第122話 女海賊団、ドクロのリリー ⑤


 山賊団のアジトへと侵入した俺だが、早速捕まった人質を救出した。今は俺の後ろに控えている。


捕まった女冒険者の武器を探して、取り戻す事を約束したので、調べていない部屋を探索する。


おそらく目の前の部屋が物資保管庫だろう、音を出さずに静かに扉を開け、部屋の中の様子を見る。


よし、案の定手傷を負った山賊の一人が、ガサゴソと財宝を物色していた。部屋には一人だけの様だ。


(よし、チャンスだな。)


小声で後ろの冒険者に声を掛ける。


「今から突入する。あんたは待機だ、いいかい?」


女冒険者はコクリと頷く。よし、早速行動開始だ。


俺は一気に部屋へ突入し、武器を構え山賊に注意を向けさせる。


「そこまでにしておいた方が身の為だと思うがな。」


山賊は振り向き、両脇に抱えた袋を持ったまま、舌打ちをする。


「チッ、もう追いつかれたのか。しかも人質も助けられちまったか。逃げる為に利用出来そうだったんだがな。しゃーねえな。解ったよ、降参だ。命有っての物種だしな。」


ふーむ、大人しく捕まる気になっていたか。だったら、ここは交渉事といこうか。


「そう悲観する事もなかろう、お前次第によっちゃあ、その荷物を抱えたままこの場を見逃す事もあるかもな。」


「………どう言うこった?」


「もうこれ以上悪さしないと約束できるのならば、お前を見逃すと言っているんだよ。どうだ? あんたの持っている情報を俺に喋らないか?」


「うーん、情報が欲しいってやつかい? 解ったぜ、何が知りたい? 俺が知っている事ならなんでも話すぜ。」


よし、乗って来た。色々と聞きたい事があるのは事実だ。喋って貰おうか。


「よし、早速聞きたいのは、何故おたく等が領主が軍に横槍を入れた事を知っているのか? って所から教えて貰おうか。」


俺が尋ねると、山賊の男は「ああ、何だそんな事か。」と、軽い気持ちで話そうとしている様だ。


「いいか? 今から話す事は全て事実だ。情報元は俺からって事は内密にしてくれよな。」


「ああ、解った。どんな情報だ?」


「まず、領主のサスライガー伯爵ってのは、そりゃあ腹黒い奴でな、叩けば埃が色々出てくる事間違いなしだぜ。例えば今回の俺達と海賊とのいざこざの件だって、元はと言えばメルヘンの野郎が掴んだ情報が元ネタだからな。」


メルヘン? ああ、山賊団の頭目か。そいつが掴んだ情報って訳か。


「どんな情報だ? もったいぶってないでさっさと教えろよ。」


「へっへっへ、そう慌てなさんな、まず順を追って話してやるよ。港町ハッサンにはな、海岸の端っこの方に入り江があってな、そこに海賊連中のアジトがあるんだが、何を隠そう、そこには………。」


男が饒舌に話そうとしていた時、俺の脇を何かが素早く通り抜けて行った。


「ジョッシュの仇いいいいいーーーー!!!」


(な!? しまった!) 


