第145話 サキとナナ


 三週間の休暇を貰ったので、これからどうしようと思いつつ廊下を出た時だった。


丁度そこへ、サキ隊長とナナ少尉が、廊下ですれ違うところに出くわした。


サキ隊長は前を向き、づかづかと大股で歩いていた。


一方、ナナ少尉は俯き加減で歩き、サキ隊長と目を合わせない様にしている様子だった。


 二人は無言ですれ違い、一言も無く静かに通り過ぎていく。


(何か、ぎくしゃくしているな。)


流石にこのままじゃなぁ、お二人は仲が良かったのだが、先の一件での事が尾を引いている様だ。


「サキ隊長、ナナ少尉、今お時間よろしいでしょうか?」


堪らず声を掛けていた。


サスライガー伯爵との話し合いの時、俺はナナ少尉にサキ隊長との事を取り持つと約束した。


なので、今回はそのつもりで二人の間を取り持つつもりで、何とかならんもんかと気を揉んだ。


「何だ? ジャズ曹長、何か用事か?」


「何ですの? ジャズ曹長。」


二人が同時にこちらを向き、俺の呼び止めに返事をした。


(よし、ここで二人の仲を仲裁しよう。)


そう思い、二人の元へ歩み寄り、コホンと一つ咳払いをし、話始める。


「サキ隊長、ナナ少尉の事ですが。」


俺が言うと、サキ隊長は一瞬、ナナ少尉の方を向き、そして直ぐに向き直る。


ナナ少尉は一瞬ひるみ、しかし、また俺に向き直る。


「ナナがどうした?」


「はい、サキ隊長。ズバリ言いますが、ナナ少尉の事、許して差し上げては如何でしょうか。」


俺の言葉に、サキ隊長は怪訝な表情をし、言葉を返す。


「許す? 何をだ? 許すも許さないも無いだろう。ナナは命令に背いた。だから謹慎処分を言い渡された。私にどうしろと言うのだ?」


「いえ、確かにナナ少尉は命令違反を犯しました。その事ではなく、サキ隊長がナナ少尉の、あの時の行動を許してみては如何かと思いまして。」


この言葉を聞き、ナナ少尉は割って入って来た。


「わたくし、今でも間違った事をしたとは思っておりませんわ。」


「…………ほら、ナナはこう言っている。私が出る幕では無いのだ。もういいな?」


ふーむ、いかん。このままじゃいかんよ。二人共見れば解る位には距離を置いている。


本当は怒っているのが、解ってしまう。俺にでもだ。


サキ隊長は腕を組み、ナナ少尉を見据えている。


ナナ少尉は俯き、所載無さげに指をいじくっている。


「サキ隊長、ナナ少尉は人の命が掛かっていたから、あのような行動を執ったのです。」


「どういう事? 命が掛かっていたとはどういう事だ?」


ここで、ナナ少尉が説明しだす。


「詳しくは話せませんが、あのままでしたら間違いなく領主様の身が危険でしたわ。」


「だから、何でかって聞いているんだよ。」


サキ隊長は苛立ち、ナナ少尉からの情報を聞きに来たが、ナナ少尉は話すつもりが無いらしい。


「ですから、詳しくは話せないと言っているではありませんの。」


「だーかーらー、それは何でかって聞いてるんだよ。」


うーむ、このまま平行線を辿っていては、話が前に進まないな。


「サキ隊長、ナナ少尉は、決してサキ隊長の事を裏切りたくてやった訳ではありませんでした。確かに、その理由については詳しく話せませんが、ナナ少尉だって親友に秘密にしておきたい事の一つや二つぐらいあるでしょう?」


「そりゃ、私だって、ナナに秘密にしてる事の一つや二つくらいはあるけど、それとこれとはまったく別問題だと思うけどな。」


ナナ少尉は俯きながらも、言い出せない事情を告げる。


「親友だからこそ、明かせぬ事もあるのですわ。」


それを聞いたサキ隊長は、落ち着きつつも、ナナ少尉を見つめ、一言。


「………………親友だったら、打ち明けてくれても良かったのに。何で黙って行動した?」


ふーむ、やはりサキ隊長は、ナナ少尉が裏切り行為をしたと思っている様だ。


そして、それを親友に話せなかった事として、怒っているらしい。


「私はさ、ナナとの付き合い方が今一ピンと来ないんだよ。ナナとの距離感が掴めないのさ。」


「わたくしだって、好きでサキを裏切った訳ではありませんわ。ちゃんとした理由がありましてよ。」


「その理由は明かせないんだろう? だったら話す事は無い。」


うーん、どうにも上手くいかんな。サキ隊長は頑固な所があるからな。


「サキ隊長、ナナ少尉は反省している筈です。したくも無い事をやって、人の命を守っての行動でしたから、ナナ少尉も間違ってはいないのです。」


俺が言うと、サキ隊長は腕を下ろし、半分諦めかける様に目を閉じた。


「解った解った、許すよ。許しゃいいんだろ。まったく、ナナといいジャズ曹長といい、何だっていうのさ。私はね、ただ、親友なら打ち明けて欲しかっただけだよ。それを二人して情報を共有してさ、何なのよ。」


「サキ………………。」


なーんだ、サキ隊長は元々、許していたって事か。ただ、親友に秘密にしていたから怒っていたって訳だったのか。


「私はさ、ナナとの距離感が掴めなかっただけだよ。秘密にしてる事を根掘り葉掘り聞くつもりもないしね。」


「サキ、………わたくし、貴女に謝らなければならない様ですわね、ごめんなさい、サキ。」


「ああ~~、もう~、だからいいって。許すってば。もう! ナナ、今夜あんたのとこに行くから上等なお酒を用意しててよね。」


「は、はい。解りましたわ。サキ。」


「はいはい、これでもういいだろう? 私は忙しいんだ。始末書を書かなきゃならんのだよ。」


「そうですわね、わたくしは謹慎処分中でしたし。」


ほっ、良かった、二人共上手く仲直り出来たみたいだな。


やはり隊長達は、仲がいい方がいいな。うむうむ。


サキ隊長は手をヒラヒラとさせながら、廊下を去って行った。


ナナ少尉はどこか、ホッとした様な感じで、それを見送っていた。


「ジャズ曹長、ありがとう。貴方のお陰でサキと仲直りできましたわ。お礼を言わせて頂戴。」


「俺はただ、この方がお二人にしっくりくると思い、そうしたまでですよ。」


「兎も角、ありがとう。わたくしは男嫌いですが、貴方の事は嫌いではありませんわ。」


「それはどうも。では、自分はこれより休暇を満喫したく思います故、これにて失礼致します。」


ナナ少尉に見送られながら、俺は建物の外へと出て行く。


やれやれ、何とか上手くいったか。よかったよかった。


さーて、これから休暇だ。何しようかな?


「おっと、まずは着替えないと、軍服のままじゃお休み気分が無くなってしまう。」


俺は兵舎へと向かい、ロッカーで着替えて表へ出る。


いつもの冒険者装備だ、これはこれでしっくりくる。普段着も必要かもしれないが、今はまだいらない。


よっしゃ、一丁休暇を満喫しようか。まずは冒険者ギルドへ行こう。そして簡単な依頼をこなして、休暇を満喫しよう。


 そうと決まれば、行ってみよう。俺の足取りも軽く、ギルドへ向けて歩くのだった。




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