第79話 奴隷市場 ①


 クラッチの町中で、ニールとばったり遭遇した。


 何やらウキウキとしている、まあそうだよな、休暇が貰えたし、昇進もしたし、金一封まで貰えたとなればさぞ嬉しかろう。


「ようジャズ、奴隷買いに行こうぜ。」


「聞こえてるよ、二回も言うな、わざと返事しなかったんだよ。」


 こいつは、リップという女が居ながら更に奴隷まで欲しがるとは、節度ってものがあるだろうに、節度ってものが、ホント何言ってんだかな、こいつ。


「リップはどうすんだよ、リップは? お前等二人共うまくいってんだろ?」


「リップはリップ、奴隷は奴隷さ、まったくの別物だよ。いいかジャズ、男ってのはな、いつかは奴隷を欲しがるもんなんだぜ。男にとって奴隷を持つのは夢であり浪漫なんだよ。解るだろ?」


「そりゃ俺だって男だからさ、そういう奴隷はもし持てたらいいな位には思ってるけどさ………。」


「だろー、金もある事だし、奴隷市場へ行ってみようぜ。」


ふーむ、奴隷ねえ、日本で奴隷なんか売買したら即ポリスだが、異世界ならいいのか。


奴隷を持つ貴族の話とかよく聞くしな。だが、道具屋で薬草を買うとは訳が違う。


商品は人、奴隷だ。色々な問題が無ければいいんだがな。


その辺、この国の法律ってどうなってんのかねえ。


「なあニール、そもそも奴隷ってのは金貨5、6枚で買えるものなのか? 俺はもうちょっと高いと思うがな。」


「大丈夫だ、俺の村の村長が、畑仕事を手伝わせる為に奴隷を一人買ったんだが、村の皆でお金を出し合って村長が主人って事で契約した時、金貨3枚で買ったって言ってた。」


 何!? 金貨3枚? そんなに安いものなのか? いや、多分だけど農奴として買った奴隷だったから金貨3枚だったかもしれんな。


「ちなみに、その奴隷は男か?」


「ああ、そうだ、結構歳いってたな。」


やはりか、奴隷によって値段は様々だろうな。


 もし俺が奴隷を買うならば、やっぱり若い女性で戦闘もこなせる戦闘奴隷が欲しいよな、勿論、夜のお相手もして貰う感じで。


そういう奴隷って幾ら位するのかな? きっと物凄くお高いんだろうな。


「なあニール、お前の欲しい奴隷ってのは女なんだよな?」


「当たり前だろ。何で俺が男の奴隷を欲しがると思ってんだよ。嫌だよ、女がいいんだよ。女が。」


「そういう奴隷ってさ、やっぱり高いと思うんだよね、お前幾ら位の奴隷を買うつもりなんだ?」


「そうだな、大体金貨5枚ってところだな。それ位出せばそこそこの見た目の奴隷が買えるかもしれないだろ。一緒に奴隷市場へ行こうぜ、ジャズ。」


「うーん、奴隷市場ねえ。お金は大切だから、貯めておいた方がいいような気がするがな。」


「なに言ってんだジャズ、折角大金が入ってきたんだから使わなきゃ損だぜ、それにモー商会がやってる奴隷市場なら安心で確実な奴隷が多いんだぜ、行こうぜジャズ。」


ふーむ、まあ買う買わないは別にして、一度奴隷市場ってのを見学するのもいいかもな。


 もし、もしも俺が一目惚れした奴隷が居たら、………………やっぱり高いんだろうな、そういう奴隷ってのは。


「まあ、行くだけ行ってみてもいいがな、買うかどうかは値段次第だがな。」


「よし! 決まりだな、早速行こうぜ。奴隷市場はこっちの方角だ、あ~~楽しみだな。一体どんなが居るのかな? 俺の持ち金で買えるかな? 優しい奴隷が居ればいいな。」


こうしてニールと二人、クラッチの町の奴隷市場へ向けて、歩き出した。


実は俺も興味が無い訳ではない。見て回るのもいいかもしれないな。


 奴隷市場へ着く前に、俺の腕に装備されている「勇気の腕輪」を見る。


キャンペーンシナリオとかいうのをクリアしたボーナスで貰った、マジックアイテムだ。


 こいつは「指揮官」の装備スキルが身に付く腕輪で、スキル指揮官の効果は周りの味方に勇気を与え、士気を高める効果がある。


まあ、気持ちの問題ってやつだな。


 もし、万が一サキ隊長が指揮を執れなくなった時、俺がその次の階級である為、指揮を執る事になる。


なのでこの勇気の腕輪は俺が装備している。まあ、保険みたいなものだな。


「指揮官」のスキルがあると無いとでは、やはり違うと思う。


 そうこうしていると、何やら人だかりが見えてきた。どうやら奴隷市場へ着いたみたいだ。


「へえ~、ここが奴隷市場か、中々賑やかな感じじゃないか。」


「へへへ、ここで俺の新たな出会いが待っているって訳だぜ。行こうぜ。」


