第127話 サスライガー伯爵の正体 ②


 ブリーフィングルームから外へと出て、作戦説明を聞いた後にそれぞれが行動を開始する。


装備課へ行き、装備を申請して整える。軍で正式に採用されている鎧と兜だ。


革鎧に鉄の胸当てをくっつけた様な鎧と、鉄兜だ。みんなが同じ装備をしていると、流石に緊張してくる。


 その後は備品課へ行き、回復薬を貰い、ポケットに入れる。これで装備は整った。


完全武装の兵隊がグラウンドに集結していて、物々しい雰囲気を漂わせている。


 中隊長の命令で出撃し、町中を歩く。周りの人々からは物々しい雰囲気に、何事かと緊張が走っている様子が窺える。


 完全武装の兵士達が、町中を進んでいるので、子供たちからはキャッキャという声が聞こえ、俺達兵士に遠巻きながらカッコいいと話している様だ。


大人たちからは敬遠されているが、まあ仕方ない。これから大捕り物があるのだ。不安になるのも頷ける。


途中からブラボー中隊に合流する為、アルファ中隊がやって来る。道の途中で合流し、このまま領主の屋敷へと向かう。


ここでの懸念事項は、やはり伯爵の私兵の存在だろう。俺達とやり合う事になりそうである。


だが、こちらから仕掛けるのではなく、基本的に様子見が任務だ。兎に角、俺達は領主の屋敷に人を近づかせない事が任務となっている。


 暫く町中を進んで行くと、見えてきた。領主の屋敷だ。広い敷地にやたらと大きな屋敷だ。流石領主。お貴族様である。いい所に住んでいるようだ。


貴族街に居る貴族たちも、不安に思っているのだろう。兵士達を見て、顔を強張らせている。


 領主の屋敷に到着した。やはりと言うべきか、伯爵の私兵が屋敷の周りを囲んでいて、防御の意思を示している。


その中には、女海賊たちの姿も確認できた。あそこに居るのは、やっぱり居た。ちびっ子船長だ。錨を地面に立て置き、待ち構えている。


(あのちびっ子が暴れたら、間違いなく怪我人が出るな。)


たらりと冷や汗が出る、何とかあのちびっ子を説得しなければ、被害が出る。


俺達兵士と伯爵の私兵の間に、言い知れぬ緊張感が漂う。一触即発の状況だ。お互いに武器を構えていないのが、何よりの事だな。向こうの陣営も、本当は戦いたくないと顔に出ている。


