第120話 女海賊団、ドクロのリリー ③


 港町ハッサンに到着早々、問題発生だ。広場にて山賊団と海賊団が暴れているらしい。


町長の屋敷から外へと飛び出し、急ぎ町の広場を目指す。町の人達に被害が出ていなければいいが。


 広場へと駆け付け、状況の様子を見る。そこには。


「オラアアアアアアアーーーーー!!!」


「「「「「 ぎゃああああああーーーーーーー!!?? 」」」」」


確かに、確かに山賊と女の海賊が争っていた。だが。


「ドクロのリリーを舐めるなああああーーーーー!!!」


「「「「「 ぎゃああああああーーーーー!!?? 」」」」」


圧倒的、圧倒的暴力がそこにはあった。


大勢の山賊相手に、たった一人の見た目が12歳くらいの、女のちびっ子が無双していた。


 そのちびっ子を応援するかのように、他の海賊の女の子達が「いけいけー!」とか、「ゴーゴー!」とか言っていた。


 ちびっ子は頭に船長が被る帽子によく似た物を被っていて、手には船のいかりを思わせる形をしたハンマーを、まるで玩具の様に軽々と振り回していた。


(あの錨、どう見ても鉄の塊だよな。)


何という馬鹿力だ。握力は相当なモノだぞ、あれ。


見た所、あの無双しているちびっ子が「ドクロのリリー」の船長で、周りの女の子たちが船員っぽいな。


と、ここで様子を見ていたサキ隊長が、命令を飛ばす。


「と、兎に角、我等は町の人々の安全確保だ。いいな! 気合だけは入れておけよ!」


「「「 は! 了解!! 」」」


 まあ、その必要は無さそうだが、これも任務だ。俺達は山賊団と町の人達の間に割って入る様に移動。自分たちが盾になるように布陣した。


その時、山賊の中から声が聞こえた。


「おい、あれ見てみろ、いい女がいるぞ。」


「お、本当だ。へへへ、ありゃあかなりの上玉だぜ。よし、あの女を頂きだぜ。」


山賊の奴等、何人かはフィラに目を付けたようだ。フィラに向かい近づいて来る。


(こいつ等、フィラを狙う気か? フッ、愚かな。フィラの実力も知らないで。)


俺はフィラに命令する。


「フィラ。構いません、山賊の方々を蹴散らしてしまいなさい。」


「はい! ジャズ様。行って参ります!」


 うむ、フィラの旅の道具袋は、俺のアイテムボックスに仕舞ってある。フィラは心置きなく戦えるだろう。


フィラはバトルアックスを構えながら、山賊団の居る方へ向け、駆け出した。突撃である。


「はああああっ!!!」


フィラは山賊団の方々を次々と倒し、ちびっ子に負けず劣らずの活躍をしている。


二人共、無双している。こっちが楽である。おっと、そう思っていたらこっちにも山賊が攻撃してきた。


俺はナイフを持ち、投擲。山賊の額に命中し、一人を倒す。


 流石にレベル20ともなると、ほぼ一撃で倒せる様になってきた。まあ、スキルも色々習得しているし、こんなところだろう。


しかし、油断はしない。警戒しつつ周りの様子を窺う。


 サキ隊長やニールの方にも山賊は接近していたが、自分の方に来た賊達をそれぞれが倒していた。


 山賊団の数は、約30人といったところだ。それをたった二人の女性で次々と倒している。まさに無双だ。


ちびっ子とフィラの距離が近づき、二人は背中合わせに立つ。


「あんた、中々やるじゃないのさ。あそこにいる軍人と一緒って事は、あんたもかい? 名前は?」


「フィラです。軍人ではなく、冒険者です。貴女もやりますね。お名前は?」


「あたいの名は、リスティル。女海賊団、「ドクロのリリー」の船長さ。」


フィラとちびっ子が何やら話していると、山賊達は二人を囲みだした。


「囲め囲め! 数で押せばやれるぞ!」


「「「「「 おう!! 」」」」」


ふむ、どうやら数に物を言わせて、フィラとちびっ子を叩く気らしい。


だが、二人を囲んでいた山賊達は、二人の攻撃に翻弄されることになる。


フィラとちびっ子が、揃って武器を前面に突き出し、勢いよくその場で回転。範囲攻撃を繰り出した。


「半円刃(はんえんじん)!!!」


「ぐるぐるハンマーーーー!!!」


二人の技は、取り囲んだ山賊達を次々と薙ぎ払っていく。それはもう可哀相なくらいに。


「「「「「「 ぎゃあああああああああああーーーーーー!!?? 」」」」」」


次々と倒れる山賊。勝負あったな、もう立っている者は居ない。


「そこまでだ!」


と、突然横合いから野太い声が聞こえてきた。声のする方を見ると、そこには更に100を超える山賊達が居た。


「それ以上やるなら、こいつ等の命は無いぜ!」


見ると、先程の戦いを応援していた女海賊の女の子たちが、山賊たちに捕まっていた。


女の子たちは目に涙を浮かべ、震えていた。顔は恐怖に染まっている。


(チ、人質を取りやがった。厄介な。)


