第114話 女神の使徒
「なぜ我等シャイニングナイツが、フィラさんを必要としているか、そのあたりから話そうと思います、長くなりますが………よろしいでしょうか?」
「そうですね、じゃあ酒場のテーブル席へ行きましょうか。」
俺達はシャルロット殿の話を聞く為に、テーブル席へと移動し、椅子に座る。
何故かポール男爵たちも一緒だ、こいつ等暇なのか?
「すいませーん、お茶を人数分頂けますか?」
「はーい、ただいま~。」
ウエイトレスに注文し、お茶をしながら話を聞く事にした。
お茶は直ぐに運ばれてきて、皆に行き渡る。さて、早速シャルロット殿の話を聞くか。
「何故? フィラをシャイニングナイツに?」
俺が訊くと、シャルロット殿は兜を脱ぎ、その素顔を晒す。
凛とした佇まい、クールアンドビューティーな表情、長い金髪で瞳も切れ長、まるでお人形さんみたいな整った顔、大変美しい。
「はい、まず我等シャイニングナイツには、絶対的に成さねばならぬ事があるのです。」
シャルロット殿は、どこか決意を持った表情をしている。これから話す事の重要性を物語っていた。
なるべく丁寧に、そして簡潔に聞いてみる。
「それは?」
「まず一つは、女神の使徒を探し出し、保護する事。そして、一番重要なのが。」
シャルロット殿は一つ間を置いて、ゆっくりと語った。
「………混沌の王、カオス復活の阻止、そしてもし、復活した場合、倒す事。………それが最終目標なのです。」
「混沌の王ですと? 我々「カウンターズ」はシャイニングナイツの支援組織を名乗る以上、聞いておきたい事柄ではありますが、いやはや、何とも話が大きくなってまいりましたな。」
ポール男爵が会話に参加し、自分の意見を言った。
(混沌の王、カオスだって!?)
待て、待て待て、ちょっと待て、待ってくれ。それは「ラングサーガ」ではない。
別のゲームに登場したラスボスだ。この世界は「ラングサーガ」ではないのか?
どうなってる? ゲーム世界がごっちゃになっているのか? よう解らん。
兎に角、話の続きを聞かなくては。
「シャルロット殿、混沌の王カオスを倒す為には、確か聖剣サクシードが必要になってくると思いますが。」
この俺の言葉に、シャルロット殿は驚きを隠さずに目を見開く。
「あ、貴方は!? 何故その事を知っているのですか? 我等シャイニングナイツにしか知り得ない事なのですが?」
あれ? そうなの? 俺なんか不味った?
「い、いや、たまたま、偶然知り得た情報でして、特に気に留めてはいませんでした。」
ちょっと不味いかな? 俺の知っているゲーム知識がここへきて有効になるとか、兎に角、あまり不信に思われない様に発言には気を付けよう。
俺が口ごもっていると、シャルロット殿が目をキラキラさせながら問いかけてきた。
「………………あの、貴方のお名前は?」
「あ、はい、ジャズと申します、アリシアの兵士です。」
「ジャズ殿と仰るのですか、………いきなりの事で恐縮ですが、貴方の所有しているフィラさんを、どうかシャイニングナイツに預けてはくださいませんか? 彼女の力は必ず必要になってくるのです。」
ふーむ、急にそんな事言われてもな、フィラを仲間にするのに一応それなりに苦労したんだが。
「まず、シャルロット殿のお話を聞いてから判断したいと考えています。」
「そうでしたね、性急過ぎました。今からお話する事は、どうか他言無用に願います。」
空気が一瞬、ピリッとした。これから重大な事を話すという事か。ポール男爵たちも静かにしている。
シャルロット殿は辺りを見回してから、ゆっくりと語り始めた。
「シャイニングナイツが保護している人物で、「巫女」様というのがいらっしゃいますが、その方こそ、「女神の使徒」なのです。」
「女神の使徒? それは、勇者とは違うのでしょうか?」
「いえ、勇者ではありません。巫女様は女神様より啓示や神託を受け、我等シャイニングナイツに行動指針を与える役目を担っています。」
「なるほど、巫女様ですか。」
「はい、巫女様が女神様から授かった啓示には、こうありました。「オーダイン王国に影あり」と。」
ふーむ、それはつまり、先の戦いの事だろうか? 王都防衛戦は一応こちらの勝利で終わったと思うが。
「そして、巫女様は更に神託を受けたのです。「重要人物との接触がある」と、そこで私は急ぎ、オーダインへと渡りました。」
「確か、セコンド大陸に女神教会の総本山、エストール大神殿があるんでしたな。」
ほーう、ポールの奴、意外と物知りじゃないか。セコンド大陸の中心部にあるんだったな。
「はい、私はそこから、こちらへとやって来たのです。そして、巫女様の言葉通りに事が起こってしましました。」
ここで男爵が、得意げに話した。
「モンスターの襲撃騒ぎですな。まあ、首謀者のアイバーは倒れましたが。」
