第175話 ジュリアナ嬢 ②



 ジュリアナさんを仲間にしたくてここまでやって来たが、リースさん達も俺と同じ目的だった。


さて、どう相成りますやらだな。ここでジュリアナさんを仲間に出来ないと、後々手間取るだろう。


どうしても仲間にしたいが、さて、こちらの事に構って貰えるかな?


ジュリアナさんが口を開く。


「うーん、今のままでは解りませんね。お二方の詳しいお話を聞いた後に判断させて頂きます。」


「それで構いません。」


「こちらも、結構です。」


ふーむ、詳しい話か。そう言えば何でリースさん達はジュリアナさんを必要に思っているのかな?


「では、お伺い致します。まずは、リース殿のお話から聞かせて下さい。」


リースさんはうむと頷く。


「解りました、では順を追ってお話します。」


おや? この場で話すという事は、俺達も聞いてもいい内容って事かな?


それとも、肝心な所は透かして話すとか。まあ、俺も興味がある、リースさんの話を聞いてみよう。


リースさんはコホンと咳払いを一つし、真剣な表情で語り始めた。


「我々アゲイン騎士団は、ある目的の為に賢者ルカイン殿を探しています。なのでミニッツ大陸からここ、アワー大陸へとやって参りました。」


ジュリアナさんが「まあ。」と驚きの表情をしている。


「賢者ルカイン様を探しに?」


「ええ、そうです。それが我等のこの大陸へ来た真の目的。どうしても賢者殿のお力添えを頂きたく思いまして、ですので、ジュリアナ嬢を仲間にしたいというのは、実は副次目的なのです。」


「まあ、私は賢者様のついで、という事ですね。」


「あ、誤解の無きように。我等は優秀な人材を探していますので、ジュリアナ嬢を仲間にしたいというのは本当です。」


「そうでしたか、それで、賢者様は見つかりましたか?」


ジュリアナさんが尋ねると、リースさんは表情を明るくして答えた。


「はい、賢者ルカイン殿の今居る場所は、バルビロン要塞におられるようなのです。」


え? そうなの? 


ジュリアナさんも頬に指を当て、何やら思案気にしている。


「バルビロン要塞ですか、噂では危険な場所とお聞きしていますが。そこへ私を同行させると仰るのですか?」


「はい、そうなりますが、我等は何も、要塞を奪還する為に行く訳ではありません。目的はあくまで賢者殿です。」


ふーむ、そう言う事か。リースさん達は賢者ルカインって人に会いにここまで来たって訳か。


そのついでに、ジュリアナさんを仲間に出来たら御の字ってところか。


何故人材を集めているかは、教えてはくれないようだ。そこはお茶を濁している。


ここでジュリアナさんが、リースさんに言葉を掛ける。


「リース殿のお話は解りました。まだ今の段階ではお返事出来ません。この後、ジャズ殿の意見も聞かないと公平な物の見方が出来ませんので。」


「はい、それは解っています。我等の話は以上となります。」


ふーむ、リースさん達も中々に目的がハッキリとしている様だ。


「では、次にジャズさんの意見を聞かせて下さい。ドニからの紹介というのは、私からしたらあまり無下にも出来ませんので。」


お、今度は俺の番か。さて………話に乗ってくれるかな?


「はい、俺達はジュリアナさんを仲間にしたい目的は簡単です。シーフとしての貴女を必要としていますから。」


俺が話始めると、ジュリアナさんだけでなく、リースさん達も注目しだした。


「シーフとしての私を?」


「はい、自分達の目的地も、実はバルビロン要塞なのです。」


これを聞いたリースさんは、挙手をして言葉を掛けようと動いた。


「どうしましたか? リース殿。」


俺が尋ねると、リースさんは驚きの表情で言う。


「君達も、バルビロン要塞に行くのかい?」


「ええ、そうなりますね。目的地は一緒のようです。」


と、ここでジュリアナさんが更に聞いて来た。


「シーフである私に、バルビロン要塞まで行って何をさせようと?」


「はい、ジュリアナさんにやって頂きたい事は、宝箱の鍵開け、宝物庫の扉の解錠。そんなところです。」


「財宝目当てですか?」


「いえ、違います。自分が受けた依頼が、バルビロン要塞で奪われた母の形見の品、魔法の杖を取り戻して欲しいという依頼を受けましてね、そこで自分達にはシーフかスカウトが必要になった訳です。」


