第113話 再会の王都


 見えてきた、オーダイン王国の王都だ。街道をひた走る事丸一日、ようやく見えてきた。


あれは南門だろうか? 頑丈そうな壁門が破壊されている、それに何やら人だかりが出来ているが、一体何だろうな?


南門付近は倒されたモンスター共の残骸や、戦った者達の亡骸などで埋め尽くされていた。


「ここでも激しい戦いがあったんだな、よくも守り切ったもんだ。」


オーダイン王国の防御力はかなりのものだろう、皆、奮起したに違いない。


ここにフィラが、もしかしたら居るかもしれないな。早速王都の中へ行ってみよう。


 南門へと近づいてみたところで、どうやら民衆が揉めている事が解った。


「逃げ出した貴族は絶対に王都へ入れてやらん!」


「そーだそーだ! 俺達がここを守ったんだぞ!」


「貴族たちは逃げ込む先へと行けばいいだろう!」


「そうだ! 王都には入れないぞ!」


ふーむ、どうやら王都を守った一般人や冒険者、傭兵、市民などが猛抗議しているらしいな。


逃げた貴族たちが戻って来たが、そこで王都に入れさせない様に通せんぼしている様だ。


 まあ、守るべき市民たちをほったらかしにして、自分達だけ逃げ出せば、まあ、取り残された人たちは頭にくるよな。


貴族側も反論しているが、声のトーンは低い。負い目を感じている節があるようだ。


まあ、俺には関係ないが、ちょっとここを通して貰わないとならない。


「あの~、すいません、旅人ですが、王都に入りたいのですが。」


俺は大声で門衛の人に言い、人垣をかき分けながら門まで行く。対応してくれるのは衛兵のおっさんだ。


「ああ、旅の方か、一応身分を証明できる物はないかね? 規則なので見せて貰うよ。」


「あ、はい。」


俺は人々の垣根を掻い潜り、門のところまで到着し、冒険者のギルドカードを提示した。


「ふむ、アリシアの方でしたか。確かに確認しました。どうぞ中へ。色々とごった返していますが、ようこそ、オーダイン王国の王都へ。歓迎しますぞ。」


「どうも、しかし、何故揉めているのですか? もうモンスターの襲撃騒ぎは終わった様に見受けられますが?」


俺の質問に、衛兵のおっさんが答える。肩を落として溜息をつく感じだ。


「仕方が無いんですよ、本来、守るべき市民を置き去りにして、自分達だけ逃げ出した貴族たちは、もうここに戻ってきても王都の中へは絶対に入れて貰えないでしょうね。国民の怒りは相当なものですよ。もう貴族相手に信用はしないでしょうね。」


「そうなのですか。」


ふーむ、こう言ってはなんだが、シルビアの言った通りになってしまったな。


あいつ、これを狙っていたのか、このままじゃ流石に遺恨を残す事になりそうだぞ。


「あのう、ちょっといいですか。」


俺は市民の代表者らしい人物に、声を掛けた。


「何ですかな?」


「自分はよそ者ですが、この国の王族は王都に入れて差し上げるべきじゃないでしょうか。」


「………根拠は? 何ですかな?」


「はい、まず一つは、やはり王城に王様が居ないと、色々と不都合が生じる事になります。国内を復旧させるには、やはり陣頭に立つべき人物が必要になってきます。国の旗頭の王様ならば、皆、安心して事に従事できると思います。」


「ふむ、言いたい事は解りますが、国民の怒りは収まるでしょうか?」


「こればっかりは何とも、ただ、やはり国を守る事は、延いては王族を守る事です。王都が襲われたならば、まず真っ先に王族を逃がすのは当たり前の事ですので、王族が逃げ出したのは、決して間違った事ではない様に思います。」