奴隷市場というのは実に様々な奴隷が売られていた。


 お店の中で取引される、所謂「高級」な奴隷から、まるで露店商の様に外で売られている奴隷も居る。


 外で売られている奴隷達は横一列に並んで、客から色々見られながら店の主と交渉しているみたいだ。


 奴隷達の顔の表情は明るかったり、暗かったり、やる気に満ちていたり、やる気なしだったり、様々な奴隷が揃っているみたいだ。


まあ無理も無い、奴隷落ちした人なんていい気分な訳が無い。


だが、自分が高く売られる事を期待しているっぽい奴隷も、中には居るだろう。


 奴隷は男だったり女だったり、殆どは人間ヒューマンだが、中にはエルフだったり、ドワーフだったり、ケモ耳ケモ尻尾の獣人だったり、実に様々な奴隷が揃っている。


 胸のあたりに値札が掛けられていて、ざっと見ただけで金貨20枚だったり、金貨15枚だったり、値段も色々といったところだ。


 そんな奴隷市場の一角で、一際目立つ所があった、「金貨8枚!」とか「金貨15枚!」とか聞こえてくる。


 おそらくオークションでもやっているかもしれない、見ると、な、なんと、あの「ポエム山賊団」の頭目に捕まっていた女の子が競りに掛けられていた。


値札には「金貨30枚以上」と書いてあった。


 そうか、あの子も無事だったか。それにしても金貨30枚とは、中々高い値段が付いているじゃないか。


 きっとお金持ちのいい所の屋敷にでも売られる事だろう。顔の表情は流石に明るくはなかったが。


「おいジャズ! あっちに行ってみようぜ。安い奴隷が沢山居るってよ。」


「ああ、まあ見るだけならな。」


奴隷市場の中の一つに、やたらと安い奴隷が売られている店があった。


露店商みたいな売り方だが、ここからでもハッキリと奴隷を吟味できる様になっている。


 奴隷達はボロボロの布の服を着せられていて、鎖に繋がれている、逃げ出さない為ではあるとは思うが、ちょっと可哀想ではある。


「おおお! 居る居る! 可愛い子が沢山居るぞ! 値段も手頃だな! どうするジャズ、買うか?」


「いや、俺はいいよ。見てるだけだし。」


「何だよ、いい子がいっぱい居るんだぜ。買おうぜ。」


「お前が買えよ、そんなに気に入ったらさ。大体、幾ら位するんだ? いくら安いっていっても最低金額ってのがあるだろう。」


奴隷の一人の値札を見ると、確かに安い。金貨5枚と書かれていた。しかも若い女性でだ。


 こういうのは大抵あまり良くない奴隷を掴まされると思うのだが、さて、ちょっと店の人に聞いてみようかな。


「すいません、ちょっと聞きたいのですが。」


「はい、いらっしゃいませ。うちの店の子は皆いい子ばかりですよ。お安くしておきますから、どうぞご覧になっていって下さい。気に入った子がいたらお声を掛けて下さい、値段交渉も応じます。」


「あ、いえ、聞きたいのは、何故こんなにも安いのかって訳なんですが。」


 俺の質問に、奴隷商の主は少し困った表情をした。やはり何かあるんだな。曰く付とか。


「申し訳御座いません、当店の奴隷は所謂、「売れ残り」商品でして、決して粗悪な奴隷ではありませんが、そもそも「高級店」からのお下がりでして、中々売れずに困っている店からの、言ってみれば「型落ち品」というものでして、はい。」


ふーむ、そういう事情か、色々あるものなんだな。


「ところで、戦闘奴隷というのは、幾ら位するものなのでしょうか?」


「おや? お客さん、戦闘奴隷にご興味がおありなのですか? いい奴隷が居ますよ。しかし、戦闘がこなせるだけあって、少々値は張りますが。」


「お幾ら位ですか?」


「そうですな、強さにも寄りますが、最低金額で金貨20枚、といったところでしょうか。」


き、金貨20枚!? 駄目だ、桁が違う。


 とても今の俺じゃあ買えない、やっぱり奴隷は高いものなんだな。諦めるしかないよな。


「すいません、ちょっと自分には手が届きそうにありませんね、金貨5枚しか持ってないんで。」


俺が言うと、店の人は少し考え事をしている様子で、しかし、こう言いだした。


「………お客さん、実は金貨5枚の戦闘奴隷がいない訳ではないのですが………。」


「え!? 居るのですか?」


「………少々訳ありの奴隷でして………………。」










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