第75話 アリシア動乱 ⑭



 ダイサーク様とアロダント第二王子の決闘は、もう決着が着いた様なものだ。


 アロダントの片腕が切り飛ばされ、膝から崩れ落ち、戦意を失っている。もうここまでの様だ。


ダイサーク様はアロダント第二王子と自分は王様の本当の子ではないと言った。


この事態を、只々見届けるしか今の所無さそうだ。


 ダイサーク様が語り、アロダントは黙って聞いているという状況だ。ダイサーク様は更に続ける。


「俺もお前も、王に相応しくないと言ったよな、それは、俺達には王族、王家の血が流れていないという事なのだ。」


「………。」


アロダントは黙って聞く姿勢を貫いている。更に言葉は続く。


「母上は、恋多き大人の女性であった、他にも関係を持った者もいるやもしれん。母上は伯爵家の人間である。そして、俺の父親は男爵家の者らしい、そしてアロダント、お前は騎子爵家の者が本当の父親なのだと、母上から聞いた。」


「………。」


「つまりな、アロダントよ、俺達には王家の血が流れていないのだ。だから王になってはならんのだ。」


「………。」


「国王である父上の本当の子は、カタリナ姉上と妹のサナリーだけなのだ。姉上は嫁がれていったので、残されたのは、もう妹のサナリーだけなのだ。サナリーを王に就け、我等はそれを支えねばならんというのに、お前ときたら妹を手に掛ける様な事をしよって、………このたわけが………。」


「………。」


「この事実を知っている者は、母上とそのお付きの侍女だけである。母上が亡くなる前に、俺はその事を聞いたのだ。母上本人からな。」


「………。」


「だからな、アロダントよ、俺達兄弟は王になってはならんのだ。ならんのだよ。この決闘には何の意味も無い。もう終わりにしよう。俺達が争う必要など無いのだ、アロダントよ。」


