第95話 フィラ強化計画 ③


 クラッチの町周辺にある草原、その更に北東に位置する場所にモンスターが跋扈ばっこする森がある。


危険地帯だ、モンスターとの遭遇率も跳ね上がる。間違いなく油断出来ない狩場である。


 しかし、ベテラン冒険者ともなれば、そこそこ稼げる狩場の為、利用する者は居るには居る。


「着いたわ、ここよ、森の入り口は。」


ガーネットに連れられ、森の入り口までやって来た。


 薄暗く、陽の光が届くか届かないかの境目ぐらいの明るさだ、鬱そうと生い茂る草や木、下に目をやれば枯れた落ち葉などで土が隠れている。


森の中は空気が澄んでいて、野生動物の姿もちらほら。


今の所、モンスターの気配は感じられない。


「ここが森か、慎重に行動しよう。」


「はい、ご主人様。背中はお任せ下さい。」


「地面だけじゃなく、上の方にも気を配りなさいよ、何が待ち構えているか解らないからね。木の枝なんかにハーピーが留まっている可能性もあるからね。」


ハーピーか、今の俺達にはちと難敵だな。上空からの攻撃というのは厄介だし。


「隊列はどうする?」


俺が訊くと、ガーネットは、「ジャズが先頭」と言った。


「解った、俺がトップ、フィラが中間、ガーネットが後衛でどうかな?」


「いいんじゃない、それでいきましょう。」


「はい、ご主人様。」


この森は初めて訪れる場所だ、まずガーネットの指示で方向を聞き、その通りに向かう。


「いい、ジャズ、森の中での行進は全周囲に目を配らせて、警戒しながらゆっくり進むの、いいわね。」


「ああ、解った。」


ガーネットに言われた様に、辺りを隈なく見回しながら、慎重に進む。


静かな森の音が、小動物たちの足音となって聞こえてくる。


 気配も感じられる。感知系のスキルは取っていないが、それでも何となくではあるが俺にも解る。


 しばらく進んでいると、後ろからフィラが何やら武器を構えだし、こちらに注意を呼び掛けた。


「お気をつけ下さいジャズ様、何か居ます。」


小声で話しかけられ、俺も腰にある小太刀を構える。


少し離れたところで、ガサガサと背の高い葉っぱが揺れて、何かが居る事を予想させる。モンスターか!?


様子を見ていると、居た! モンスターだ! 


大きいな、サイズは2メートルクラスの猪だ。


どう見ても野生動物の大きさじゃない、間違いなくモンスターだ。


「ビックボアね、まだこちらに気付いていないわ。どうする?」


「ガーネットは待機、フィラと俺でつついてみる。後は出たとこ勝負。」


「はい。ジャズ様、お任せを!」


「おっけー、いざとなったら矢を射かけるわよ、いいわね。」


作戦は決まった、後はやるだけ。今回はフィラの実力が知りたい訳なので、俺は支援に徹する。


ビックボアに向かい、クナイを投擲、狙いは後ろ脚。


クナイは真っ直ぐ飛んでいき、見事に命中、ピギイとビックボアが鳴き、僅かにダメージを与えた。


動きは鈍っている。よし! チャンスだ。


「フィラ、とどめを!」


「はい!」


 フィラがダッシュし、ビックボアに向かい、両腕に構えたバトルアックスを振り上げ、接近と同時に振り下ろす。


ザシュッ、と攻撃音が響き、なんと一撃でビックボアを倒してしまった。


凄いなフィラ。筋力Cは伊達じゃない。


「………ふ~~う、終わったようね、こんな浅い場所でいきなりビックボアは無いわよ。やっぱりどこかおかしいわね、普通ビックボアはもっと奥に居るモンスターだもの、何かあるんだわ。」