俺は気を引き締め、サキ隊長に進言する。


「サキ隊長、ここは自分に任せて貰えないでしょうか? なるべく穏便に事を運びたく思います。」


「ああ、そうだな。あの女海賊の子供は強い。ジャズ曹長ぐらいしか相手に出来ぬだろうな。任せる。」


「ありがとうございます、隊長。」


屋敷の周りに伯爵の私兵がこちらを向いて囲んでいて、それをアリシア軍の兵士が取り囲むという状況だ。


お互いに一歩も引かないという感じになっている、とても危険な感じだ。


まずはこの状況を何とかしなくては。


俺は一歩前に出て、ちびっ子の前に一人で向かい、ゆっくりと近づく。


緊張した面持ちで、ちびっ子が錨に手を掛け始め、こちらの顔を見て一言呟いた。


「何だ、あの時の兵隊さんか。何しに来た。」


俺とちびっ子は視線を交わし、向かい合って話をする。


「よう、元気だったか? ちびっ子。」


「ああ、お陰様でね、何しに来た?」


ちびっ子は仁王立ちして、鋭い眼光を向けてきた。


「サスライガー伯爵を護送しに来た。王都までな。」


「それをあたいがさせるとでも思ったのかい? 軽く見られたもんだねえ。」


ちびっ子は錨を持ち、構え始めた。


「おいおい、間違えるなよ。俺達は犯罪者を拘束しに来た訳じゃない。伯爵を犯罪者として扱うつもりは無い。」


「………兵隊さんの事は信用してるけど、他の兵隊は信用出来ない。あたいは伯爵様を守る。その為に此処に居るんだ。邪魔しないでよね。兵隊さん。」


ちびっ子は錨を肩に担ぎ、俺にこれ以上近づくなと睨みをきかせてきた。


ここはまず、相手を落ち着かせる為に、ゆっくりと言葉を選び伝える。


「なあ、ちびっ子。俺達は何もやり合う為に此処まで来た訳じゃない。領主のサスライガー伯爵を王都まで護送しに来ただけだ。犯罪者じゃないんだから。」


「そんな事言って、あたいを騙そうとしたって駄目だかんね。」


「サスライガー伯爵をどうするのかは俺達の領分じゃない。それを決めるのは王様だ。女王だ。伯爵から詳しい話を聞いて、その上で判断するんだと思う。」


「じゃあやっぱり捕まえにきたんじゃないか! させないよ!」


ちびっ子は少々感情的になっているようだ、錨を構え始めた。


ふーむ、ここは一つ軽く接触してみるか。


ちびっ子は錨を振り回しながら、接近してきた。俺はそれを素手で受け止め、ガシッと掴む。


「は! 放せ!」


「いや、放さん! いいから聞けちびっ子! お前が暴れれば暴れる程、伯爵の立場が悪くなるんだぞ! いいか、良く聞けよちびっ子。俺達は犯罪者を捕まえに来た訳じゃない。伯爵を重要参考人として王都まで護送するだけだ。解るな?」


「………。」


ちびっ子は黙ったまま、錨をスッと後ろへ下げる。


「ちびっ子じゃない。リスティルだ。」


「リスティルか、俺はジャズだ。なあ、ちびっ子。お前等は大人しく成り行きを見ててくれないか? 悪いようにはしないつもりだ。」


リスティルは俯き、武器を降ろして放心状態になっている様だ。


「伯爵様は、悪人じゃないんだ。悪く無いんだ。いい人なんだ。」


「ああ、解った、だが、金鉱脈の存在を隠していた事実は覆らん。その事に関しては、俺達はノータッチだ。判断やこれからの伯爵の進退は、王の前でありのままの事をつまびらかにし、その後、沙汰を言われると思う。」


「………。」


ちびっ子は肩の力を抜き、立ち尽くしたが、顔を上げて、俺に意思を伝えた。


「あたいも一緒に行く。伯爵様の後を付いて行って、最後までこの目で見ておく。いいよな? それぐらいは?」


「ああ、妨害しなければ、好きにすればいいと思う。兎に角、ますは落ち着け。な? ちびっ子。」


「………解った、あたい等は大人しくしておく。」


「ああ、そうしてくれると助かる。」


ふ~、やれやれ、何とか戦わずに済んだか。正直ちびっ子の強さは他の兵士より段違いに強いからな。よかった。


こうして、俺達は屋敷を取り囲み、アルファ中隊も予定通りに行動し、サスライガー伯爵の屋敷を取り囲んだ。


ちびっ子たちは少し離れた場所で、仲間たちとひそひそと話しながら、事態の成り行きを見ていた。


よーし、これで伯爵の私兵とは戦わずに済んだな。後はチャーリー、デルタの両中隊が屋敷に入って証拠を押収して、サスライガー伯爵に状況を伝えてご同行願うだけだ。


 そういやあ、ナナ少尉の方はどうなったのかな? サキ隊長がナナ少尉を監視していると思うが。


ナナ少尉は今回の騒ぎに動じず、任務を全うしたようだな。こっちもよかった。


下手な事にならなくて安心した。気疲れしたよまったく。ちびっ子もナナ少尉も、今は大人しくしている様だ。


護送用の馬車が、屋敷の前に到着した。これにサスライガー伯爵を乗せて運び出すんだな。


「最後まで気を抜かない様にしなくては。」


何時、何があるか解らん。事は慎重に運ばなくては。


中隊同士のやり取りの結果、サキ小隊とナナ小隊の二隊が伯爵の馬車の護衛を任された。


やれやれ、まだこれで終わりじゃないか。こっからが正念場かもしれんな。伯爵の護送任務、しっかりしなくては。


サスライガー伯爵を乗せた馬車は、貴族街を通り抜け、そのまま壁門まで進み、門衛に手続きをしてから町の外へと出た。


順調にいけば、王都まで二日の行程だ。何事もなければだが。


伯爵の私兵からは嫌な顔をされたが、ちびっ子は俺達護衛班の後を付いて来ていた。


その表情は不安な顔が張り付いていたが、街道にモンスターが出現すると、率先して行動し、容赦なくモンスターを倒していた。


王都まで二日、しっかり護送任務をしよう。



クラッチを出た時、ナナ少尉はその表情を曇らせていた事に、誰も気づかなかった。













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