第121話 女海賊団、ドクロのリリー ④
俺とニールを取り囲んだ山賊達は、武器を構え、じりじりとにじり寄って来る。
既に5人倒している。残り25人。その内の後ろに居る3人はニールに任せる。
「てめえ等! もう容赦しねえ! おい皆、やっちまえ!!」
(来るか。こっちも武器を装備した。後はやるだけだ。遅れは取らんつもりだ。)
さて、まずは精神コマンドの「必中」を使用、これでこちらの攻撃命中率100%だ。
お次はアクティブスキル、「フルパワーコンタクト」を使用、これで攻撃力1.5倍。
よし、まずは第一段階。ここからだな、この後にはまだ戦いが控えている筈だ。精神コマンドはここまでにしとこう。
山賊達があまり動いていないのが幸いだ、こっからが勝負だな。
よーし! 早速新しく覚えたアクティブスキル、「ブレイジングロード」を使用だ。
すると、山賊達の足元に、光の軌道が現れ、全ての山賊の足元を
山賊の足元に光が輝いているというのに、山賊の方々は全く気付いていない。
どうやら俺にしか見えない様だ。よし、行くか。前傾姿勢を取り、ショートソードを構える。
「いくぞ!!」
前方に向かってダッシュ、攻撃範囲に届き次第、一人、水平切りで倒す。速度は止めない。
そのままの勢いで、二人目、三人目と立て続けに切っていく。腕を振り続け、剣を縦に横にと振るう。
(よし、一撃で敵を倒している。これで5人倒した。残り20人。)
自分でもびっくりするくらい素早く動けている。これが「ブレイジングロード」か、まさに
それに、上級職のマスター忍者は伊達ではない。それなりに能力値は高い。
攻撃の手は緩めない、光の軌道に沿って高速移動し、次々と山賊を倒していく。疾風迅雷だ。
「うおおおおおおおーーーーーーー!!!」
水平切り、袈裟切り、上段切り、下段切り、突き、回転切り、一撃の下に進みながら、兎に角切って切って切りまくった。
「な、なんだこいつ! 動きが見えない!」
(そりゃそうさ、マスター忍者の性能を舐めるなよ。)
山賊達は、俺の動きを目で追えない様だ。ただ黙って立っている相手に、俺は容赦なく攻撃していく。
(これで15人倒した! あと5人、一息にいけるか!!)
呼吸を止め、一合いで一気に剣を振るい、次々と賊を倒す。移動しながらの攻撃は相手の牽制にもなっている様だ。
(まだ息は続く。まだいけるか。)
更に光の軌道に沿って、全速力で駆け抜け、通り過ぎざまに次々と山賊達を切っていく。
(よし! これで25人倒した。残りは?)
ニールの方を見ると、ニールはちゃんと3人の山賊を相手に戦い、倒していた。
「ニール、やる様になってきたな。」
「おう! 俺だってサキ小隊の一員だぜ!」
まあ、腰に嵌めてある「大剣ベルト」のお陰だがな。まあ、有効に使っている様で何よりだ。
残る山賊は2人、その内の一人に向かい、クナイを投げる。
「うぐっ、い、痛え。」
よーしよし、うまい具合にダメージを与えた。まだ倒れてはいない。
残りの一人に向かい、ショートソードを振り抜き、一刀のもとに叩き切る。
「じょ、冗談じゃねえ! 30人居た仲間が、たった二人の兵士にやられただなんて! こいつ等化け物か! う、うわああああーーーーーー!?」
手傷を負った山賊の一人が、この場から逃げ出す。よしよし、計画通り。
「おいジャズ! 一人逃げるぞ!」
「いや、いいんだ。わざと泳がせる。逃げる先はおそらく山賊のアジトだろう。」
「倒さなくていいのか? 何でそんな事するんだ?」
「ニール、忘れたのか? 女冒険者が一人捕まっているだろう。おそらくアジトに居る筈だ。」
「おっと、そう言やあそうか。で、どうするんだ?」
ふーむ、そうだな。ここはニールにも手伝って貰うか。
「サキ隊長たちが心配だが、フィラも居る。フィラならおそらく素手でも敵を倒すだろう。捕まった女性陣はそっちに任せる。」
「フィラちゃんか、確かにあの子強いからな。」
ニールは先程のフィラとちびっ子の戦いぶりを思い出したのか、腕を組みつつ唸っていた。
それには構わず、俺はニールにこれからの行動を説明する。
「ニール、お前は隊長たちの後を追って、何処に連れて行かれたか場所を特定してくれ、いいか、特定するだけでいいからな。無茶はするなよ。場所を特定したらこの広場に戻ってこい。いいな。」
「それはいいけどよ、お前はどうすんだ?」
「俺は逃げた山賊の後を追って、アジトに潜入し、人質を救出する。まずはそっちを何とかしねえとな。女冒険者を助け出したら、直ぐに戻る。いいか、絶対に無茶するなよニール。」
