第80話 奴隷市場 ②
奴隷市場へと出かけて、色々と見て回ったが、その一つのお店でえらく安い奴隷が売られていた。
気になったので店主に声を掛け、事情を聴いたところ、どうやら「高級店」からの売れ残りらしい。
そして、戦闘奴隷に興味があった俺は、その値段を聞いてがっかりした。
金貨20枚が最低金額らしい、とてもじゃないが今の自分には手が届かない。
諦めようと思い、手持ちで使える金貨5枚を店の店主に言ったところ、な、なんと金貨5枚の奴隷が居ると言っていた。
あまり変な奴隷は掴まされたくはないんだが、さて、一体どんな「訳アリ」奴隷なのだろうか。
露店商の様に売られている奴隷達とは違う様で、テントの奥の方にも「商品」があるみたいだ。
店主がテントの奥に居るであろう、一人の奴隷を呼んだ。
「ジャック、来なさい。」
言われてジャックと呼ばれた男が姿を現した。獣人の男だ、いや、それよりも………。
「彼の名はジャック、一応戦闘奴隷です。ウチの商品ですが、まだまだ戦えます。これで金貨15枚になります。如何ですかな?」
「金貨15枚、ですか、うーん。」
(金貨5枚しか出せないのだが。)
その獣人の男を見ると、確かに強そうではある、強そうではあるが。
「右腕はどうしたのですか?」
ジャックという獣人の男は、片腕が無かった。そこで、店主が説明しだした。
「戦闘奴隷ですので、ご主人様の命令で戦います。当然、危険な事をやらせられます。なので、過酷な状況での戦ですので、片腕や片足を失う事もあるでしょう。しかし、それでも戦える者はおります、なのでこのジャックは金貨15枚の価値があるのです、はい。」
確かに、左腕一本でも武器は扱えるだろう、だが、幾ら安いといってもこれは流石に扱いづらい。
そもそも男の奴隷は必要としていない。金額も高い。買えない。
「店主さん、俺は女の奴隷がいいのですが、それに、金貨5枚しか出せません。」
「解っておりますとも、ただ、安い奴隷とはこういうものだという事を、ご理解頂けたく思い、ジャックを紹介しました。お客様、少々ご足労願えますかな? 自力で歩けない奴隷もおりますので。」
ふーむ、やはり安いのには何か訳がある、という事か。しかし、ここでちょっと試したい事がある。
「店主さん、一つ聞きたいのですが、例えば最高位の回復魔法「エクストラヒール」ならば、欠損した腕や足を再生出来るかもしれないのですが、聞いた事はありませんか?」
俺の質問に、店主は即答した。
「そうですな、高位の回復術士ならば、失った腕を復元したという噂は聞いた事があります。ですが、この国にはおりません、また、術を施して貰うとなると、莫大な金銭を要求されると聞いた事があります。いくらお金に余裕があっても、奴隷の為に普通そこまでの事はしません。」
そうなのか、この国には高位の回復術士がいないのか。まあ、回復術士の人数が少ないというのも起因していると思うが。
魔法を行使して貰うのにも、やはりお金は掛かるという事か。
(一応、俺のショップコマンドの中に、エクストラヒールの巻物が売られているのだが。)
「店主さん、このジャックという男に一つ、試したい事があるのですが。」
「申し訳ございません。何をなさるつもりかは存じませんが、これでもウチの商品でして、勝手な振舞いはお控え下さいますよう、お願い致します。」
ふーむ、そうか、そうだよな、ジャックはまだ誰の物でもない訳だし、やっぱり奴隷と契約してからじゃないと魔法のスクロールは試せないか。
上手くいく可能性がある訳でもないし、しかし、聞いた話では高位の回復魔法で欠損した所が復元したと言っていたし、自分が購入した奴隷に試してみる価値はあるよな。
「ジャック、もう結構です、下がりなさい。」
「はい、ご主人様。」
ジャックは奥のテントへと引っ込んで行った。そして店主がこちらに向き直る。
「では、参りましょうか。金貨5枚の奴隷はこの奥に居ます。自力では歩けませんので、こちらになります。どうぞ中へ。」
