言えばここへ来る途中、下へと降りる階段があったわね。」


「そうですね、そこへ行ってみましょう。」


姉御とイズナが意見を一致させ、みんなも了解していた。


 通路を進み、地下へと続く階段を発見して、俺達は階下へと進んで行く。


一番下の通路へ辿り着いたところで、目の前を見る。


地下通路にはヒカリゴケが自生していて、松明の明かり無しでも十分に明るかった。


しかし、そのお陰でモンスターが蔓延っているのも、同時に理解できた。


「うわあ、うじゃうじゃ居る。」


「これは少し骨ですね。」


「ここを突っ切るしかないのよね?」


傭兵三人はこの数のモンスターを見て、辟易していた。


まあ、俺だって嫌だよ。ここを突っ切るのは。だが。


「やるしかないだろうね、まあ、ここは俺に任せてくれ。」


そう言って、俺は雷の小太刀を構え、闘気を練り、武器に宿す。


「ジャズ、アレを使うのね?」


「ええ、エリック師匠直伝の、俺の必殺技です。」


精神コマンドの熱血と必中を使い、準備は整った。あとはやるだけ。


モンスターの群れ目掛け、一気に小太刀を振り抜く。


「必殺! 横一文字斬り!!」


真空の刃が発生し、真っ直ぐに飛翔していく。


この技は貫通属性がある為、敵集団に効果がある技でもある。


案の定、次々とモンスターを真空の刃が切り倒していき、しかも通路は一本道。


ほぼモンスターを、全て薙ぎ払っていった。残りのモンスターは壁際に居た奴くらいだ。


「よっしゃ、こんなもんかな。」


「相変わらず出鱈目ねえ。」


「いやいや、姐御の兜割りだって中々。」


二人で話していると、傭兵三人が目を丸くしていた。


「な、なあジャズ。お前ってさ、結構強いの?」


「真空の刃など、中々お目に掛かれません。」


「たった一人でこの数のモンスターをほぼ全滅って、ジャズって何者?」


更にジュリアナさんも驚いていた。


「あらあら、中々やるじゃない。ジャズ。私体がほってって来ちゃったわ。」


妙に艶めかしい仕草で、俺にすり寄って来たジュリアナさんを、姐御が引き剥がす。


「はいはい、今はそんな事してる場合じゃないでしょ。先を急ぎましょう。」


「あん、連れないわねえ。」


 こうして、残ったモンスターをみんなで叩き潰しながら、地下通路を進んで行く。


レッドドラゴンと戦うよりはマシだが、ここにも、おそらく通路の奥にボスモンスターが居るだろう。


俺のゲーマーとしての勘が、そう告げている。


「みんな、この先に大きな広間があると思う。そこで、おそらく大型モンスターが待ち構えているだろう。警戒は厳に。決して無茶はしないでくれよ。いいかい?」


俺の言葉に、みんなは不思議そうに首を傾げ、口々に言う。


「ねえ、ジャズ。どうしてそんな事が解るの?」


「ここへ以前、来たことがあるとか?」


「俺達よりも先にか? そりゃ在り得ねえ。」


「そうですね、我等が四種族連合軍に参加したのは、去年でしたので。」


「あらあら、ジャズ。何か隠してない?」


さて、困ったな。下手を打ってしまった。話の辻褄を合わせないと、俺が疑われる。


「なに、簡単だよ。俺はここの設計図を見た事があるんだ。だから、大雑把な事なら解るって訳だ。」


「「「「「 ふー-ん。 」」」」」


………ちょっと無理っぽかったかな? まあ、みんなここは知らないフリを決め込んでくれているみたいだし、それに甘えておこう。


そうこう話しながら歩いていると、案の定、大きな扉が目の前にあった。


この先に、おそらくボスモンスターが居るだろう。警戒しなくては。


「みんな、この先だ、慎重に事に対処していこう。何が出てくるか解らない以上、油断は禁物ってやつだ。」


「オッケー、いつでも行けるぜ。」


「準備は出来ています。」


「ちゃっちゃと済ませちゃいましょう。」


「あらあら、お姉さんは後ろで待機していてもいいわよ。」


「ジャズ、こっちはいいわよ。」


よし、扉を開けるぞ。


鬼が出るか蛇が出るか。


結果は後のお楽しみってやつか。


俺は地下通路の奥にある両扉を開き、大広間の中を覗き見る。


やはり………居る居る………モンスターの大軍に囲まれて、中央に鎮座しているボスモンスターは。


ここで、小声で皆に聞こえる様に伝える。


「ありゃあ、ミノタウロスだ。力自慢の大型ボスモンスターだな。」


「ミノタウロスか、レッドドラゴンと戦うよりかはよっぽどマシだが、それでも強敵である事に間違いは無いぜ。」


「どうしますか? ジャズ殿。」


ふむ、6人全員で向かうのは、おそらく止めた方がいいだろう。


アタッカーに二人、周りのモンスターの足止めに四人、ってとこか。


実力的に見ても、俺と姐御は外せない。アタッカーはこれで決まり。


残る四人で、周りのモンスターの対処。でいってみようか。


「俺と姐御でミノタウロスを攻撃、後の四人で周りのモンスターの対処。で、どうだろうか?」


「「「「「 解った。 」」」」」


よし、これでいこう。決まったら後はやるだけ。


「よっしゃ! 油断せずに行こう。」


そうして、俺達は一気呵成に広間へと雪崩れ込んだ。


狙いはボスモンスターのミノタウロス。他はみんなに任せれば良い。


「姐御! いきますよ!!」


「ええ! いきましょう!!」」


精神コマンドの残り使用回数は7回。いけるか。


こうして、要塞脱出を賭けた戦いが、始まった。















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