「なるほど、お話は解りました。何処にあるかも解らない物を探すという事ですね。」


「仰る通りです。要塞内を片っ端から探す事になりそうですので、戦えるシーフが必要だったのです。」


俺の言いたい事は言った。後はジュリアナさんの判断に任せるしかないな。


「あの、一つよろしいかしら?」


ジュリアナさんが俺に声を掛け、困った様な顔をしていた。


「なんでしょう?」


「先程も言いましたが、バルビロン要塞は危険な場所なのです。あまりご無理をなさると、とんでもないしっぺ返しがありますよ。要塞奪還は、未だに成し遂げられていないのですから。」


「はい、存じております。ですが、ここはリース殿と意見が一致していると思います。自分達も要塞奪還を目的にしてはいません。奪われた杖を取り戻す事を優先します。」


俺の説明を聞いたリースさんが、更に言った。


「では、我等は同じ目的地へ向かう訳ですか? でしたらどうでしょう、我々と行動を共にしませんか?」


うーん、俺もその提案には賛成したいが、問題もある。拘束期間だ。こっちは割と自由にやって行きたい。


ここでリースさん達アゲイン騎士団と行動を共にしたら、おそらく賢者ルカイン関係でもこっちが関わる羽目になりかねない。


出来れば、それは避けたい。俺は目的を果たしたら直ぐにクラッチへ帰還するつもりだ。


「リース殿、折角の申し出だが、それは断らせていただく。」


「それは、何故だい?」


「タイミングの問題ですな。中々思うように事を運びたく思いますので、自分達だけで身軽になっておきたいのですよ。」


「なるほど、そうですか。」


リースさんは明らかに肩を落としていた。まあ、どうせ目的地は同じな訳だし、そこで合流って流れだと思う。


そして、ジュリアナさんが俺達に向け、提案する。


「でしたら、こういうのはどうでしょう。私は最初、ジャズ殿と行動を共にして、目的の杖を発見し、入手したら脱出。その後、ジャズ殿から報酬を貰い、その後でリース殿達と共に行動する。と、いうのは如何でしょうか?」


うむ、悪く無いな。リースさんも同じ意見だろう。


「しかし、ジャズ殿の後とはいえ、我等と行動を共にするとなると、拘束期間が長くなってしまいますが、そちらは大丈夫ですか?」


「ええ、構いませんよ。私はそろそろ娼婦としての仕事にも飽きてきたところですし。」


ふむ、話は決まったな。ジュリアナさんはどちらにしても、俺達の仲間になってくれるみたいだ。


話は決まったようで、リースさんの隣に居る老騎士が声を発する。


「では、先にジャズ殿の目的を果たす為に、ジュリアナ嬢を仲間にして、行動を共にする。その後、我等アゲイン騎士団の仲間になって頂く。という事で宜しいですかな?」


「ええ、それで構いません。では、私は早速店長へ店を休む事を伝えなければなりませんので、ここで失礼します。それではみなさん、ごきげんよう。」


ジュリアナさんが去ってしまう前に、俺が説明する。


「ああ、ジュリアナさん、俺達は明日の朝、要塞へ向けて出発します。冒険者ギルドで待ち合わせしましょう。」


「ええ、わかりましたわ。では、失礼。」


こうして、ジュリアナさんは部屋を後にした。残った俺達はお互いに顔を見合わせ、笑みを零しつつ、部屋を出るのだった。


「結局、共に行く事になりそうですね、ジャズ殿。」


「ええ、まあ、リース殿達は馬で出撃でしょうし、そちらの方が早いのでは?」


「そうなりますね、では、我等は要塞へ向けて行動を開始しますので、ここで失礼します。」


こうして、リースさん達とバルビロン要塞での行動を共にする事が決まり、俺達も今日は宿屋へ行って休もうという事になった。


明日も朝が早い、早めに寝るとするか。姐御と夕食を執り、宿屋で二部屋を借り、それぞれ部屋で寛ぎつつ寝るのだった。










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