「はい、私も戦いましたが、その最中、私はフィラさんの戦いぶりを見たのです。オークロード相手に一歩も引かず、勇猛果敢に攻め、不屈の闘志で行動し、そしてたった一人でオークロードを倒してしまったのです。私は隙あらば加勢しようと思っていましたが、その必要が無いぐらいの強さでした。」
この発言に、俺はフィラの方を向き、正直驚いた。
「え!? フィラ、オークロードを倒したのか?」
「はい、ジャズ様。中々手強い相手でしたが、なんとか倒す事が叶いました。」
「へ、へえ~~、やるねえ、フィラ。」
凄いぞフィラ、オークロードを倒すって、確かオークロードの討伐推奨レベルは20以上だった筈。
それをたった一人で倒してしまったのか、フィラは凄いなあ。
「そこで私は確信しました。フィラさんこそが、巫女様が仰られた人物ではないかと。それに、シャイニングナイツは常に優秀な人材を必要としています。女性でありながら強い。それだけでシャイニングナイツとしての資格があるのです。勿論、品格や人格といったものも考慮しますが。」
ふーむ、そういう理由があったのか。それでフィラに接触してきたという事なんだな。
「なるほど、大体のお話は解りました。」
「聖剣サクシードは、既にエストール大神殿にて保管してあります。問題は………………。」
「え!? サクシードを見つけたのですか?」
「はい、ですが、問題はその使い手の存在でした。」
ここでまた、ポール男爵たちが口々に話に入って来た。
「うーん、普通聖剣というと、勇者が装備しそうなものでしょうが。」
「そうですよ、勇者じゃなきゃ聖剣は扱えないんじゃないんでしたっけ?」
「ああ、確かそんな言い伝えだったな。」
「男爵様、確か勇者って、この大陸にも居たんじゃなかったですかい?」
「ああ、そうだったな。シャルロット殿、その辺の事情はどうなっていますか?」
ポール男爵たちの意見に、シャルロット殿はきっぱりと断言した。
「確かに、聖剣は勇者にしか扱えませんが、我等シャイニングナイツが世界中を探して、勇者と接触しましたが、そのどれもが「自称勇者」だったのです。当然、女神様に見い出された勇者ではありませんでした。」
「なんと、そうでしたか。」
「なので、我等はどうしても聖剣の使い手を、見つけねばならないのです。また、それと並行して優秀な人材も確保したく思い、こうしてフィラさんをスカウトしているのです。勿論、タダと言う訳ではありません。」
そう言いながら、シャルロット殿はテーブルの上に二つの指輪を取り出し、置いた。
「これは?」
「ジャズ殿、フィラさんを自由にして下されば、このマジックアイテム、「テレポートリング」を差し上げます。」
「ほう、テレポートリングですか。」
正直、欲しい。だが、フィラを物で交換するというのは頂けない。
シャルロット殿の話を聞いた限りでは、フィラを必要としている理由は解った。
シャイニングナイツにも、戦力は必要という事なのだろう。
後は、フィラ自身の気持ち、ってところか。
「なあ、フィラ。一つ聞きたい。お前はどうしたい?」
俺がフィラに聞くと、フィラは俯きながらも、自分の気持ちを正直に言うつもりらしい。
「………………ご主人様、私は…………。」
「フィラ、自分の道は自分で決めなさい。いいから、言ってごらん。」
「はい、私は、………ご主人様と一緒に居たい。………………ですが。」
「ですが?」
フィラはここで前を向き、はきはきとした口調で言った。
「私は、私の力が人々の役に立つのでしたら、この力を振るいたいと考えています。」
「つまり?」
「はい、私は、シャイニングナイツに入隊したいと思います。」
「よし! よく言ったフィラ。偉いぞ。」
うむうむ、フィラが自分の意見を言う様になったのは、大きな前進だな。
フィラの意思を尊重しよう。ここは黙って、送り出すべきだな。
フィラの答えを聞き、シャルロット殿はほっとした様な表情でこちらを向いた。
「ありがとうございますフィラさん。そしてジャズ殿、如何でしょうか? フィラさんを我等シャイニングナイツに預けては下さいませんか?」
「ええ、他でもない、フィラ自身が決めた事なので、俺は何も言いませんよ。解りました、フィラを自由にします。いいな? フィラ。」
フィラに確認を聞くと、自分の意志で決めた事に、自信を持っている様子で返事をした。
「は、はい! ご主人様、ありがとうございます!」
「ジャズ殿、深く感謝致します。」
ふう~~、やれやれ、今回の事は色々と考えさせられた感じではあるな。
シャイニングナイツが戦力を欲している事もだし、巫女様とか、混沌の王カオスとか、結構重要な話も聞けた事だし。
俺にはちょっと、話がデカい案件だなと思う。
これからどうなるのかは、正直解らない。だが………。
もしかしたら、フィラは女勇者か、あるいは女神の使徒なのかもな。
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