「………。」


「今にして思えば、カタリナ姉上には母上の血が流れているのやもしれんな、隣国へ嫁ぎに行く前に、市井の男との間に子を産んでおるからのう。」


「………。」


そして、しばしの沈黙が流れる。それを破ったのはアロダントの笑い声だった。


「フフッ、フフフフ、フハハハハ………。」


アロダントは気がふれた様に笑い続けた。そして。


「ふざけるなあああ! 今更そんな事信じられるとでも思ったのかああああ!」


「事実だ! 受け入れよ、アロダント!」


「黙れええええええええええええーーーーーーー!!!」


そこからは、まるでスローモーションを見ているかの様な錯覚を覚えた。


叫びと共に、アロダントは腰にある刺突剣のレイピアを引き抜き、構え、前方に突き出した。


ダイサーク様はロングソードを鞘に納めているので、対処がワンテンポ遅れた。


アロダントは立ち上がり、一歩前へと踏み込む。


レイピアがダイサーク様の胸に向かって突き出された。


俺は体が痺れて身動き出来ない。


ドニはダイサーク様の後方に居たので、対処が出来ない。


動いたのはニールだ、背中の大剣を引き抜き、バスタードソードを上へ振り上げ突進。


お二人の間に割って入る様に行動していた。


そして、ニールの大剣が振り下ろされ、アロダントのレイピアを中程から叩き折った。


 レイピアの先が、ダイサーク様の胸に突き刺さる寸でのところで折られ、そのレイピアの先端がアロダントの顔目掛けて、縦回転しながら飛び、そしてアロダントに当たる。


「ぎゃああああああああーーーーーーーー!!」


アロダントの片目に、自分のレイピアの剣先が突き刺さり、その場で体制を崩した。


「アロダント!?」


ダイサーク様は一瞬、何が起こったのか、解らない様子だった。


「うううう、私は、私はこんなところで………。」


 アロダントはフラフラとした足取りで歩き出し、何かを求めてテラスの方へゆっくりと歩き出した。


「私が王だ、私が王になるのだ。」


アロダントは更にフラフラと歩き、テラスのドアを開け放つ。


「こんなところで私は終わらん、こんなところで私は死なん、こんなところで私は倒れん。」


アロダントは、そのままテラスの方へゆっくりと進む。


「私が王になり、愚民共を排除し、スラムを焼き、貴族だけの社会をつくり、そして………。」


アロダントはテラスの柵にもたれ掛かり、ピタリと動きが止まる。


「私は王になる、王になって、私は、王に、なって………。」


アロダントは直立不動の態勢になり、ピタリと動かない。そして………。


「私は………王になって………何がしたかったのであろうか………。」


その言葉を最後に、アロダントはテラスから転落し、落下していった。


地表までかなりの高さがある、無事では済まない。


「アロダント、………何故もっと早く気付かん………………愚か者が………………。」


静寂に包まれた玉座の間にて、ダイサーク第一王子の呟きだけが、静かに響いた。



  王城  庭付近の上空――――



 サキ少尉とサナリー王女、それとペガサスナイトのマーテルの三人は、王城の上空へと辿り着いた。


マーテルが上から地上を観察し、状況を見ている。


「おかしいですね、城の警備の者が一人もおりません。どうなっているのでしょうか?」


これに答えたのが、サナリー王女だった。


「おそらくですが、アロダントの指図ではないかと思います。」


サキ少尉が聞く。


「どういう事なのでしょうか? サナリー様。」


「おそらく、アロダントは自分の息のかかった者だけを城に残し、それ以外の者はどこか一か所に集めて監禁しているのではないかと、自分のやる事を邪魔されたくないのかもしれませんね。」


「第二王子アロダントのやる事、で、ありますか? それは一体………。」


「………それはわたくしにも解りません、ですが、アロダントの罪は裁かねばなりません。参りましょう。」


「「 はい! 」」


三人は庭に降り立ち、辺りを見回す。


「やはり誰も居ない様です。王城の中もそうなのでしょうか?」


サキ少尉が聞くと、マーテルは直ぐ近くのドアへと向かい、扉を開けようとした、だが。


「これは、どうやら鍵を掛けられている様ですね。おそらく他の扉でも鍵が掛かっているかもしれません。」


ここで、サナリー王女は上を見上げ、テラスの方を見た。


「ここはやはり、テラスから王城へ入るしかないかもしれませんね。」


「テラスからですか。」


 三人がテラスの方を見上げていると、丁度そこへ、「何か」が落ちてきた。辺りは暗く、よく見えなかったが、何かが落ちてくる事だけは見えた。


「危ない!」


「サナリー様、お下がりを!」


 二人がサナリー王女を庇い、グイっと後ろへと引いた後、ドサリと何かがサキ少尉の目前に落ちた。


「ひゃあ!? な、何!?」


 サキ少尉はびっくりして声を上げた。だが、落ちてきたものには当たらなかったので、大事には至っていない。


「大丈夫ですか、サキ少尉!」


「は、はい。何とか。」


三人は、落ちてきたものが何かを確かめる為、恐る恐る近づき、確かめる。そこには。


「こ、これは!? アロダント第二王子!?」


サキ少尉が声を出し、他の二人にも知らせる。


「た、大変です! テラスから落ちてきたのは、アロダント第二王子です!?」


これを聞き、二人も近づく。


「ほ、本当だわ!? アロダント第二王子です! サナリー様!」


「な、何故アロダントがテラスから落ちてくるのです!? テラスというと、この上は確か、玉座の間だった筈。一体何があったというのですか?」


三人は困惑し、事態がどう変化したのか理解できなかった。


 だが、ここで思わぬ事が起こりだした。アロダント第二王子の体から、青黒い半透明な「何か」が剥がれ始めた。


「な、何ですか!? これは?」


「お下がりを! 何か様子が変です!」


マーテルが言うと、その「何か」はみるみるうちに形を成し、その姿を現した。


それは、とてもおぞましい姿をしており、人型だが異形の形をしていた。


見る者を恐怖させる感覚を覚えた三人は、それを、何か良くない事だと感じていた。


見るからに邪悪な存在に、三人は恐怖し、言葉を失った。


シャイニングナイツのマーテル一人だけが、それの正体に気付き始めていた。


「ま、まさか!? これは!?」









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