第119話 女海賊団、ドクロのリリー ②


 港町ハッサンへ向けて移動していたが、その途中、横転した荷馬車を発見、調べる。


近くには倒された冒険者が一人、それと、御者もやられていた。


「隊長、御者は額に弓矢を受けて、一撃って感じですね。」


「それ以外に何かないか? ニール上等兵。」


「積み荷は空っぽです。持ち去られたらしいですね。」


ふむ、間違いなく賊の仕業だな。この辺りに出没するモンスターは、積み荷や武器、財布などの類を持ち去りはせん。


「まず間違いなく山賊の仕業ですね。」


遺体に向け、両手を合わせ合掌する。安らかに眠れよ。


冒険者の遺体から、遺品である鉄の兜とギルドカードを確認し回収、サキ隊長に渡す。


「隊長、冒険者の遺品です。名前はジョッシュ。ギルドランクはDランク、一人前の冒険者ですね。」


「そうか、遺品は私のアイテムボックスに収容しておく。後で冒険者ギルドへ報告しに行かねばならんな。」


ニールが荷馬車を粗方調べた後、サキ隊長に報告する。


「隊長、この荷馬車はモー商会の荷馬車ですね、この形には見覚えがあります。馬はどこかへと逃げたんでしょう。」


「モー商会の荷馬車か、大きな商会だな。それだけ狙われ易いという事か? ジャズ曹長、どう思う。」


ふむ、そうだな。率直に言おう。


「そうですねえ、積み荷を狙った犯行、でしょうかね、間違いなく山賊の仕業ですね。」


「だろうな、今回の海賊と山賊のいさかいと関係ありそうか?」


「まだ、そこまでは何とも、しかし、海賊は普通、丘の上では悪さはしないと思いますが。」


「そうだな、よし、この場はこのままにしておく。我々の任務は港町ハッサンへ行く事だ。ここで時間を取られる訳にはいかん。行くぞ。」


「遺体はどうします?」


「残念だが、我々には埋葬していく余裕はない。今から教会に行ってシスターを呼びに行く時間も無い。スライムにやってもらう。「綺麗に掃除」してくれるだろう。遺品は回収した。行くぞ、ニール上等兵。」


「は、はい。」


俺達には今は何も出来ない。すまんジョッシュ、きっと誰かが仇を取るさ。先に女神様の元へいっていろよな。


サキ小隊はこの場を後にし、街道を西へ向け進む。港町ハッサンまでまだ半分も行っていない。


モンスターや賊に警戒しつつ、更に進む。途中、妨害らしき事柄は無かった。


 野営地に到着した。今日はここで野宿だ。周りは草原、反対側に森が広がっている。


さて、薪拾いだ、野営するから少し多めに拾うか。


薪を集めたので皆の所へ戻って火を起こす、辺りはすっかり暗くなっていた。


交代で見張りをするので、夜の警戒準備だ。


その間、携帯食のパンとチーズ、干し肉を食べる。野菜が無いのは仕方が無い。


水筒で喉を潤し、人心地付く。寝るにはまだ時間が浅い。静かに時を過ごす。


 その時、森の方からガサガサと足音が聞こえてきた。焚火の枝を一つ持ち、音のする方へ向ける。


おっかなびっくり声を掛ける。


「誰かそこに居るのか?」


すると、かすれた声で返事があった。


「驚かせてすまんのう、儂はこの近くにある村に住む猟師じゃ。」


 ほっ、猟師か。驚かさないでくれよ。見た所、弓などで武装している。背中には仕留めたであろう鹿が一頭、担がれていた。


「鹿を追っていたんじゃがな、こんな日が落ちる時間まで掛かってしまったわい。鹿は肉や毛皮が高く売れるんじゃ。もう一頭仕留めたかったんじゃがのう。」


こんな時間まで狩りをしていたのか。ご苦労さんだな。


「中々大物の鹿ですね、さぞ高く売れるでしょう。」


「ふぉっふぉっふぉ、まあな、ところであんた方は軍人さんかのう?」


「はい、アリシア軍の兵士です。」


「ほーう、そうでしたか、ならばここへ来る途中、壊された荷馬車を見かけたと思いますが。」


「何か知っているのですか?」


猟師のお爺さんは、何かを思い出しながらの返事をした。何か知っていたら教えて欲しい。


「うむ、木に隠れながら様子を窺っておった。ありゃあ、メルヘン大山賊団じゃな。15人ばかりが一斉に荷馬車に襲い掛かっておった。護衛の冒険者達は成すすべも無くやられておった。儂には何も出来なんだわい。」


「冒険者、達? 遺体は一つしか確認できませんでしたが、もう一人はどこへ?」


「うむ、若い女の冒険者じゃった、捕まって連れて行かれた様じゃ。」


なんだと!? 人質ありか。厄介な。


サキ隊長が猟師に尋ねる。


「山賊の規模はどんな感じでしたか?」


「うむ、メルヘン大山賊団はの、この辺り一帯の幾つかの山賊団をまとめ上げ、一大勢力にしてしまったんじゃ。衛兵も迂闊に手を出せなくてのう、一体何が目的で山賊団を一つにまとめたんだかのう?」


