第146話 魔獣討伐隊 ①
「ガーネット、今日はここまでにしとこう。」
「ええ、そうね。ここまで狩れば十分でしょうね。」
三週間の休暇を貰ってから五日、俺はガーネットと
しばらくは冒険者稼業で小銭を稼ぎ、楽な依頼をこなしつつ毎日を過ごしている。
俺とガーネットの二人だけだが、中々活躍していると思う。
今日もモー商会からの依頼で、街道に出没するモンスターの討伐をしていた。
「しかし、モー商会からの依頼はいつ受けても報酬がいいよな。」
「そうね、流石大店の商会だっけあって、気前がいいわよね。」
「街道も安全になった事だし、今日はもう上がろう。」
「オッケー、じゃあクラッチに帰りましょう。」
今日の稼ぎも中々のものだ。もうこの辺のモンスターは相手にもならないな。
街道を歩き、クラッチまでの帰り道にガーネットと会話をする。
「ガーネット、その新調した「ロングボウ」はどうだい?」
「えへへ、いい感じよ。大枚はたいた甲斐があったわ、今まで使っていたショートボウは初心者向けだったけど、このロングボウは中級者向けだけあって、扱いは難しいけど飛距離と命中率は段違いよ。」
「それに、ガーネットは「狙撃」のスキルも持ってるから、後衛からの支援攻撃は安心して任せられるからね。」
「もう、おだてても何も出ないわよ、ジャズ。」
こうして、クラッチの町へ向けて移動し、帰還の途に就くのであった。
冒険者ギルドへ帰って来て、依頼達成の報告を受付嬢に済ませ、報酬を貰い、酒場の席に着く。
ガーネットと二人で報酬を山分けし、その日稼いだお金で酒を注文する。
冒険者としての俺も、中々板について来た感じだ。明日はお休みにしようという事になり、明日は一日中寝て過ごそうと思っていた。
「お疲れジャズ。」
「お疲れガーネット。」
「「 かんぱ~い。 」」
二人で酒の入ったコップを交わし、麦酒を呑む。
「か~~、やっぱ仕事の後のエールは最高よね~。」
「違いない、何か酒の肴を注文しようか?」
二人で酒を酌み交わしていた夕方頃の事だった、冒険者ギルドに数人の衛兵が入って来たかと思うと、大声でギルド内に居る冒険者達へ向け、声を出し注目させた。
「謹聴、謹聴、領主様よりのお言葉を伝える。昨今、アローヘッド山脈の麓にて、大型魔獣の目撃情報が多数確認された。よって、領主様は魔獣討伐隊を編成する為、討伐隊を組織された。我こそはと思う者は討伐隊へ志願せよ。繰り返す、我こそはと思う者は討伐隊へ志願せよ。場所はアローヘッド山の麓の村、そこに仮設基地が設置されている、そこまで来る様に。以上。」
説明し終わると、衛兵たちはギルドから去って行った。
ギルド内はざわつき始めた、今日の仕事はもう終わりとして、夕方に続々と帰って来た冒険者達だったが、ここへ来て新たな問題が発生してしまった。
衛兵の領主からの言葉を皆に伝えられて、討伐隊に参加するかどうか、他の冒険者一党同士、相談し始める。
「お前等、どうする?」
「俺達の一党はこのまま冬支度をせにゃならんからなぁ、今回は遠慮しとこうかと思っている。」
「そうか、他の一党はどうだ? 参加するか?」
「うーん、そうだな。他でもない領主様からの依頼だからな、報酬はいいだろうと思うが、大型魔獣が相手ってのがなあ。」
皆は討伐隊への参加は渋々といったところだろうか。
この寒い季節に、わざわざ外へ出向いて、大型魔獣の討伐クエストなど、中々簡単に受けられない様だ。
かく言う俺も、面倒な依頼だなと思う。
他でもない「クインクレイン」のメンバーである領主からの依頼とあって、おそらく「混沌」絡みか、なにかしらの案件だろうなと思う。
「どうする? ガーネット、俺達は討伐隊に参加するかい?」
俺が訊くと、ガーネットは「うーん」と考え込み、酒をちびちび飲みながら答えた。
