第74話 アリシア動乱 ⑬



  王都アリシア  スラム街――――



  辺りはもうすっかり暗くなっており、夜の帳が降りていた。スラムの街は静寂に包まれている。


スラムの空き地にて、サキ少尉は目を覚ました。辺りを見回し、状況を確かめる。


「………う、う~ん、ここは?」


「気が付きましたか? サキ少尉。」


声のした方を見ると、そこに居たのはシャイニングナイツのマーテルだった。


サキ少尉は、マーテルに膝枕をされていた。


「こ、これはマーテル殿、お世話になったみたいで恐縮です。」


 サキ少尉は静かに立ち上がり、辺りを見回す、ここはスラムの空き地だと瞬時に理解する。


「そうか、私はやられ、部下達がなんとかしたのか。あいつ等、中々やるようになったじゃないか。」


そこへ、サナリー王女が寄って来た。


「サキ少尉、大丈夫ですか? 無理をしてはいけませんよ。」


「あ、貴女はサナリー様! この様な姿を晒してしまい、お見苦しい所をお見せして申し訳なく思います。」


「気にしてはいません、貴女は大丈夫ですか? お怪我をされていた様ですが。」


サキ少尉は自分の体をあちこち触り、問題ない事を確かめる。


「はい、自分は大丈夫そうです、ところで、サナリー様。お伝えしたき事が御座います。アロダント第二王子の手の者達が、サナリー様を狙っております、ここは危険かと思います、安全な所へお早く。」


 しかし、サキ少尉は焦っていたが、当のサナリー王女はゆったりとした物腰で語り始めた。


「アロダントの事は存じております、実際に襲われました、ですがジャズによってわたくしは無事です。マーテルも居ます。」


 これを聞いたサキ少尉は内心ほっとした、ジャズが何とかした事を、サキ少尉は素直にジャズ達に感心した。


「そうでしたか、しかし、辺りももう暗くなってきております、戻られては如何でしょうか。」


 サキ少尉の言葉に、しかしサナリー王女は首を横に振り、思いつめた表情で、しかし自身の考えを伝えた。


「サキ少尉、聞いて下さい、わたくしは今回の件を許すつもりはありません、今すぐ王城へと赴き、アロダント第二王子を問い詰め、法の下で裁き、罪を認めさせ、罰を与え様と考えています。マーテルには既にこの事を話しています。」


「………そうでしたか、遂にサナリー様は動かれますか。私もお供致します。よろしいでしょうか?」


 サキ少尉はマーテルの方を向き、尋ねる。マーテルは頷き、ここに、王城へと向かう事になった三人は、ペガサスに乗り、天を駆け、王城へと向かうのであった。



  王都アリシア  王城  玉座の間――――



 マグマは倒した、後はアロダント第二王子だけだ。もうアロダントを守る者は居ない。


ニールがこちらに声を掛ける。


「やったなジャズ、大した奴だよお前は。」


そこで気付く、自分の体が思うように動かない事に。急ぎステータスを調べる。


(やっぱりか、ダークブレイズの影響だな、バットステータスが付いている。麻痺か。)


体が思うように動かなかった。


「おう、ニール、へへへ、今ちょっと不味い状況だ、気を抜くとぶっ倒れちまいそうだ。麻痺ってる。」


「お前働きすぎなんだよ、後の事は俺に任せろ、いいからぶっ倒れてろって。」


「ああ、すまんがそうさせて貰うぜ、ニール、ドニ、後は頼むわ。」


そして、そのまま床に倒れる。大理石の床は冷たかった。身動きとれん。


 アロダントはすっくと玉座から立ち上がり、ダイサーク王子の元へと歩み寄って来た。


そこでダイサーク王子はニールに命じた。


「アロダント、ここまでだ。お前を拘束する。ニールよ、アロダントを拘束せよ!」


しかし、ここでアロダントはダイサーク王子に向かって言葉を発した。


「チっ、マグマめ、使えん。………兄上、一つ私と勝負といきませんか?」


ダイサーク王子はそれに答える。


「何? 勝負だと?」


「そうです、兄上と私で決闘をするのです。どちらかが倒れるまで戦い、勝った方が王位に就く。簡単でいて実にあと腐れ無く雌雄を決する事ができます。如何ですかな? 兄上。」