店主に促され、テントの中へ入る。そこには腕が無かったり、片足が無かったり、戦いにおいて傷ついた戦闘奴隷がかなり居た。
殆どが男の奴隷ばかりだが、中には女の奴隷も居た、片足が無く、松葉づえをつきながらも、買って貰える様に明るく振舞っている。
だが、それでも値札には「金貨10枚」と書かれていた。
「こちらになります、金貨5枚の女奴隷です。如何ですかな?」
「………………。」
商会された奴隷は確かに女だった。しかも若い、年の頃は16歳といったところか、だが。
「確かに、これは金貨5枚の奴隷ではあると思いますが、見た目は美しい、身体つきも悪くない。」
「仰る通りです、女として買うのもいいかと存じますが、御覧の通り片腕と両足がありません。」
目の前に横たわる女性奴隷は、他の片腕が無い奴隷に甲斐甲斐しく介護されていた。
確かに、確かに金貨5枚と安い奴隷ではあると思うが、これはもう、戦闘奴隷としてはやっていけない。
「ネモ、ご挨拶なさい、貴女を買ってくれるかもしれないお客様ですよ。」
店主に言われて、ネモと呼ばれた女性奴隷が返事をし、こちらに挨拶をする。
「初めましてお客様、私はネモ、アマゾネス、戦士、クラスはウォーリアー、………。」
ネモの表情はとても暗かった、そして元気が無かった。
まあ、そうだよな、自分でも気付いてるだろう、もう戦闘奴隷としてはやっていけない事ぐらいは。
右腕と両足が無い。左腕一本だけでどうやって戦えというのか、見ているとやるせない。
「何があって、こうなったのだ?」
聞くと、店主が答えた。ネモは答える気は無さそうだ。
「ネモは初め、高級店で金貨80枚で売られていました。さる貴族の方が買われていきましたが、主人よりも先に「ウォーリアー」の中級クラスにクラスアップした事で、その貴族様の不評を買い、相当無茶な命令をされた様でして………。」
「どんな命令だ?」
「………鉄の剣一本だけで、ゴブリンが巣くう洞窟に潜れというものでしたそうです。防具は身に着けず。ほぼ裸同然で。」
そこから先はネモが答えた。
「ゴブリンは30匹程倒しました。しかし、31匹目に不意を突かれ、意識を失い、気が付いた時は御覧の有様でした。例え片腕しか残っていなくても、31匹目は倒しました。私は戦士です。戦士なのです。」
なるほど、いい主人に恵まれなかったという訳か、一人でモンスターを31匹倒すとは。中々どうして、やるものだ。
「ネモ、君は正真正銘の戦士だ。」
俺が言うと、ネモは少し明るく表情が緩んだ。
「その言葉、なによりの誉です。貴方になら、女として買われてもいいと思います。」
ネモの言葉の後、店主が続けた。
「この通り、戦闘奴隷としてはもう終わりましたが、女としては最高の体をしております。如何ですかな? こちらのネモを買われますかな? 金貨5枚でお譲り致しますが。」
ふーむ、若い女性で、しかもアマゾネスときてる、戦闘に特化した女性専用の職業だ。
しかも中級クラスのウォーリアーと言っていた。
戦士のクラスはファイター、ウォーリアー、バトルマスター、という順にクラスアップしていく。
丁度いい、ネモにクラスアップはどうやったか聞いてみよう。
「ネモ、聞きたいのだが、どうやってウォーリアーにクラスアップしたんだい?」
「簡単です、女神様に認められれば、女神教会にてシスターからクラスアップできますと、言われるのです。私の場合はその場で「転職の儀」をしてもらいました。そしてウォーリアーになったのです。」
ふーむ、なんと、クラスアップは女神教会でやって貰えるのか。
これはいい事を聞いた。俺もクラスアップしたいからな。
そして、このネモは美しい、べっぴんさんである。
ショップコマンドでエクストラヒールの
やってみる価値はある筈だ。
どうする、このアマゾネスを買うか?
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