第150話 魔獣討伐隊 ⑤
さて、洞窟に入ったはいいが、特に何もないな。
臭いだとか、気配だとか、そりゃあ自然界特有の匂いみたいなのはあるが。
それでも、モンスターの気配みたいなのがあまり感じられないんだよね。
どうなってんだか?
「ふーむ、さっき魔獣の姿を目撃したと思ったんだが、気のせいだったか?」
一人呟くも、しかし油断はしない。ここが朝方遭遇したゴブリン共が巣くっていた洞窟である事は、容易に想像できる。
しばらく進んでいくと、開けた場所へと出た。そこには異臭が漂い、ゴブリン共が生活していたであろう痕跡がある。
「間違いないな、ここだ。」
そして、松明の明かりを掲げてみる。広間は大体30メートルぐらいの広さがある。
ゴブリンがこの巣を追い出されたという事は、ここに何等かの理由がある。という事だろう。
くまなく見渡す。うむ、やはり居るな。魔獣らしき存在が。
岩陰からぬっと出てきたそいつは、白い体毛をしており、大きさは約40センチぐらい。
長い耳がチャームポイントの、所謂、「うさぎさん」だった。
「え? ウサギ?」
俺が驚くと、ガーネットが「かわいい!」と声を上げ、ボム爺さんは「ふむ」と唸り、そしてアドンは。
「おおー、かわいいのう。よしよし、こっちにくるのじゃ。」
アドンはウサギに不用意に近づき、抱っこしようと腕を伸ばした。
そしてウサギを抱きかかえて、頭をなでなでしはじめる。ところが。そのウサギは後ろ脚でアドンを蹴った。
ただ、それだけの動作だった。その動作で、アドンはノーバウンドで吹っ飛び、反対側の壁に激突した。
「うおお!? なんじゃああああ!? は、鼻血が。」
こ、こいつ!? まさか!?
「全員警戒態勢! 間違いない! こいつが魔獣だ!」
「え?」
「
一気に号令をかける。間違いない、こいつが魔獣だ。見た目で判断しちゃいかん。
このパワー、侮れんな。
あの筋肉の塊であるアドンを吹っ飛ばしたんだ、相当強い個体だぞ。
よくよく考えれば、モンスターが跋扈している山岳地帯に、ウサギが一匹だけで居る事自体、不自然だ。
俺達は陣形を整え、ウサギに対して半包囲をする。
小さくてかわいいが、魔獣である。恐ろしい殺人ウサギに間違いない。油断できん。
まずはこれ、ナイフの投擲からいってみる。しかし。
「な!? 外れた! いや、避けたのか!」
なんというスピードだ。こりゃちょっと本気を出さないとならんな。
精神コマンドを使う、「必中」、「魂」、気合はさっき使っておいた。
「これでどうだ!!」
もう一度、ナイフを投擲、よし! 今度は命中。かなりのダメージを与えた。
しかし、まだウサギは倒れない。タフな奴め。
「きゅう」
ウサギの反撃だ、物凄い速さでこちらに接近し、噛みつき攻撃をしてくる。
ドカドカっと言う様な在り得ない効果音が響き、俺はダメージを負う。
ぐっ!? いってえええ! 何だこの攻撃力! ダメージ32だと!?
もう半分近くHPを削られた。ここで「不屈」を使って万が一に備える。
「いくわよ!」
ガーネットが弓を射かける。スキル「狙撃」を使っているだろう。攻撃は見事に命中した。
「きゅっ」
よし、ロビンの矢が命中、かなりのダメージの筈だ。もう一押しといったところか。
ここでアドンとボム爺さんが、ウサギに対して挟み込む。
「この隙は見逃さんぞい!」
「やれやれ、年寄りをこき使いおって!」
二人の連携攻撃は見事に決まり、ウサギに大ダメージを与える。
「きゅう………。」
よし、止めといくか、俺は肉迫し、雷の小太刀を一閃、袈裟切りし、ウサギに攻撃を当てる。
「よっしゃ! 決まった。」
攻撃力3倍の「魂」を掛けたんだ、かなりのダメージの筈だ。
案の定、ウサギはその場で倒れ、ピクリとも動かない。
ふう~、やれやれ、この場は何とか、凌いだみたいだな。
まさか、こんなモンスターが出てくるとは………。
うさぎさんとはいえ、油断ならんな。まったく。
「ねえ、ジャズ。この先の奥にまだ道があるみたいよ、どうする?」
ガーネットが新たな道を発見した。この先にまだ更に奥があるって事か。
うーん、何だろうな?
「一応さ、魔獣は討伐したんだし、このまま帰ってもいいと思うけど、皆はどう思う?」
俺が尋ねると、皆は口々に言う。
「私はこの先に行ってみたいわ。まだ全然いけるわよ。」
「わしもいいぞい、筋肉が躍動しておる。」
「うーむ、わしは酒に在りつきたいんだが、まあ、これも付き合いかのう。」
よっしゃ、決まりだな。この先の洞窟の奥に何があるのか確かめる必要もあるし、ここは一丁、行きますか。
「じゃあ、回復薬を飲んで、休憩した後、奥に向かって進んでみようか。」
「うむ、魔獣が一匹だけとも限らんからのう。調べる必要はあるじゃろう。」
ふーむ、確かにな。見た所、下に向かって階段のような構造になっている。
自然発生したダンジョンだ。油断せずに行こう。
しばらく休憩してから、俺達は更に奥へと進んで行った。
「………。」
「どうしたの? ジャズ」
「いや、何でもない。」
何だろう? 空気が重い。この先、何があるっていうんだ?
俺達は警戒しながら、下へと進んで行った。
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