第112話 旅 ⑨
もうすぐオーダイン王国の王都へと到着する筈だ、だが流石に疲れた。
これまで走り続けてきたので、いい加減足が
街道を進み続けていくと、見えてきた。宿場町の様な人里が、あそこで少し休んで行こう。
(フィラの事も心配だが、こちらの体力的な事も鑑みないとな。)
そろそろ体力の限界が近かったせいか、宿場町へと辿り着いた途端に眠気が襲ってきた。
「ふうー、ふうー、さ、流石に疲れているなこりゃ。どこかで休まないと、フィラの事も心配だが、こっちもここで倒れる訳にはいかないからな。」
町の入り口へやって来て、中へと入りキョロキョロと辺りの様子を見る。
「ふーむ、特に変わった様子も無いな。モンスターの襲撃騒ぎも無さそうだし、ここでゆっくり休めそうだな。」
まずは宿を探さなくては、どこか安そうな宿はないかなと、宿屋が軒を連ねている場所を見定める。
どの宿屋も、みな造りがいい。流石に王都に近いだけあって、手は抜いていないようだ。
玄関の掃除が行き届いている、良い感じの宿も見つけた事だし。
「うーむ、あの宿屋なんか良さそうだな、よし。あそこの宿屋にしよう。」
体を休めないと身が持たないので、今日は宿で一泊する事にした。
走り続けてきたので、足が痛い。国境からこっち、休み無く走りっぱなしだったからな。
宿の場所も決め、そこまで歩いて向かい、ドアを開けた時だった。
「いらっしゃいませ」と言う、宿の人の声を聞きながら、受付ロビーを軽く見渡した。
だがしかし、そこで思わぬ人物と遭遇した。
顔はよく見えない、フードを目深に被っているので、確認はできない、だが。
「黒ローブにその豊満な胸、間違いないな。お前、シルビアか!?」
忘れもしない。あの胸の大きさ、間違いない、シルビアだ。
今もその豊満な胸をゆっさゆっさと揺らしながら、こちらに近づいて来る。
「あら? あらあら、貴方はだあれ? 私は貴方の事を見覚えないけど?」
「まあ、そうだろうな。外見が変わったのでな。」
ここで今、この女とやり合うのは危険だ。
それに今、俺はとても疲れている。万全の状態では無い。ここで事を構えるのは得策ではない。
「ダークガードの貴様がなぜここに居る? 何かの作戦か?」
「あら、私の事を知っているようね。私は貴方の事を知らないというのに。なんだか不公平だわ。」
「ジャズだ、覚えておいてくれると有難いんだがな。シルビア。」
シルビアは首をこてん、と傾げて人差し指を顎へ持ってきて、思案気に答える。
「う~ん、ごめんなさい、私、殿方の名前を覚えるのはあまり得意じゃないの。」
何か企んでいる様子では、ある………か?
「なぜ、ここに居る。」
「私だって日常はあるわ、ここへ来たのは只の物見遊山よ。それに目的も果たした事だし。」
「目的? 何だ? その目的とやらは?」
「うふふ、簡単よ。この国の王族や貴族の信用を失墜させる事が目的なのよ。」
「何だと!? そんなもの失墜させて、何が目的だ!」
「うふふ、ここじゃあ暴れちゃだ~め。今は日常を楽しんでいるのよ。」
「はぐらかすな! お前の目的とは何だ!」
俺が大声を出したからか、店の店主がこちらの事を見て、困った様な表情をしている。
「お客様、何か揉め事でしたら余所でお願い致します。」
注意され、それを楽しそうに見ているシルビアが、誘惑じみた笑みをしていた。
「ほ、ら、だから言ったでしょ。ここは宿屋なのよ。平和的にいきましょう。」
ふーむ、仕方が無い、ここは引くところか。だが、シルビアの目的は聞き出さないと。
「シルビア、答えて貰うぞ。何故ここに居て、これから何をする気だ?」
さて、素直に話すとは思えんが、どう出てくる?
しかし、以外にもシルビアは乗って来た。
「あのねえ~、さっきも言ったでしょ。ここへは遊びに来ただけよ。目的ももう果たしたって言ったわよねえ。私はもうチェックアウトする予定なのよ。もういいかしら?」
「いいわけねえだろ。王族や貴族の信用を貶めて、何がしたいんだ?」
この問いに、シルビアは表情を真剣な面持ちにし、きっぱりと断言した。
「私はね、貴族が嫌いで貴族が憎いのよ。貴族を排除したいの、その為なら手段は選ばないわ。」
貴族が嫌い? そんな理由でか? それでこの国をモンスター被害に見舞わせたってのか?