「うーむ。」


「次にもし、襲われたならば、王様には今度こそ最後まで残っていただき、皆と共に戦う姿勢を見せると約束してもらえばいいじゃありませんか?」


「うーん、あんたの言う事にも一理あるか。」


「どうでしょう? 王族の方だけでも王都へ入れて差し上げては?」


 代表者は腕を組み、思案気にしつつも、このままではいけないと、どこかで感じていたところがあったみたいだ。


「解りました、おおーーい! みんな! 王様たちだけでも入れて差し上げようと思うが、どうだ?」


この言葉に、国民の皆は一時、黙り込んで考え、そして決断する。


「うーん、そうだな、王様だけは入れて差し上げるか。なあ! みんな!」


「そうだな、貴族は駄目だが、王様たちならばいいか。」


「よーーし! 王族の方々を王都へ入れて差し上げるぞ! いいな!」


「ああ、いいだろう、ただし! 今後また逃げだしたら次は無い。そう思ってくれればいいぞ。」


国民のこの声に、王族の方たちは、頭を下げ、王都の中へと入って行った。


その時、王様が俺のところで立ち止まり、一言言った。


「世話になった、アリシアの方、口添えをして頂いた恩は、いずれお返ししますぞ。」


「いえ、気にしないで下さい、自分はアリシア軍人として、またよそ者の意見として言ったまでの事ですので。」


「ほーう、軍人でしたか、では、我等はこれで。」


そう言って、王族たちは王城の方へと歩いて行った。貴族たちはそのままだ。


「さてと、フィラを探さないと。何処に居るかな? 取り敢えず冒険者ギルドあたりにでも行ってみようか。」


 街の人に聞いて、ギルドの場所を特定し、急ぎ向かう。フィラ、無事でいてくれよ。


 冒険者ギルドへ到着した、やっとここまで来たかと言った感想しか出てこない。


ドアを押し開き、早速中へと入り周りの様子を見る。


居た! フィラだ!


 しかも何故かポール男爵たちまで居る、フィラと何か話しているみたいだ。よかった。無事だったか。


「フィラ! 無事か?」


 俺は急ぎフィラの元へ駆け寄り、声を掛ける。そして、フィラはこちらを向き、不思議そうにしながら返事をした。


「あの~、貴方はどなたですか?」


おっと、そうだった、今の俺は体が変わったんだったな。説明しなくては。


 そう思っていたのだが、意外にもポール男爵がフィラに俺の事を話していたらしく、男爵が説明しだした。


「ほら、さっき言ったではないか。あれがジャズだ。色々とあったらしくてな、奴も苦労したみたいで、今は体が変わっていると言ったのだ。フィラが今まで接してきたのはジャズー王子殿下で、こっちが本物のジャズ、という訳だ。」


「………すると、やはり貴方様が、私のご主人様。ジャズ様なのですね? ああ、よかった。もう会えないかと思っておりました。それにその主従の指輪。間違いありませんね、感じます。貴方はジャズ様です。」


フィラは俺を主人と認めてくれた様だ、うっすらと目に涙を浮かべて喜んでいる。


俺も元気そうなフィラの顔を見て、思わずほっと息づく。


そうか、ポール男爵が俺の事を話していたという事か。手間が省けたな。


「話が早くて助かる。フィラ、無事でなによりだった。俺の為に危険な思いをさせてしまって申し訳なかった。よく顔を見せておくれ、どこも怪我とかしてないよな?」


「はい! いえ、もういいのです。ご主人様とまたこうして出会えた事、このフィラ。嬉しく思います。」


 ほ、よかった。フィラが無事で、おまけにポール男爵たちも何やら活躍したみたいだし、フィラも当然活躍したみたいだし、よかったよかった。


「フィラ、早速帰ろうと思うが、どうする? このままここで少し休んでいくか?」


「あ、はい、ジャズ様、実は折り入ってご相談したき事があるのですが。」


フィラは恐縮しつつも、俺に相談があるみたいだ。一体何かな?


「何だい? 言ってごらん。」


「はい、………………実は。」


フィラが言おうとしていた時、俺の後ろから誰かが声を掛けてきた。


「お話し中失礼、貴方がフィラのご主人ですか?」


 声を掛けられたので振り向くと、そこには白銀の鎧に身を包んで、フルフェイスヘルムを被った女性騎士が一人、佇んでいた。


とてもすき透った声の持ち主に、べっぴんさんを想像させる。


「はい、俺はフィラの主人ですが、あの、貴女は?」


「これは申し遅れました、私はシャルロット。シャイニングナイツの隊長を務めている者だが、貴方に折り入ってご相談があるのだ。貴方、フィラを自由の身にしてくださらないか? そして、私はフィラをシャイニングナイツに迎えたいと考えています。」


「え!? フィラを? シャイニングナイツに………。」


この突然の話に、俺は思考が一旦止まり掛けた。


まさか、フィラが、シャイニングナイツに。


どう、答えるべきか、直ぐには答えは出てこなかった。

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