第118話 女海賊団、ドクロのリリー ①


 サキ小隊に任務が下った。


俺とニールは、すぐさまブリーフィングルームへと集合、椅子に座り説明を聞く。


 黒板にはクラッチ周辺の地図が簡易的に描かれ、クラッチとその西側に港町ハッサンが点で書かれている。


「いいかお前等、良く聞けよ。今回の任務は港町ハッサンにて、町の人々の安全確保だ。」


サキ隊長が説明しだし、指示棒を黒板にあてがい、港町ハッサンのところに棒の先端を指す。


「安全確保でありますか?」


ニールが挙手をし、質問する。


「うむ、ここ最近、港町ハッサンにて、山賊と海賊が度々問題を起こし、揉めているそうだ。始めは只の口喧嘩だったらしいが、段々エスカレートしていき、今では刃傷沙汰にんじょうざたになっているそうだ。」


「穏やかじゃありませんね、揉めている理由はなんでしょうか?」


俺が質問すると、サキ隊長は指示棒を仕舞って机の上に置き、腕を組みながら答える。


「うーん、それが今一要領を得んのだ。町長の話では、何か山賊側が海賊にいちゃもんを付けて色々と追い出しに掛かっているらしいが、さてな、本当の狙いは解っていない。」


(山賊と海賊が揉めている、か。)


「隊長、山賊と海賊を捕縛、又は排除するという事でありますか?」


「いや、今のところ町の人々には何の被害も出ていないらしい。幸いな事にな、なのでまずは様子見といったところだな。」


ふーむ、賊は町の人達に迷惑を掛けている、が、今は何の被害も出ていない、か。


「ハッサンの町長が領主様に相談して、衛兵を派遣して貰ったらしいが、たった二人やって来ただけだったらしい。それで、最初は衛兵が町中の見回りをしていたらしいが、山賊も海賊も大人しかったのは最初だけで、今では大胆に行動をしているらしい。」


「衛兵が二人ですか、それは流石に少ないですね。町の港湾施設の規模はこのクラッチの半分ほどだったと思いますが、それで二人だけで見回りしようってのが、考えが甘いと言いますか、あまり重要視していなさそうですね。」


「うむ、私もそう思う、そして、町長が今回の話をコジマ司令に持ち掛け、我等に任務が与えられたという背景があるという事だ。」


 ふーむ、冒険者寄りの依頼の様にも思えるが、まあ、冒険者ギルドに依頼となると、報酬を支払う分、お金が掛かるからな。


港町は経済的にあまり潤ってはいないらしい。だから軍に頼む訳か。


「という訳で、今回の任務は港町ハッサン方面へ赴き、町の人々の安全確保と、可能ならば賊の始末、又は捕縛。以上だ、何か質問はあるか?」


俺は挙手をして、質問する。


「隊長、何時から揉めていたのでしょうか? また、港町ハッサンで問題が起こっているというのも気になりますが、情報は収集しても大丈夫なのでしょうか?」


この質問に、サキ隊長は顔をしかめ、何か言い難そうな表情をして答えた。


「ジャズ曹長の言いたい事は解るが、これは領主様からの横槍があったらしくてな、少数で向かって欲しいそうだ。二つの組織を相手取る事になりそうだが、我等サキ小隊だけで事に当たらなければならんだろうな。」


(え? なにそれ? 何か裏がありますって言っている様な気がするんですが。)