 ふーむ、山賊同士を一つに纏めた、か。それで大山賊団か。やれやれ、只の一小隊の手に負えないな。


「お前さん方、気を付けなされ。メルヘンはそりゃあ恐ろしい奴なんじゃ。殺しを楽しんでいるとしか思えん奴じゃ。山賊の数も多い。十分に気を付けなされ。」


「はい、ご忠告、感謝します。」


そう言って、猟師はこの場を後にした。村へと帰って行ったのだろう。


「貴重な情報を入手出来ましたね、隊長。」


「うむ、そうだな。気を引き締めて事に当たらなければならん。と、言う事だな。」


ここで、ニールが不安そうに隊長に意見した。


「隊長、応援を要請しなくてもいいのですか? 我等だけで任務を遂行するのでしょうか?」


サキ隊長はニールを落ち着かせる様に、ゆっくりと説明した。


「いいか、ニール上等兵、我等の任務は港町ハッサンへ赴いて、町の人々の安全確保だ。山賊団と事を構える任務ではない。今回の事は他の兵士や部隊に任せるしか仕様がない。無理はしなくてもいいんだ。いいな。」


「は、はい。了解です。隊長。」


 まあ、ニールの気持ちは解らなくも無い。たった三人の小隊で15人以上居るであろう山賊団を相手にするのは、ほぼ自殺行為だ。


 フィラが居たとしても、おそらく苦戦するだろう。数による暴力ってのは思ったほど簡単ではないのだ。


「隊長はお休み下さい、俺とニールで火の番をします。」


「そうか? すまんな、そうさせて貰う。頼むぞ、二人共。」


「はい、フィラも寝ておけ。」


「いえ、私も火の番を致します。」


「いいから寝ておけ、明日もある。いいな、フィラ。」


「は、はい。ありがとうございます。ジャズ様。では、休ませて頂きます。」


こうして、夜が更けていく。俺とニールで交代で火の番をして、朝を迎える。


 何事も無く、街道を更に進み、太陽が真上に来たところで、港町ハッサンに到着した。


「よーし! 着いたな。まずは町長に話を聞く為に、屋敷へと赴く。」


「「「 はい。 」」」


港町は静かなものだ、そこかしこからお魚の匂いがしてくる。港町って感じだな。


 町の様子は特に変わった様子ではなかったが、それは表向きかもしれない。さて、どんな話が聞ける事やらだな。


 町長の屋敷へと到着した。ドアノッカーをノックをして返事を待つ。


扉が開かれ、一人の老人が出てきた。


「はいはい、どちら様ですかな?」


「我々はアリシア軍の者です。町長からの依頼により、町の人々の安全を確保しに来ました。お話をお聞かせ願いたいのですが、町長さんは御在宅でしょうか?」


 サキ隊長が答え、相手の出方を窺っている。すると、老人は扉を大きく開き、俺達を招き入れる様に手を向けた。


「ようこそ、お待ちしておりました。私がこのハッサンの町長です。さあ、まずは中へお入り下さい。」


「はい、失礼します。」


 こうして俺達は、町長の屋敷内へと案内された。大部屋へと通され、ソファーに座り、町長から話を聞く。


「町長さん、早速ですが、この町で山賊と海賊が争っているとお聞きしましたが、何か実害があるという事でしょうか?」


サキ隊長が代表して、町長と会話をする。俺とニール、フィラは黙って話を聞いている。


「はい、まだ被害は出てはおりませんが、時間の問題かと思われます。山賊も日に日に行動がエスカレートしていましてな、手が付けられなくなってきておるのです。」


「何が原因だとお考えですか?」


「さて、それは私には解りかねます。何がしたいんでしょうかねえ、山賊達は。」


「お話を聞いた限りでは、山賊が好き勝手している様に聞こえますが、海賊の方はどうなのですか?」


サキ隊長が聞くと、町長さんは顔を明るくし、ハキハキと答えた。


「ああ、海賊はいいんですよ、儂ら漁師たちを海のモンスターから守ってもらっていますからな。寧ろ海賊は儂らの味方ですよ、山賊が暴れだす時には、必ず海賊がその行動を阻止して下さいますからな。」


ふーむ、海賊はいい奴、って感じの話し方だな。この町の漁師たちと上手く付き合っている様だ。


「その、海賊は信用出来ますか?」


「はい、勿論信用しております。もっとも、海賊なんてやっておりますが、法に触れる様な悪さをしてはおらんのです。儂ら漁師を守っている事は事実なのです。そこで、相談なのですが、どうか、海賊の行いは目をつぶって頂きたいのです。」


「それは、状況にもよりますが、一体何故?」


「はい、海賊団の名前は、ドクロのリリーと言いましてな、女ばかりの海賊団なのですよ。特に悪さをしておるという事も無いのですじゃ。」


ふーむ、女ばかりの海賊か。


ドクロのリリーね、山賊相手に人々を守っているという事か。中々勇気があるじゃないか。


その時だった、部屋のドアが突然バタンッと勢いよく開かれた。


この部屋に男が駆け込んできたかと思うと、男は血相を変えて捲し立てる。


「た、大変です町長! 山賊団と海賊団が、町の広場で争ってます!」


「な、何じゃと!?」


やれやれ、着いたばかりなのにもう問題発生か。ゆっくり出来んな。








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