第187話 伝承される戦い ⑧



 

   バルビロン要塞から西へ1000メートル地点 仮設基地――――



 「なんか、みんな忙しそうにしてるな。」


 「色々と待った無しって感じね。」


 ガーネットとラットは、補給物資の運搬の護衛依頼をこなし、仮設基地へ到着していた。


仮設基地では今、バルビロン要塞奪還作戦の最終フェーズが始まろうとしていた。


 ジャズ達がレッドドラゴンを討伐した事を知らせる信号弾を確認した見張りが、総指揮官のザーリアスを探しているのだが、一向に見つからずにいた。


そこへ、ガーネットが今の基地の状況を尋ねた。


「あの~、この基地は今どうなっているのですか?」


 呼び止められた見張りの兵は、ザーリアスを探しながら声を掛けられた相手に対応した。


「ん? ああ、今精鋭部隊が要塞攻略戦で成果を上げたところだ。俺はその事を報告しなくてはならんのだが、おかしいな? ザーリアス指揮官が何処にも見当たらないんだよ。」


「という事は、要塞奪還は上手く行っているという事ですか?」


「ああ、そうだ。一番問題だったレッドドラゴンが討伐されたので、これから俺達四種族連合軍が総出で出撃だろう。君たちも余裕があれば戦いに参加してくれ、戦力は多い方がいいからね。」