気付いた時には、女冒険者が山賊の男に向かって突進していき、そのまま男にぶつかる。


女冒険者の手には、ナイフが握られていた。山賊の男を刺してしまった様だ。


「うぐうっ!? いてええっ!? 何しやがる。」


男は傷口を押さえながらも、ゆっくりと倒れ込んだ。


「おい! 大丈夫か!?」


「いてええ、へっへっへ、血が黒いぜ、………こりゃ助からんな。臓器をやられたらしい。ここまでみたいだぜ、………まあ、今まで散々殺してきたんだ、殺されもするよな。」


女冒険者はナイフを捨てて、男を見下ろしていた。


「ジョッシュの仇だ、やった、やったよジョッシュ。私、取ったよ。」


何て事を、兎に角女冒険者を下がらせる。


「君、兎に角下がって、気持ちは解らなくも無いが、ここは大人しく様子見をしていてくれ、いいね。」


「解った、私はもう、十分だ。後は軍人さんに任せるよ。」


男の方を見る、山賊はもう虫の息といった様子だった。刺されどころが悪かったらしい。


「おい! 死ぬ前に教えろ! 何故山賊が領主の横槍を知っている!? お前達の目的は何だ!?」


山賊の男は、息も絶え絶えといった様子で、しかし、俺に何かを伝えようと、言葉を続けた。


「………いいか、よく聞け。女海賊のアジトの奥には、金鉱脈があるのさ。」


「金鉱脈だと!?」


「ああ、そうさ。領主はそれをひた隠しにして、国に内緒で独占していやがったのさ。」


領主が金鉱脈を独占か、しかもそれを国に内密にしていたって訳か。


金の鉱脈などの鉱物資源を発見した場合、国が管理する為に届け出る義務がある。それを隠して独占していたって事か、領主は。


「その金鉱脈を、戦闘奴隷として買った女達を、海賊に仕立て上げ、領主の野郎はそれで入り口を守らせていたって訳だ。………女海賊を使ってな。」


「そうか、大体解って来た。」


「ゲホ、ゲホ、………それでな、メルヘンはその事をバラされたくなければ俺達にも甘い汁を吸わせろと、領主のサスライガー伯爵を脅していたのさ。見せしめにモー商会の荷馬車を襲ったりしてな。そうすりゃ、モー商会は太いパイプがある領主に泣きつくからな。」


なるほど、それで港町の警備を手薄にしていたのか。山賊の機嫌を損ねない為に。


「だがな、領主はメルヘンに暗殺ギルドの刺客を送り込んできやがった。だが、メルヘンはつええんだよ。刺客をことごとく返り討ちにしてきたのさ。………で、痺れを切らしたメルヘンは金鉱脈を自分のものにしようとして、動き出したって寸法さ。」


「そうか、大体の事は解った。」


「ゲホゲホ、ああ、もう駄目みたいだな。………目が霞んできやがった。………やっぱり、悪い事は……出来ねえ事に…なってん……だ………な………。」


山賊の男は、そのまま息を引き取った。最後に言いたい事を喋ったからなのか、その顔は穏やかだった。


 なるほどな、そういうカラクリがあったのか。それで領主は軍に横槍を入れて、少人数だけしか向かわせなかったのか。


俺はその場で両手を合わせ、合掌した。


さて、俺は後ろを振り向き、女冒険者もこの事実を聞いていたであろう事に、協力して貰おうと話しかける。


「君、名前は?」


「レナ。クラッチの冒険者だよ。」


レナは自分の瞳を見開き、俺に何かの指示を仰ごうと待っている。


「よし、レナ。君はこの事をギルドマスターに報告するんだ。いいね。」


「解った、私一人でクラッチに帰れる。」


一人で帰る、か。情緒は安定していそうだが、さて。


「大丈夫なのかい?」


「ああ、問題無い。私だって一人前の冒険者だ。任せてくれ。装備も見つけたし、道中の事は問題ないよ。」


ふむ、いけそうだな。じゃあ頼むか。レナに。


「そうか、じゃあ頼めるかい? 俺はまだ、やる事があってね。戻らなきゃならない。君一人で大丈夫なんだよね?」


「ああ、こいつの言っていた事をギルマスに報告すればいいんだろう。任せておいて。」


「よし、この場の金銀財宝を手に入れたら、行動開始だ。」


「オッケー、そうこなくっちゃ。」


こうして、俺とレナは、山賊のアジトに眠る財宝を片っ端から持ち去り、アイテムボックスに入れる。


かなりの収入だ。しばらくは旨いモンが食えるな。レナもホクホク顔で袋に一杯財宝を詰め込んでいた。


山賊の財宝を頂いた後は、この場で一旦レナと別れて行動だ。レナは袋を背負い、クラッチの町へ向けて歩き出した。


俺は、シャイニングナイツのシャルロット殿から貰った、テレポートリングを使い、港町ハッサンへ戻る事にする。


「よし、テレポートリング使用。場所は港町ハッサンの入り口あたり。」


指に嵌まったテレポートリングが、一瞬ピカリと光ったかと思ったら、体が宙に浮く感覚がして、一瞬の浮遊感がしたと思ったら、もう地面に足が着く感覚がした。


辺りを見回す。ここは間違いなく港町ハッサンだ。凄いな、これがテレポートリングか。こいつは便利だ。いい物を頂いた。シャルロット殿に感謝。


さて、そろそろニールに何か動きがあるかもな。早速町の広場へと行ってみよう。


思わぬ臨時収入が手に入り、俺の懐はホクホクだ。後は隊長達が心配だ、ニールの奴、上手くやってくれたかな?


 







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