「おう! 解ってるぜ。ジャズこそ気を付けろよ。一人で大丈夫か?」
「ああ、心配するな。自分の事はわきまえている。じゃあ、直ぐに行動開始だ!」
「おう!」
ニールは、女達が連れ去られた海岸へ向けて移動を開始した。
俺は逃げた山賊を追って、一定の距離を保ち、音も無く静かに後を追う。
港町から外へ出て、街道沿いを進み、更に森の方へと分け入っていく。
(なるほど、森の中にアジトがあるって訳か。さてと、山賊の人に案内して貰おうか。)
軽いランニング程度の速度で、山賊の後を追いかける。本気で走ると追いついてしまうからな。
サキ隊長やフィラ達の事はニールに任せよう。俺は人質になっている冒険者を救出しなくては。
山賊は一心不乱に走り、呼吸を乱しながらも、何とか山賊のアジトへと辿り着いた。
「ほーう、ここがメルヘン山賊団のアジトか。」
何と言うか、木の丸太などで組み建てられた仮設の拠点って感じだ。
柵などで補強してあり、一定の強度はあるだろう。だが、仮設とは言え、ちゃんと見張り台の様なものもある。
(見張り台に一人、か。)
クナイを取り出し、狙いを付けて投擲、見張り台に居る山賊の一人を倒す。
(よし、音も無く始末した。ここからだな。)
扉まで近づき、少し開けて中の様子を見る。敷地内には山賊の姿は無かった。
どうやらメルヘンが率いていた100人規模の山賊たちが、ほぼ全員のようだな。
この場に残っている奴は、精々が一人か二人程度だろう、音が無い。静か過ぎる。
「建物の中に居るだろうな、敷地内の広場には敵影無し。よし、潜入する。」
扉を開き、ゆっくりと体を入れ、音も無く侵入。扉を閉め、周りの様子を確認する。
(本当に誰も居ないな。建物の中だな。)
アジトの一角に、木の丸太で出来た一つの建物がある。そこまで近づき、窓から中の様子を見る。
(ふむ、居ないな。もっと奥の方かな?)
仮設のアジトへと侵入し、ドアを開け、ゆっくりと中へ入る。忍び足で入ったので、気付かれていないと思う。
建物の中は、部屋が左右に4つ、廊下に面して奥にもう一部屋ある。まずは右の部屋から調べる。
(ふむ、特に何も無し。)
冒険者が捕まっているとしたら、まず間違い無く牢部屋だろう。それを探さなくては。あと、鍵も必要だろう。
次、二つ目の部屋は? ここもハズレ。誰も居ない。次。
今度は左の部屋を調べる。壁に背中を付け、ドアを静かに開け、覗き込む。
(居た! 牢部屋だ。牢屋の中に女性冒険者らしき人を確認。おそらく人質の女冒険者だろう。)
牢部屋へと入り、部屋の中を調べる。あった! 鍵だな。この牢屋の鍵を発見した。
よし、直ぐに救出だ。鉄格子の扉に鍵を差し、ゆっくりと開ける。
「だ、誰?」
人質が気付き、声を掛けられる。俺は小声で返事をする。
「し~、静かに。俺はアリシア軍の兵士だ。助けに来た。君はモー商会の荷馬車護衛をしていた冒険者だね、今助ける。だから静かにしててくれよな。」
「わ、解った。ありがとう。本当に怖かった。」
だろうな、女が山賊に捕まった。色々やられただろうに、気丈に振舞っている。強いんだな。
女冒険者は服を着ていたが、他に外傷らしきものは無かった、よかった。武器等は無い様だ。当たり前か、探せばありそうだが、今は人質の安全が最優先だ。
「あ、あの。」
「ん? どうした?」
「私の武器、多分、奥の部屋にあると思う。そこに、山賊たちが奪ってきた物が沢山置かれているらしいから。」
「………そうか、解った。回収したいんだな。」
「はい。私はまだ、戦える。」
強いな、女性というのは。よーし、この人の武器を回収しようか。この場に居る山賊は、精々一人か二人ぐらいだろう。
山賊のアジトにしては静か過ぎるからな、もう大して人数が居ないんだろう。これはチャンスだな。
ここに居る山賊を壊滅させて、後顧の憂いを断つのもいいだろう。よし、行くか。
冒険者を俺の後ろに下がらせ、奥の扉へと近づき、聞き耳を立てる。
ゴソゴソと何か聞こえる、居るな、逃げた山賊が。この先は物資保管庫の様だ。
おそらく怪我を負った山賊は、ここを抜け出す為に、行きがけの駄賃を持ち去り、逃亡する気の様だ。
させるかよ。もし山賊がお宝を持っていたら、頂くのも悪くはない。戦利品ってやつだ。折角だしな。行ってみようか。
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