しかも、山賊の増援は100人程に増えた。これは流石に分が悪い。状況がひっくり返ってしまったか。


「武器を捨てろリスティル! そっちの女軍人もだ!」


不味いな。人質を取られては、こっちから仕掛けられない。どうする。


「いいから武器を捨てろってんだよ!! さもないと、この女共の命はねえぜ!」


 海賊の女の子達に、刃が突きつけられる。不味い、人質の命が最優先だ、ここは大人しく武器を捨てさせるか。


兎に角、様子見だ。ここは山賊の言う事を聞いた方がいいな。


フィラが吠える。


「卑怯な!」


ちびっ子も吠える。


「そんな事して、恥ずかしくないのか! メルヘン!!」


「へっへっへ、こうでもしないとお前は言う事を聞かないからな。リスティル。」


状況が変わった。不利だ。仕方が無くといった様子で、サキ隊長が武器を捨てる。


「隊長………。」


「今は従え、ニール、ジャズ。」


「はい………。」


俺達も武器を捨てる、それに呼応するように、フィラもちびっ子も武器を捨てた。


「くっ! ここまできて!」


「リスティル、今は従いましょう。きっとチャンスはあります。」


「………………解った。」


二人共、力無く項垂れる。まあ、しょうがない。ここは大人しく様子見だな。


「へっへっへ、お利口さんだなリスティル。それじゃあ海賊のアジトへ案内して貰うぜ。宝があるんだろう、そいつを頂くぜ。へっへっへっへっへっへ。」


「何回も言わせるな! 宝なんて無い!」


「へっへっへ、そいつはどうかな。一緒に来てもらうぜ。」


「くっ!」


この場で戦っていた女たちは、ロープで縛られ、捕らえられてしまった。


「よーーし! 女は連れて行く! 30人程ここに残って男は殺せ! 残りの奴は俺に付いて来い。お宝が俺達を待っているぜ! はっはっはっはっは。」


チッ、やっぱりか。女は連れ去られ、男は殺される。山賊の頭目の考えそうな事だな。


髭面の男、奴がメルヘンか。大山賊団の頭目。顔は覚えた。後はこの状況を何とかするしかないか。


「お前等、男の方の始末はしとけよ。いいな!」


それだけ言って、メルヘン山賊団と捕らわれた女たちは海岸の方へと歩いて行った。残った山賊はざっと見繕って30人、といったところか。


なぶり殺しか。やれやれ、今日の俺の運勢は最悪だったかなあ。


残った山賊達が俺達を囲み、ニールが俺の近くに寄って来て体制を整える。


俺とニールで、背中合わせの恰好になり、相手の出方を窺う。


「ジャズ、どうする?」


「ああ、まあ任せろ。何とかする。」


足元にショートソード、ニールの方はバスタードソードが近くに転がっている。


小声でニールに話しかける。


「なあ、お前3人やれるか?」


「3人か、きついな。この状況では、それに武器が無い。」


「足元にあるだろう。そいつを何とか隙を見て拾い上げろ。いいな。」


「無茶言ってくれるぜ。………まあ、何とかなるかな。で? どうする?」


「合図したら後ろの3人を頼む、あとは俺がやる。」


「解った。」


「よし、合図と共に行動開始だ。」


山賊達がこちらを囲みこんで、近づいて来る。来るか!


「へっへっへ、領主が軍に横槍を入れたから、こうなるのよ。あんた等、運が無かったな。ここで死ねや。」


ほーう、こいつ等、何で領主が横槍を入れた事を知っているんだかな。


「うーん、そういう訳にはいかないんだよね。」


(2対30か、分の悪い賭けだな。だが、嫌いじゃない。)


腰にあるナイフを全て引き抜き、手に持つ。


(5本のナイフ。これで5人。残り25人。ショートソードは足元。戦闘距離は十分。いける。)


山賊たちが俺達ににじり寄って来る。よし、俺の距離だ。


「今だニール!」


合図を出す。その隙にナイフを連続で投げる。一投につき一殺。5人を倒す。残り25人。


「て! てめえ!」


足元にあるショートソードを足で蹴って空中に浮かす。片手で剣の柄を掴み、攻撃体勢で構える。


「さて…と………、一丁新技のお披露目といこうか。」








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