「ふーむ、兎に角フィラ、おつかれ。」


「はい、ジャズ様が投擲攻撃で動きを鈍らせたお陰で、楽に倒せました。流石ご主人様です。」


 ほう、こちらの動きをちゃんと理解した上でモンスターに対処したのか、やはりフィラは優秀だな。うむ、いいぞ。


それにしても、このクラスの相手に一撃で討伐成功か、フィラは本当に強いんだな。


 という事は、戦士系のスキルを習得させれば、更に強くなるという事か。うむ、悪く無い。


ちょっとフィラに尋ねてみよう。


「フィラ、少しいいか?」


「はい、何でしょうか? ジャズ様。」


「もし、もしもだ、スキルを何か習得できるとすれば、どんなのがいい?」


軽い気持ちで訊いてみる。


「スキルで、ございますか? うーん、そうですね、やはり力や素早さが上昇するようなスキルを習得したいと思います。」


ふーむ、という事は、「ストレングス」か「スピード」あたりのスキルか。


フィラのスキルポイントは5ポイントある、よーし、フィラにスキルを習得させよう。


 まずはステータスを表示させ、次にフィラに対してメニューコマンドを操作、スキルを習得させる。


………………よしよし、フィラにスキルを習得させたぞ。


 俺のやつとは違い、スキルにレベル設定は無かった。これはおそらくフィラが現地人だからだと思う。


俺のステータスの簡易版っといったところか。


よし、フィラのステータスを見てみよう。



 フィラ  HP35

 職業  アマゾネス

 クラス  ウォーリアー


 筋力 B  体力 C  敏捷 B

 器用 C  魔力 F  幸運 A


 スキル

 ・幸運上昇

 ・ストレングス

 ・スピード


 スキルポイント 3


 武器熟練度  斧 225



こんな感じだ、うむ、いいな。これでフィラはより逞しくなったと思う。


フィラ強化計画はまだ始まったばかりだな。


 それにしても、こうして普通にモンスターと出くわすというのは、俺達の勘違いだったのかな? 


森の浅いところとはいえ、ビックボアと普通に遭遇したし、探せば他にも居るかもしれない。


流石に森の奥に行く勇気は無い。今日のところはこのあたりで引き上げるか。


そう判断した矢先、森の奥の方から、たったった、と人の足音が聞こえてきた。


何か慌てている様な、急いでいる様な、そんな足音だ。


「ジャズ様、誰か来ます。」


「ああ、そうみたいだな、誰だろうか?」


「山賊とかだったらどうする?」


「こんな危険な森の中でか? それは無いよガーネット。」


兎に角、俺達は様子をみる。その場で待機し、身構える。


足音はやがてこちらへと接近し、俺達の前にその姿を現した。それは。


「うわっ!? びっくりした! 脅かすなよ、心臓が止まるかと思ったぞ。」


ガーネットが相手の男に訊く。


「あなた、何者?」


「おいおい、俺を知らないのか? 俺は男爵様の仲間の一人だよ。」


ん? 男爵? 


「ああ、思い出した、お前確か、ポール男爵の取り巻き連中の中にいた、その一人の奴じゃないか。」


目の前の男は、俺と熱いバトルを繰り広げた(と思われている)ポール男爵に、いつもくっついていた取り巻きの中の一人だった。


「何だ? お前一人か? ポール男爵と一緒じゃないのか?」


取り巻きの男は、何か焦っている様子でこちらに話しかけてきた。


「な、なあ、あんた等、ちょっと手伝ってくれねえか? 今ちょっと立て込んでんだ! 頼むよ!」


「おいおい、落ち着けよ、一体何があったって言うんだ?」


「男爵様だ! 男爵様が森の奥まで行っちまったんだよ! 俺はモンスターとの戦いに雪崩れ込んでしまったから、急いで離脱したんだが、男爵様が「修行じゃー!」とか言って、森の奥まで行っちまったんだよ。」


へえー、あの男爵がねえ、修行しに森まで出かけたって事か、中々骨があるじゃないか。


「お前はどうして逃げてきたんだ? 仲間だろう、まさか置き去りにしてきたんじゃないだろうな?」


 俺に言われて、取り巻きの男はバツが悪そうに顔の表情を曇らせ、しかし、仲間が心配なのか、俺達に助けて欲しいと懇願してきた。


「なあ、頼むよ、男爵様たちを助けてくれよ! このままじゃモンスターに喰われちまうよ!」


「解った解った、だから泣きつくな。それで? 男爵は森の奥まで足を延ばしたんだな?」


「ああ、そうだ! 修行の為にここまで来たんだが、モンスターがあまり居ないんで、おかしいなーとは思ったがよ、なあ、一体どうなってんだ? モンスターが草原に居ないし、森では浅いところに強力な奴がうようよ居るし。もう俺はどうしたらいいのやらで。」


ふーむ、それだけ喋る事ができるなら、こいつは大丈夫そうだが。


 そうか、ポール男爵が森の奥まで行ってしまったらしい、ポール男爵とは知らない事もないので、一応救援に向かってもいいが。


さて、この先何があるっていうんだろうか?



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