第174話 ジュリアナ嬢 ①
ジュリアナさんが勤めている娼館の前までやって来た俺達だったが、そこでリースさん達にも出くわした。
どうやら俺達の目的と同じ様な事らしい、リースさん達もジュリアナさんが目当てのようだ。
「まあ、ここで立ち話も何だし、店の中へ入りませんか?」
俺が訊くと、リースさんも同じ考えだったらしく、直ぐに返事が来た。
「そうですね、そうしましょう。」
こうして、みんなで連れ立って店の中へぞろぞろと入って行く。
傍から見たらこの店は、超人気店だと思われる事だろう。
店の中に入ると、一人の店番の男が出てきた。待合室には他にお客さんが数名居る様だ。
「いらっしゃいませ、どなたかご指名ですか? 予約はございますか?」
店の人はこちらを客として出迎えている、当たり前か。こんなぞろぞろと店に入ってきたら誤解されるよな。
リースさんがみんなを代表して、店の人に言う。
「すまない、我等はこの店の客ではない。実は人を探している。」
「左様でございますか、して、どなたですか?」
店の人は接客態度が良く、この様な事態にも迅速に対応している様子だ。
きっと、こういう店ってのは、お客さんの為に色々と気を遣う事の出来る人を店番にしているのだろう。
「実はこのお店に勤めているジュリアナ嬢に話があるのです。呼んできて頂けませんか?」
リースさんは直球で意思を伝えた。こういうのはストレートに言葉を選んだ方が上手く事が運ぶ。
あらぬ誤解を招かないためである、リースさんはその辺、解っているようだ。
「畏まりました、では応接室へご案内致します。こてらへ。」
店の人は、俺達をどこか別室へと案内するみたいだ。まあ、客じゃないなら待合室にいたら他のお客さんに迷惑だろう。
俺達は黙ってお店の人に従い、応接室らしき部屋に案内された。
部屋を見渡すと、調度品など、豪華な物が飾られている。ソファーにテーブル、ティーセット。
中々豪華な部屋だ、俺達をこの部屋に通すという事は、こちらを信用していると見て取れるな。
中々見る目のある店番のようだ。
まあ、リースさんの服装を見れば、どこかのお貴族様だろうと予想はできるからな。
部屋で待っている間、メイドさんが部屋に入って来て、お茶を淹れてきた。
「どうぞ。」
俺達全員にお茶を差し出してきた。各人がそれぞれ受け取り、テーブルに置く。
「どうも。」
ふーむ、俺達全員にお茶を出すという事は、歓迎されていると見るべきか。
不思議なものだ、こういう店に入って、応接室に案内され、この様な態度を執られて、リースさんの見た目のお陰かな?
お茶を啜りながら、ジュリアナさんが来るのを待っている間、俺達は会話を始めた。
「リース殿もジュリアナさんに用事が?」
「ええ、そうです。ジャズ殿もですか?」
「はい、どうしても仲間になって頂きたく思い、ここまで参上しました。」
「そうでしたか、実は我等もまた、ジュリアナ嬢を仲間にしたく思い、ここまで来ました。」
ふーむ、お互いにジュリアナさんの事を必要としているって訳か。
どうして? と訊いても答えてはくれないだろう。そういう雰囲気を醸し出している。
俺としては、ジュリアナさんが優秀なシーフだと聞いたから、是非仲間にしたいと思っているのだが。
リースさんも、おそらくそんな感じでここまで来たのだろう。
やれやれ、ジュリアナさんは人気者だな。この界隈では有名なのかな?
そんな感じで待っていると、ジュリアナさんらしき人物が部屋に入って来た。
「お待たせしました、私がジュリアナです。私に何かご用があるとか?」
現れた女性は、それは見事なプロポーションであった。
ナイスバディ、くびれた腰、豊満な胸、スラリとした脚、露出過多な衣装。セミロングの髪型。
そして、何とも言えないムンムンとしたフェロモン。これが一番凄い。その場にいるだけで気分が高まって来るのが解る。
落ち着け、落ち着けよ俺。ここへは遊びに来た訳じゃないんだから。と自分に言い聞かせる。
そうしなければ、隣に居る姐御が機嫌の悪い顔をしているのを理解してしまうから。
リースさん達の仲間のクリスさんもまた、怪訝な表情をしている。女はこういうのに敏感なのかもしれない。
「初めまして、私はリースと申します。ミニッツ大陸からやって参りました。どうぞ宜しく。」
「はい、こちらこそ。ジュリアナと言います。宜しく。」
声もまた、綺麗な、透き通る様な瑞々しい声をしている。
「そして、貴女に用があるのは、我等だけではありません。」
そう言って、リースさんは俺の方を向き、会話を促してくれた。できる男だな、リース殿は。
「えーっと、初めまして、ジャズと申します。アリシアの兵士で、今は冒険者をやっています。」
「初めましてジャズさん。ジュリアナと言います。宜しく。」
さて、お互いに自己紹介が済んだが、ここからが本題だ。
俺もリースさんも、この女性を必要としている。引く手あまたと言う状況だ。
「では、早速お話をしましょう。何故私に声を?」
ジュリアナさんが、話を進める為に俺達を促した。
と、ここでリースさんが俺の方を向き、「こちらが先に話しても良いか。」と訊いて来た。
俺はコクリと頷き、手の平を上へ向け、リースさんに「どうぞ。」と差し向けた。
「ありがとう。」と一言。まずはリースさんのお話からという事になった。
「早速ですが、我等はジュリアナ嬢を仲間にしたいと考えています。」
「まあ、私を?」
「はい、お噂は聞き及んでおります。中々に優秀なシーフだとか。」
「まあ、嗜む程度ですよ。私の腕よりも、もっと凄いシーフは居ますからね。」
ふーむ、謙遜してるって感じだな。俺の見た限り、この人、只もんじゃない。
優雅な所作からは想像できないくらいに、動きが機敏だ。一挙手一投足が正にシーフ、或いはスカウト猟兵そのものって感じだ。
(この人、できる。)
「我等は、ある目的の為、優秀な人材を広く集めているのです。その為にここ、アワー大陸までやって来ました。」
「まあ、それは遠い所からわざわざお越し下さり、お疲れ様です。」
「如何でしょう、貴女には、もし、我等の仲間になって頂けたら、報酬をお支払い致します。」
「う~ん、つまり、私を傭兵として雇いたいと?」
「はい、如何でしょうか? ジュリアナ嬢。我等はこれでも急ぎの用件がありまして、直ぐにお返事を頂きたいのです。」
ふーむ、リースさんもジュリアナさんの事を仲間にしたいって事か。こちらと用向きが重なったな。
「お返事をする前に、今度はそちらの用件をお伺いいたします。」
そう言って、ジュリアナさんは俺の方を向き、その眼差しを輝かせた。
一気に俺の方に視線が注目しだした、なんか緊張するなあ。こういうの。
「はい、俺の用件も、実はリース殿と同じ、貴女を仲間にしたく思い、ここまでやって来ました。」
「まあ、貴方もですか? まあまあ、私、そんなに有名だったかしら?」
「あ、えーっと、俺は盗賊ギルドのドニからの紹介で、貴女の下に来た次第でして。」
「………ドニ、………ドニですって? そう、ドニからの紹介なの………。」
おや? なんだかジュリアナさんの顔の表情が………。
「あの野郎、自分が忙しいからって、私に面倒事を押し付けやがって………。」
………何か知らんが、ジュリアナさんの黒い部分を目撃したみたいだ。
大丈夫かな?
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