こうなってくると、少しでも戦力が必要になってくるな。


「隊長、フィラも連れて行こうと思いますが。」


「勿論、歓迎だ、戦力が増えるのは有難い。フィラさんを呼んできてくれるか?」


「解りました、自分が後ほど呼んで参ります。」


「頼む。」


「は!」


ふーむ、今回の任務は、中々にすんなりと事が運ぶといいな。まあ、無理そうだが。


山賊に、海賊、か。


港町ハッサンってのは、そんなに重要な拠点という事でもなさそうだが、さて、どちらが問題を起こしているんだろうな。


「では、ブリーフィングは以上だ。各自、装備を整え、グラウンドに集合。急げよ、いいな!」


「「 はい! 」」


さて、それじゃあ装備課へ行って、おやっさんから武器を受け取りに行きますか。


「いこうぜ、ニール。」


「おう。」


こうして俺達は基地の装備課へ向かい、おやっさんに声を掛ける。


「おやっさん、俺、いつものやつ。」


「おう、ショートソードにナイフの6本セットだな。既にベルトに差してある。持って行け。」


「ありがとう、おやっさん。」


装備を受け取り、身に着ける。うむ、しっくりくる。流石おやっさんだ、ピカピカに磨かれている。


「おやっさん、俺、バスタードソードね。」


「わかってるよ、お前さんはこいつだろ。最初はどうなる事かと思ったが、ニールがまさか大剣使いに相応しくなるとはなあ、世の中どうなってんのかねえ。」


「おやっさんがいつも綺麗に磨いてくれているからだろ。感謝してるぜ。」


「お? 生意気言いやがって、怪我だけはするなよ。いいな。」


「おう! 任しとけって。」


ニールも装備を受け取り、身に着ける。中々様になっているじゃないか。ニールの奴。


装備課を出て、グラウンドへと向かい、待機している。


「ニール、俺は先にギルドへ行って、フィラを呼んでくる。」


「おう、急げよ。」


 このまま基地を出て、町中を走り、冒険者ギルドへと向かう。軍人が走っているのを見て、町の人達が俺に道を譲ってくれる。有難い。


 冒険者ギルドへと到着し、扉を開け、フィラを探す。居た。フィラ発見。直ぐに駆け寄る。


「フィラ、今いいか?」


「これはジャズ様、その恰好、これからお仕事ですか?」


「ああ、そうだ。それでな、フィラにも手伝って貰いたいんだが、いいか?」


「はい! 勿論です。お手伝い致します。」


「すまんな、出立するところだったのに、余計な手間を取らせる。」


「いえ、構いません、それで、何処へ行かれるのでしょうか?」


呼吸を整え、ゆっくりと説明する。


「今回の任務は、港町ハッサンだ。そこへ行って、人々の安全確保だな。善意の協力者として、任務に参加して貰えるか?」


説明し終えると、フィラは一つ頷き真剣な表情で答える。


「はい! 解りました、港町方面ならば、問題ありません。寧ろ、港町へ赴いて仕事を片付けてから、そのまま船で大陸を渡ろうかと思います。」


「ああ、そうか。そうだな。じゃあ、宜しく頼む。フィラ。」


「はい! 準備は既に出来ています。いつでもご用命頂ければ。」


「よし! 早速基地に来てくれ、グラウンドに集合だ!」


「はい! ジャズ様!」


よーし、フィラの協力を取り付けた、このまま基地へと向かい、グラウンドへと走る。


 基地に到着し、ニールと合流。サキ隊長も既に待っていた。


「来たか。フィラさん、今回の任務への参加に感謝します。宜しく。」


「はい、こちらこそ宜しく頼みます。サキさん。」


「フィラちゃん、無理しちゃ駄目だよ。俺の後ろで援護してくれればいいからね。」


「は、はい。ニールさん。」


 ふふふ、ニール。そんな事言って大丈夫か? フィラは強いぞ。足手まといにならなければいいな。お互いに。


「よーし! サキ小隊! しゅっぱあああつ! いいかお前等! 気合だけは入れておけよ!」


「「「 了解!! 」」」


 こうして、クラッチの町を後にして、一路、街道沿いを歩き、西へと向かい、港町ハッサン方面へと進む。


 道中、フィラにも任務内容を説明し、フィラには俺の支援をしてもらう事になった。


 街道は静かなものだ、モンスターの影も形も無い。それにいい天気だ。秋晴れってやつだな。


過ごしやすい季節になってきたなと思いながら、一応警戒だけはしておく。


時々吹く風が心地いい。少し肌寒さが感じられるのが、また風情を感じる。


秋はいい気候だ。食べ物も美味しい、作物も豊富に育って、もうすぐ収穫時期だろう。


農民の人達は今時期忙しいかもな。


さて、港町ハッサンへと向かっている訳だが、早速問題発生だ。


街道の途中で、荷馬車が横転しているのを発見した。近くには人も倒れていた。


「総員警戒! ニール、ジャズは周辺の監視。」


「は!」


「ジャズ曹長、倒れている人を調べろ。」


「は! フィラは周辺警戒を頼む。」


「はい! お任せを。」


荷馬車は無残にも壊されている、その近くに人が倒れているので、その様子を確かめに近づく。


「もしもし、大丈夫ですか!」


返事は無かった。既に事切れている様だ。


「隊長、駄目です、既に事切れています。」


「………そうか、遺品を回収、身分証も回収だ。」


「了解。」


倒れた男を調べて、ポケットに何かあったので、取り出す。


「これは、ギルドカード? そうか、この人は冒険者か。」


一抹の不安を感じながら、サキ小隊はここで一旦、立ち止まる。


 街道脇に壊された荷馬車、それと、倒された冒険者。装備等は落ちていない。おそらく持ち去られただろう。


この任務、簡単ではないかもしれないと、予感させるのだった。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る