「ジャズがやってもいいって言うなら、私は構わないわよ。「アリシアの英雄」。」
「おいおい、俺は英雄なんかじゃないぞ、只の冒険者だってば。今でもそう思っているからな、俺は。」
「謙遜は美徳か、だけど、もうそれなりに知れ渡っていると思うけどなー。」
「勘弁してくれよ、俺はそんなんじゃないよ。」
アリシアの英雄と言う称号は、俺には荷が重い。女王はまた何だって俺にそんな称号を与えたんだろうか。
俺は只のおっさんだってのに。
「で、どうするの? ジャズ。」
ガーネットは身を乗り出して、俺に訊いて来た。さて、どうしようかな。
普通に考えるなら、この寒い季節に外へ出て仕事はしたくない。
だが、領主からの依頼という事は、それなりに報酬がいいと判断出来る。
しかし、相手が大型魔獣という事は、大型モンスター戦を想定した準備をしなくてはならない。
それにはお金が掛かる。報酬は幾らなのか解ってはいないので、何とも言えない。
掛かる費用と報酬を差し引いて、儲かるのならやってもいい。
正直、お金は欲しい。
その大型魔獣ってのが、多分だがキメラ辺りだと思うが、二人だと少々手こずるかもだ。
ガーネットは遠距離からの狙撃をしていけばいいが、俺は前衛で殴り続ける訳なので、体力的にキツイかもしれない。
まあ、今の俺のステータスだと、苦戦する事も無いと思うが、油断は出来ない。
「ガーネットはどうしたい?」
「私はいいわよ、ジャズと一緒なら。」
ふーむ、ガーネットはやる気の様だ。俺はどうしようかな。
別に参加してもいいが、報酬がいいらしいし、他でもない、サスライガー伯爵からの依頼だし。
おそらく「クインクレイン」からの情報を元に、判断したと思うから、「混沌」の勢力との戦いになる可能性はある。
それは正直、遠慮したい。だが、動かなければならない気もしてくる。
うーむ、どうする、討伐隊に参加するか。
「大型魔獣か、二人だけだと難しいな。」
「でもさ、アローヘッドの村に討伐隊の仮設基地が設営されているんでしょ? そこで新しく仲間を探したらいいんじゃないかしら。」
ふーむ、ガーネットにも一理あるか。現地で仲間を探すのもいいかもな。
「よし! ガーネット、俺達は魔獣討伐隊に参加しよう。お金も欲しいし、領主様の依頼なら、きっと他にも強い冒険者が揃っているだろうし。」
「オッケー! そうこなくっちゃ。ロングボウを使いこなしてみせるわ。いざという時の為に「ロビンの矢」も3本持っているし。」
「無理や無茶はしない様にね、相手は大型魔獣だし、気を引き締めて行こう。」
俺達は討伐隊に参加する事にした。
ガーネットは意気揚々としながら酒を飲み、俺の肩をバンバンと叩きつつ頷く。
明日の朝、アローヘッド山の麓にある村へ移動し、討伐隊の仮設基地へ行こう。
道具が必要になってくるかもな、町で色々買い物をして、それから仮設基地へ向かえばいいか。
二人だけでは大変なので、他にも参加する一党がいないか見渡したが、どうやら俺達だけが討伐隊に参加するらしい。
仮設基地か。おそらく領主の私兵とか、衛兵も何人か討伐隊に参加する事だろう。
他の町や村からの参加者がいるかもしれないけど、この時期にそんな奇特な奴がいるとは思えんが。
冬支度ってのは、男手が必要になる仕事が多い、日持ちのする肉など、燻製したり、腸詰を作ったり、各村や町でも、各御家庭では冬支度が大変らしい。
まあ、そんな時期に、そこで新たな仲間を探せばいいかと思うのはどうかと思うが。居るかどうかは解らんが、探してみない事には解らんからな。
「今夜の酒は、冷えた体に、やけに染みるな。」
エールをチビチビ吞みながら、明日に備える為にガーネットと別れ、早めに寝るのだった。
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