何言ってんだ、こいつ。今更そんな事、逃れる事など出来ないというのに。


「アロダント………お前、そうまでして………。」


「兄上、決闘です。」


「………いいだろう、その決闘、受け入れる。」


 なんと、ダイサーク様はやる気だ。アロダントとの一騎打ちか、ダイサーク様は勝つだろうか。


 ダイサーク様とアロダントは、お互いに近づき、戦いの間合いで立ち止まり、それぞれ武器を抜いた。


 ダイサーク様は鉄の剣のロングソードだ。対してアロダントは腰にある刺突剣のレイピアではなく、鞭の様な物を構えだした。


アロダントは鞭を振るい、しなりを確かめている。


「アロダントよ、本当に「それ」でよいのか?」


「ええ、私は「これ」でいいのです。」


ニールが二人の間に立ち、手を上げて決闘の開始の合図を始める。


「ではこれより、ダイサーク第一王子とアロダント第二王子の決闘を見届けます。両者、準備の方はよろしいでしょうか? では! はじめ!!」


ここに、ダイサーク様とアロダントの決闘が始まった。


先に動いたのはアロダントだ、茨の鞭を振るい、ダイサーク様へ向けて勢いよく振り抜く。


「くらえ!」


だが、ダイサーク様は剣で鞭を絡め取り、二人の距離が一定になった。


「あまいわ!」


 そして、腰にあるナイフを抜き、絡まった鞭を中ほどから切断した。その反動でアロダントはたたらを踏み、体勢を崩した。


「それを見逃す俺では無いぞ!」


ダイサーク様は一気に接近し、アロダント目掛けて剣を振り上げ、そして振り下ろす。


「ぎゃああああ、痛いいいいいーーー!?」


アロダントの腕は切断され、切り飛ばされた。鞭を持っている方だった。


「アロダントよ、所詮お前は拘束した相手しか鞭を振ってはこなかった。動き回り、反撃してくる相手には通用せんのだ。」


「うううううう。」


「それにな、アロダントよ、俺は一度も王位に就くなどと一言も言ってはおらんぞ。」


「な、何だとおお!?」


「なあ、アロダント、もう終わりにせんか? 俺達が争っても仕方が無い事なのだ。無意味とも思う。」


「何を言っているのだ! 私を軽く見ているのか! 貴様はいつもそうだ! 先に生まれたからといって王位継承権一位だなどと!! 貴様がいけないのだよ、貴様が!!!」


アロダントは膝をつき、失った片腕を庇いながらも、ダイサーク様を睨みつけた。

その顔は歪んでいた。


「聞け、アロダント、俺もお前も、王位に就いてはならんのだ。ならんのだよ。アロダント。」


ダイサーク様はロングソードを鞘に仕舞い、アロダントに向け、言葉を掛けた。


「アロダントよ、聞いてくれ。今から話す事、事実である。聞いてくれるか?」


「………。」


ダイサーク様はこちらへと振り向き、命じた。


「これから俺が話す事、一切の他言無用である。よいか。」


体が動かないので、返事だけする。


「はい。」


ニールとドニも無言で頷く。


「よし、頼むな。三人共。」


「「「 はい。 」」」


そして、ダイサーク様はアロダントへと向き直り、静かに言葉を掛けた。


「聞いてくれ、アロダント。俺もお前も、王に相応しくはないのだ。」


「私が王に相応しくないだと!? だったらどうだと言うのだ!」


「落ち着けアロダント、そういう意味ではない。そうではないのだ。アロダントよ、俺は、俺達は………。」


ダイサーク様は静かにその瞳を閉じ、ゆっくりと語り始めた。


「………俺達二人は、父上の、本当の、子ではないのだ。」


「な!? 何を、言って。」


「俺達兄弟は、父上の本当の息子ではないのだ。アロダントよ。」


何という事だ。なんという事実。


まさかの展開、ここへ来て、何やら想像出来ない事実を王子が語り始めたよ。

どうなってんの?



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