第129話 サスライガー伯爵の正体 ④
俺とちびっ子は街道を歩きながら一路、王都アリシアまで向かっている。
歩きながらの会話で、ある程度の事を話した。勿論、話してはいけない様なモノは省いてである。
「ふ~ん、つまり、兵隊さんは義勇軍で、伯爵様に会うには一人で来いって言われたんだね?」
「ああ、そう言う事だな、でだ、ちびっ子は伯爵の戦闘奴隷だから連れて行っても構わんと思ってな。お前は確か、サスライガー伯爵の事を心配していた様子だったから、連れて行っても大丈夫かなと思うんだが。」
「うーん、まあ、気持ちは有難いけど、あたいはそこまで伯爵様に気に入られている訳でもないからなあ。もし女神神殿に行ったとしても、門前払いされるかもしれないよ? だって、ジャズ一人で来いって言われたんでしょ?」
うーむ、確かにそうだが、もう一人ぐらい増えても問題無いと思うがな、兎に角、伯爵から色々と話を聞かない事には、判断のしようも無いからな。
「それにしても、兵隊さんもどっか抜けてるんだね。まんまと逃げられるなんて、それで良く仕事が回って来るよね?」
「そう言うなよちびっ子、仲間を信頼していた隙を突かれた形になっただけだ。ナナ少尉だって本当はこんな事したくなかったかもしれないだろ? 全ては話を聞いてからだ。伯爵のな。」
「ふーん、解った。あたいは兎に角、伯爵様に恩を返せればいいんだ。その為にこうして兵隊さんに付いて行ってる訳だし。」
しばらく歩いていると、見えてきた、王都の城壁だ。流石にいつ見ても大きいな。
広大な城壁に囲まれた城下町と、その中央にどっしりと構えている王城。少し離れたここからでも覗える。
城壁の一つの出入り口である西門まで来た。物凄い行列だ、これをこのまま待っているのは流石に待ち疲れるだろう。
門衛は何やら一人一人厳密にチェックしている様だ。その横の通用口とは違う別の出入り口には、人はあまり並んでいなかった。
「よしちびっ子、空いている方へ行くぞ。」
「え? いいのかい? あたい等も皆と同じ様に並ばなくて?」
「大丈夫だろう? だって俺、一応この国の軍人だし、任務でここまで来たと伝えれば、結構上手く通り抜けられるだろうし、時間が勿体ない。行くぞ。」
門衛に事情を話し、認識票を提示して王都の中へ通された。その際、何故こうまで人で入り口がごった返しているのか聞いてみた所、どうやら国外で何かあったらしい。
「ようこそ王都へ、用事が済んだら観光でもしていって下さいね。」
「ありがとう、門衛さん。仕事が片付いたらそうするよ。」
いつも通りのやり取りの会話をして、門を潜る。いつ来てもここは賑わっているな。
色んな種族が行き交い、商売に仕事に観光に、人が大勢道を流れていく。
ちょっと横道にずれると、途端に都会の喧騒からは離れて、静かな感じになる。
俺達の目的地は、王都にある女神神殿だ。まずはそこまで行く事だな。
時間的にはそんなに失礼となる時刻でもない、何とか今日中に事を運べたらいいな位の気持ちだ。
街中を歩く事しばし、神殿に到着した。その建物を見上げる。
広々とした敷地に、これまた立派な建物が建っている。大きな建築物だ。
壁や建物全体が白い色をしていて、所々金で縁取りされていて、とても金が掛かっていそうだ。
「ふへー、立派な建物だな。」
「そうだね、女神神殿には来たことが無いから解らなかったけど、何か入り辛いね。兵隊さん。」
「まあ、気持ちは解る。俺だって神殿に入るのは初めてだ。身が引き締まる思いってやつだな。」
大きな建物には、柱の一本一本にこれまた荘厳なイメージのある、趣がある彫刻が施されている。
入り口近くには、参拝者だろうか、人がいっぱい出入りしていて、大きな扉から流れる様に人々が何かを言い合いながら入っていった。
ふむ、やはりここは正面から行くのがセオリーだよな。広場から続く扉へと向けて、歩を進めていると、見知った人を見かけた。
(おや? あれはドニじゃないか?)