そう言って、見張りの兵士は指揮官用テントへと駆けて行った。


「ラット、どうする? 要塞奪還作戦は上手くいっているんだって。」


「んー、それじゃあ俺達も参加してみよか? 俺達だって何かの役に立つだろう。」


「そうね、私達も戦いに参加しましょう。」


 ガーネットとラットは、要塞奪還作戦の最後、モンスター殲滅戦へ参加を決めたのだった。



 一方、同じ護衛依頼を受けたモヒカンと逆モヒもまた、仮設基地の雰囲気にあてられていた。


「おお! なんかみんな忙しそうに動いているな。」


「状況から察するに、おそらく要塞奪還が上手く事を運んでいるっぽいな。」


「ふーん、それじゃあ俺達も戦いに参加すりゃあ、美味い汁を吸えるかもしれんな。」


「おい、まさか参加するつもりか? やめとけってモヒカン、怪我じゃすまねえぞ。」


「なんだよ逆モヒ、報酬たんまり貰えるかもだぜ。ここらで俺達も目立っとくべきじゃねえか?」


「………はあ、仕方ねえな。俺達も戦いに参加するか?」


「おう! そうこなくっちゃ。強えー奴の近くに居れば安心だぜ。お!? あの騎士なんて強そうだ。」


 そうして、モヒカン達が近づいた相手は、リース達アゲイン王国軍騎士団長のゴートだった。


「げっ!? しまった。」


「んん? おお! 其方らはいつぞやの恩人ではないか、何だ? この戦に参加するのか?」


「い、いや、俺達はただ………。」


 モヒカン達は焦っていた、アリシアの英雄と知り合いだと嘘を付いている為、リース達にあまり近づきたくなかったのだったが。


「そう言えば、アリシアの英雄殿に話を付けて頂ける件はどうなりましたかの?」


ゴートが尋ねると、モヒカン達は身構え、上手く言葉を選びながら返事をする。


「い、いやあ、あの人はちょっと今忙しいみたいだから、また今度な。」


「うーむ、それは残念。英雄殿に助力を頼みたかったのだが、致し方ないか。」


 モヒカン達は肩を撫でおろし、ほっとしていたが、次の瞬間、ゴートがこの戦いに参加しないかと誘う。


「ところでおぬし等も、戦いに参加するのかの? 英雄殿と知り合いならば、そなた等も相当強かろう。」


「いやあ、俺達はそんなに強くないっすよ。」


ここでモヒカン達は思った。強い奴の側に居れば、安心だと。


「でもまあ、戦いには参加しますけどね。戦力は多い方がいいでしょうからね。」


「おい、モヒカン、ほんとに参加すんのか? やめとけって。」


「大丈夫だって、心配すんなって。上手くいくって。」


「お前なあ、怪我しても知らねえぞ。」


 こうして、仮設基地からは、四種族連合軍とそれに参加した冒険者達が、要塞に向けて続々と進軍していくのだった。



  バルビロン要塞――――



 「シビアな展開になってきやがったな。」


 俺達はレッドドラゴンを討伐したのだが、少し休憩していたらいつの間にかモンスターが建物内から出て来ていた。


 態勢を整え、交戦準備に入った俺達だったが、レッドドラゴン戦の疲れがあり、消耗していた。


 更に、モンスター共の数がおよそ500。その中には一際巨体な個体が一つ目立っていた。


「あれはオークキングだな、間違いなくボスモンスターだ。あいつがこのモンスター軍団を指揮しているんだろうな。」


「建物から総出で出て来るとは、モンスターの癖にいさぎよいじゃねえか。」


「感心している場合ではありませんよ、マトック。」


「あらあら、まだまだ楽しませてくれるみたいね。お姉さん張り切っちゃうわよ。」


みんなはやる気のようだ、元気があってよろしい。こっちはヘトヘトだがな。


「ジャズ、どうするの?」


「さっき信号弾を打ち上げたから、もうじきここへ味方の増援が来ると思う。まあ、応戦しましょうか?」


「オッケー、やる事は変わらないのね。」


「そうですね、兎に角モンスターを倒しまくっていきましょう。」


 こうして、バルビロン要塞奪還作戦は最後の仕上げとして、モンスター殲滅戦へと移行していった。


 しかし、戦い続けていくとやはり消耗は思いの外響いているらしく、皆の動きが鈍いのが窺える。


「無理するなよ皆! 連携を執れ、後ろに敵を回すな!」


「そんな事言ってもよ! この数! 半端ないぜ!」


「泣き言は聞きたくありません!」


「こんなに沢山の相手をしなくちゃイケないなんて、お姉さん興奮しちゃう。」


「まだ余裕がありそうですね、貴女と言う人は。」


みんな強がっているが、見てれば解る。明らかに消耗が響いている。


 動きが鈍い、被弾率が多くなってきた。大したダメージではなさそうだが、蓄積すると質が悪い。


 そろそろ「大激怒」の使用時か。そう思った瞬間。ガーゴイルゲートを潜り、続々と騎馬隊が駆けつけて来た。


「遅くなってすまない!! ジャズ殿!!」


「リース殿!!!」


 おお、リースさん達だ。アゲイン騎士団が中庭へと入って来て、その後に続く後続が次々にやって来た。


「有難い、味方の増援だ。これで何とかなるか。」


 四種族連合軍が総出撃してきた。今までの敗戦を払拭するように、雪崩をうって駆け付けた。


「よし! いける。このまま戦いに参加だ。だが、ちょっと疲れてきた、みんな、少し休もう。」


「賛成、私も流石にヘトヘトよ。」


「あん、二人共ヘトヘトなんて、お姉さんに内緒で一体何シてたの?」


「貴女と言う人は、ホント余裕ですね。」


「あ~、流石に疲れたぜ。イズナ、ちょっと休憩しようぜ。」


「そうですね、私も疲れました。」


俺達はガーゴイルゲートの開閉装置に待機し、そこを守る形で一休みしている。


そこへ、何故かガーネットとラット君が戦いに参加しているのを見かけた。


「二人共、何してんの?」


「あら、ジャズ。ここに居たの? 探しちゃったわよ。」


「俺達も要塞奪還作戦に参加したっすよ。これも修行っす。」


やれやれ、若者はいいなあ。元気があって。おっさんは疲れたよ。


「あまり無理しないでね、二人共。」


「はい、姐御もお疲れでしょう。後は私達に任せて下さい。」


「そうっすよ、俺達だって成長してるんすからね。」


姉御はニコリと頷き、ガーネット達を見送っていた。


自分の後輩が活躍していくところを、複雑な気持ちで見ているといった様子だ。


 怪我だけはしないように、頑張って貰いたいな。まあ、無茶しなければ、二人は大丈夫だとは思うが。


 ガーネット達だけではなかった。よく見ると、いつか見たモヒカン頭の二人組も、戦いに参加しているみたいだった。


「あの二人も参加していたのか、よくやるなあ。」


 だが、よく見るとあまり戦闘はしていない様子だった、騎士ゴートやリースさん、騎士クリスの後ろから手負いのモンスターを叩いていた。楽してるな、あの二人。


「さて、俺も少し休憩したら、戦いに参加だな。やれやれ、戦闘ってのはキツイなあ。」


 残りの精神コマンドの使用回数は2回。果たして。どう、あい、なり、ます、やら、だな。



















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