「あのな、シルビア。狙いは貴族だろ? だったら何で関係ない一般人まで巻き込むんだ?」
「うふふふ、それは仕方が無いじゃない。不運だったと諦めて貰うしかないわ。それに、私の目的は貴族の信用を失墜させる事よ。それが上手くいったから、もうここには用は無い訳ね、だからもう、私は行くわね。」
そう言いながら、シルビアは指に嵌まったテレポートリングを掲げ、この場から転移しようとした。
「おいおい、また逃げるのかよ。今度は何処に行くつもりだ?」
「うふふ、ねえ知ってる? 今ここには王族や貴族たちが
「………それが狙いか?」
「さあね? もっとも、マグマ様が倒れた事で、この大陸での計画は頓挫したでしょうし、もうこの辺りでオイタはしないと思うわ。精々平和を享受なさいな。」
「何だと!? どういう事だ!」
「うふふ、それじゃあね、異国風の方。バイバイ。縁が有ったらまた会いましょう。」
そう言って、シルビアは音も無くその姿をかき消した。
またテレポートリングか。今度もどこへ行ったかは解らんな。やれやれ、奴の相手をしなくて良かったのかもしれんな。
それにしても、この国の王族や貴族が、国民を置き去りにして自分達だけ逃げ出した、か。
それは流石にちょっと不味いんじゃなかろうか。もし問題を片付けて戻って来たとしても、果たして国民が今後、王様や貴族にいい感情を持つだろうか?
いや、寧ろ反感を育てて内乱。何て事にも繋がりかねんな。
「それが狙いか、………シルビアめ。」
恐ろしいな、ダークガードというのは。
いや、闇の崇拝者か。その支援組織ダークガード。闇は深まる一方な感じだな。
結局、今回も俺は何も出来なかった。ただ、黙って様子を見ていただけだったな。
{キャンペーンシナリオをクリアしました}
{経験点5500点を獲得しました}
{ショップポイント1000ポイント獲得しました}
{スキルポイント10ポイント獲得しました}
おや、いつもの女性の声とファンファーレが聞こえてきたぞ。今回俺は何もやってないけど。
どうやらキャンペーンシナリオとかいうのをクリアしたらしい、経験点を沢山貰ったよ。いいのかな?
まあ、今回はもしかしたらフィラが活躍したからなのかもしれないな。一応パーティーメンバーだし。
やれやれ、どうやらこの国での事は、取り敢えず一段落みたいだな、と言ったところか。
フィラは無事だろうか? 心配だが、きっと上手くやっている事だろう。
さてと、俺はまず、体を休めないと、早速宿屋の主人に、部屋を取る様に頼んだ。
宿の部屋へと案内されて、まずは人心地付く。ベッドに寝転がり、疲れを癒す。
「はあ~~、疲れた。走り疲れた。色々と疲れた。もう寝るか。」
携帯食を食べて、そのままベッドに横になり、目を閉じたらそれだけで眠気が襲ってきた。
明日は王都へと到着するだろう。兎に角、寝よう。後の事はその時に考えればいいや。
こうして俺は、王都手前にある宿場町で一晩を過ごした。
シルビアに出会ったのは、流石に面食らったが、向こうも予期していなさそうだった感じだ。
ダークガードか、何が目的なんだろうな。さっぱりだ。
まあ、考えても仕方が無い、シルビアの言う事を真に受けるのならば、もうこの大陸で奴等は活動をしないと言う様な事を言っていた。
「って事は、何処か他の国か大陸で、何かの計画があるって事なのか? まあ、今は考えるだけ無駄だな、兎に角、もうこのアワー大陸での事は、安心してもよさそうだ。まあ、シルビアの言う事を信じればの話だがな。」
明日に備え、ぐっすりと眠った。
森の中――――
シルビアは背中に冷や汗をかいていた。
先程の男には、どこか危険な色の闘気を感じたからだ。
「あぶないあぶない、さっきのは一体なんなのよ?」
あの闘気の色には見覚えがあった、数日前、遺跡の最深部で遭遇した「危険な男」と、闘気の色が一致したのだ。
「あの、輝く様な白銀の闘気、………確か、ジャズって言ったわね。」
あの場でやり合えば、こちらが被害を被っていたと、心底思うシルビアだった。
「あの時とはまるで別人ね、見た目が違うのは解らないけど、パワーが段違いですもの。」
シルビアは辺りを見回し、誰も居ない事にほっと肩を撫でおろし、そして前を向く。
「まあ、このアワー大陸での活動も本当に終わりかしらね、もうあの男とは会わないでしょう。まだまだ上には上が居るものね。」
シルビアは頭を振り、考えを切り替えて再度テレポートする。
森の中には、忽然と姿を消したシルビアが居た場所を、野生動物の瞳がくぎ付けになっていた。
強者が去って行った事に、動物たちは心底安心した様子で。
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