義賊ドニ、盗賊ギルドに所属している、腕のいい情報屋兼、マスターシーフだ。
俺はドニに向かって声を掛ける。
「おーい、ドニ、こんな所でなにやってんだ?」
俺の声に、ドニはこちらを振り向き、顔を崩して手を振る。
「おう、ジャズじゃねえか。お前さんこそこんな所で何やってんだ?」
お互いに近づき、挨拶をした後、お互いの情報交換をし始める。
「まあ、色々とあってな、神殿に用があるのさ。」
「そっちの子供は何だ?」
ドニに子供扱いされた事が気に入らないのか、リスティルは腰に手を当ててお怒りモードで返事をした。
「あたいは子供じゃない! ドワーフで成人してんだよ! まったく、一々説明しなくちゃならないあたいの苦労は、こんなところでもしなくちゃならないのかい!」
ぷんすかと憤っているちびっ子は置いといて、俺はドニに疑問に思っている事を話した。
「なあドニ、お前クイ、レイってのに近い名前知ってるか?」
「何? クイ、レイ? バリスタみたいな機械弓武器の事か?」
「いや、多分違う。おそらく組織名だと思うんだが、そうか。ドニでも知らないか。ならいいんだ。」
「おいおい、気になるじゃねえか。何だよ、言えよ。情報は鮮度が命だぜ。」
ふーむ、そう言ってもなあ。言える事と言えない事があるっぽいんだよな。事この関係に関しては。
「すまんドニ、俺にも詳しくは解らん。」
「そうか、まあいいや。で、ここへは何しに?」
「ああ、サスライガー伯爵の事で、ちょっと聞きたい事があってな、ここへ来いと言われたからやって来たのさ。そういうお前は?」
「ほーう、そいつは奇遇だな、俺もサスライガー伯爵から情報を買いたいと言われて、盗賊ギルドの名代として神殿にやって来たって訳さ。」
「なんだ、お前もか。まったく、伯爵は何考えてんだかな? 神殿に呼び付けるなんて。何事かと思うだろうに。」
「はっはっは、まあ、秘密の会話ってのは大概こんなもんだ。神殿なら話が外に漏れる事もないしな。」
「そうか。」
こうして、俺とちびっ子、それとドニの三人は、連れ立って女神神殿へと足を運んだ。
扉を潜り、神殿の中へと入ったところで、ローブに身を包んだ神官に声を掛けられた。
「ようこそ当神殿へ、お約束はございますか? それとも礼拝でしょうか? あ、寄付は随時受け付けております。」
おっと、いきなりの勢いに押されてしまうな。
「あ、すいません、サスライガー伯爵にお目通りしたいのですが、こちらに居らっしゃいますか?」
俺が訊くと、神官は俺達を上から下まで見て、まるで値踏みをしている様な視線を向けて、その後こう言った。
「申し訳ございませんが、お約束の無い方はお通し出来ません。お引き取りを。」
え? ちょっと待ってちょうだいよ。伯爵からここへ来るように言われているのに。
「あのう、俺は盗賊ギルドのギルドマスターの代理として呼ばれておりますが。」
「ああ、そちらの方はお話を伺っております。どうぞこちらへ、その他の方はこちらでお待ち下さい。」
おいおい、この待遇の差は何なんだ。こっちだって来いと言われてやって来たってのに。
「あのう、ちょっと宜しいでしょうか? 自分はアリシア王国軍の兵士でありますが、サスライガー伯爵より、こちらへ来るように言われておりまして、出来れば自分もお供をしたく存じます。」
「あ、あたいも。」
この言葉に、神官は顔の眉根を下げ、困った様に顎に手を添えた。
「ううむ、困りましたね。お約束の無い方を、サスライガー伯爵様に会わせる訳にはいかないのですが。」
「そこを何とか。是非。」
「ううん、しかし………。」
「お邪魔はしません、こちらの方の席に同行させて頂ければいいのです。どうか。」
神官は困っていたが、サスライガー伯爵からお声が掛かっているという事を強調した事で、俺達も神殿内の奥の部屋へと通された。
ふう~、やれやれ、お貴族様に会うのも一苦労だな。まあ、平民と貴族では違いすぎるから仕方が無いが。
しばらく廊下を歩いていると、飾りの付いた扉の前に案内された。ここで伯爵に会えるらしいな。
神官が扉を開ける前に、「失礼します、伯爵様にお客様です。」と言って、扉を開けた。
さてさて、どんなお話が聞けるのかな?
でもって、ナナ少尉は何故あんな行動を執ったのかな?
その答えは、聞けるだろうか?
俺は、部屋の中へと一歩を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます