第94話 フィラ強化計画 ②
アワー大陸北部 魔の森監視所――――
アワー大陸北部に位置する国、オーダイン王国の北側には、魔の森と呼ばれる危険地帯が広がっている。
モンスターが多く生息するこの森を監視するため、オーダイン王国は大陸中央にある中心国家、ユニコーン王国からの要請により、この魔の森を監視する任を担っていた。
今日もいつものように、只、平和な一日が過ぎようとしていた。
「ふああ~~~。」
兵士の一人が欠伸を一つ、その任務の退屈さを物語っていた。
「何だよ、欠伸なんかして、真面目にやれよ。」
「だってよヘイワード、こう何も無いんじゃ、この鉄の剣も錆ちまうよ。」
兵士の一人はまさに退屈であった、しかし、ここでヘイワードと呼ばれた兵士が一言。
「何時モンスターが這い出てくるのか解らないんだぞ、監視は怠るべきじゃない。そうだろ。」
「言いたい事は解るが、こう何も無いとな……、お前とのカードゲームも飽きたしな。」
「言ってろよ、お前が誘ったんだぞ。コインを幾ら巻き上げたか。」
「けっ、今に見てろよ、今度こそは俺が勝つからな。」
そう言いながら、兵士はその場で立ち上がり、腰に提げている酒を取り出す。
「おい、こんな時間から呑むのか? やめとけって。」
「いいじゃねえかよ、少しくらい。」
そう言って、兵士は酒瓶の蓋を捻り、栓を開ける。そして口に飲み口を付けたその時。
パリンッ、と酒瓶がその場で突然割れた。不思議に思い、兵士は辺りを見回した。
「ん? なんだ?」
「どうした? 飲むんじゃなかったのか?」
「いや、ちょっと待て、何かがおかしい…………、ちょっと遠見鏡を見てみる。」
そう言いながら、兵士はやぐらから突き出ている遠見鏡を覗き込む。そして。
「な、なんだよ、…………これ………………。」
「ん? どうした?」
「おい! ヘイワード! こいつを見てみろ!」
「何だよ?」
「いいから早く!」
言われて、ヘイワードは先程まで見ていた兵士の後に、遠見鏡を覗き込んだ。
「な! なんだ! あの赤い点は!?」
そこに映っていたのは、多数の攻撃色に彩られた二つの目、ゴブリンの攻撃色だった。それも無数に。
「た、大変だ!? 隊長に知らせないと!」
二人の兵士には気付かない所で、ゴブリンに混ざって一人の男が佇んでいた。
「さあーみなさーん。準備はいいですかー? この天才軍師アイバー様に任せておけば何の問題もありませんよー。いきますよーみなさーん。」
アリシア王国 クラッチの町周辺の草原――――
………………おかしい?
幾ら何でもこれはおかしい。
モンスターが見当たらない。
いや、普通に野生動物のウサギや犬、猫といった動物は居る。だが。
「ご主人様、モンスターが居ません。いえ、見当たりません。」
「ああ、そうらしいな。どういう事だ?」
モンスターは居るには居るが、スライムだとかの危険度の少ない奴ばかりだ。
遠くの方に、群れからのはぐれらしいゴブリンが一匹居るくらいだ。
「フィラ、取り敢えずそこのスライムを討伐してくれるかい。」
フィラの実力を確かめたいのだが、この程度の相手では。
「倒しました。」
「え? もう倒したの? 早いね。」
やはりこの程度では相手にもならん。
もっとちゃんとしたモンスターと相対してみたいが、さて、草原をざっと見渡したが、やはりモンスターの姿は見られない、見当たらない。
「フィラ、あそこに一匹だけで動いているゴブリンまで行って、討伐してきてくれるかい?」
「はい、ご主人様。行って参ります。」
フィラはそう言い、全速力でゴブリンが居る方へ向かった。
(フィラは足が速いな。敏捷Cは流石といったところか。)
そして戻って来た。
「倒しました。」
「え? もう。早いね。」
うーむ、やはりフィラの実力を推し量るにはもっとこう、耐久力のあるモンスターじゃなきゃダメみたいだな。
「あの、ご主人様。先程から妙な感じなのですが、モンスターが見当たらないというのは、やはりおかしいと思います。」
「ああ、そうだな。」
と、ここで後ろの方から俺達に大声で声が掛けられた。
「おおーーい!」
振り向くと、そこにはガーネットともう一人、確かラットとか言ったな、二人の新米冒険者がこちらへと駆け寄ってきていた。
「やあ、ガーネット、それにラット君。」
ガーネット達は息を切らしながら、ゆっくりと深呼吸して、話に臨んだ。
「やあ、じゃないわよ。ねえジャズ、ここら辺にホーンラビット見なかった?」
「いや、見てないよ、ガーネットにも聞きたいんだけど、この辺りにクロウラー見なかった?」
「え? クロウラー? 見なかったわよ、ねえラット」
「ああ、っていうかさ、モンスターの姿が何処にも見当たらないんだけど、何か知らない?」
ふーむ、ガーネット達でも似た様な状況なのか。一体何がどうなってんだかな?
ガーネットが話を続ける。
「私達、ホーンラビットの討伐依頼を受けたんだけど、何処にも居ないのよ。」
「そうか、俺達もだよ、クロウラーの討伐依頼を受けたんだが、何処にも居ないんだよね。」
「そっちでもなの? まったく、どうなってんのよ!」
と、ここでフィラが話に加わる。
「あの、よろしいでしょうか?」
「どうした? フィラ」
フィラは何か考え事をしつつ、それでも自分の考えを皆に伝える。
「僭越ながら、私はかつて、Cランクの冒険者でしたが、草原にも何度か足を運んで、鍛えていましたが、こんな事は初めてです。モンスターが全くと言っていいほど見当たらないというのは。何か嫌な予感が致します。」
ふーむ、フィラがそう感じているのか。なら、そうなのだろうな。
「女の勘って奴かい?」
ラット君が返事をし、ガーネットも続く。
「うーん、流石に元Cランク冒険者の意見を聞かない訳にはいかないでしょうね。」
ふーむ、確かに、フィラの勘はいい線いってるかもしれんな。
よーし、ここは一つ、確かめてみるか。
「ガーネット、俺達はこのまま、北東の森まで足を延ばそうと考えているが、ちょっと確かめたくてな。それで、ガーネット達にはそのまま町に戻って、ギルドにこの事を報告してきてくれないか? 流石にこの事態は異常だよ。」
「ちょっと待ちなさいよ! こんな状態で森に入るの? 森って危険なのよ!」
「大丈夫、森の浅い所までしか行かないつもりだし、いざとなったら直ぐに引き返すから。」
ガーネットは心配そうにこちらを見て、そして意を決したように言葉を紡いだ。
「………………解ったわ、私も一緒に行く、先輩として付いて行くわ。」
「え? だけど、いいのかい?」
「ええ、だって、心配だもの、という訳でラット、悪いけど、町に戻ってギルドに報告、頼んだわよ。」
「はいはい、ガーネットは一度こうと決めたらがんとして譲らないからなあ。解ったよ。報告は俺に任せろ。ジャズのあんちゃん、ガーネットの事、よろしくな。」
「ああ、ラット君も気を付けて。」
ここで、ラット君は、「じゃあ行って来る」と言い残し、ダッシュで町へと帰還していった。
残ったガーネットも、俺達と一緒に森の探索に付き合ってくれるみたいだ。
アーチャーなどの遠距離要員が居ると居ないじゃ大違いだからな、有難い。
「よろしく頼むよ、ガーネット。」
「ええ、任せて、森は初めてじゃないから、私が少し案内できると思うわ。」
ほうほう、そいつは頼もしいな。よーし、一丁いきますか。
こうして、この事態の異常さを確かめる為、俺達三人は北東の森へと向かうのだった。
まあ、森の深い所まで行く訳じゃないから、ちょっと行って確かめるだけだし、危険なモンスターが現れたら逃げるか、対処するか判断して、事を慎重に運べばいいか。
兎に角、色々と確かめない事には、始まらないと思う。
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