第73話 アリシア動乱 ⑫



  王都アリシア、王城の中の玉座の間にて、アロダント第二王子を発見、それと同時に闇の崇拝者のマグマもそこに居た。やれやれ、また黒ローブと遭遇しちまったな。


マグマがこちらへと歩き、進み出てくる。こちらもそれに呼応して歩み出る。


相手は魔法使い、一人で対処した方が被害が少なく済む。


玉座の間は広い、襲撃に備える為に、玉座に向かって縦に広く造られている。


 ダイサーク王子とニール、ドニは広場の中央辺りで待機して貰っている、さて、ここからだな。


マグマを見て、げんなりしつつも片手を上げ、元気に挨拶をする。


「よーう、マグマさーん、いつ以来かな? 二度と会いたくなかったよ。」


「一々雑兵の事など気に留めておくとでも思ったのか?」


マグマも返事をした。よしよし、乗って来た。


(まだ俺の距離じゃない。)


もう少し近づく。


「それにしてもマグマさん、あんた等闇の崇拝者が何だってまたこんな所に居る訳?」


「答える義理は無い。」


(まだ遠い。)


更に近づく。


「大方、この国の女神教を捨てさせる為に、何か色々動き回っていたんでしょ、どうせ。」


「女神教など必要ないのでな。」


(まだか、そろそろ相手の間合いだぞ!)


少しずつ進む。


「マグマさん、あんた等アレだろ、セコンド大陸で「布教活動」してたんじゃねーの? 何アワー大陸まで来てんの、今日日の若いモンに人気ねーの? 今更邪教なんて流行らないとおじさんなんかは思うけどね。」


「我が神を愚弄するのか? それは許せぬ。《サンドストーム》!」


(チ、もう魔法使いの間合いに入ったか! しかも無詠唱かよ!)


突然周りが砂の嵐に包まれ、ダメージを負う。


(ダメージ8! 残りHP16! まだいける!)


 スキル全属性耐性は効果を発揮している様だ。ダメージが一桁に収まっている、このまま進む。


「ほう、我が魔法を受けて立っているのか? タフな奴だな。」


「いやいや、これでも結構痛かったよマグマさん。おじさんちょっと怒っちゃったよ。」


(よし! 間合いに入った!)


 最初から飛ばしていく。熱血必中フルコン掛けのナイフを投擲、真っ直ぐマグマに向かい飛翔していく。


 だが、ガキンという音と共にナイフが弾かれ、パリンというガラスの割れる様な音がして、マグマが張ったであろう障壁を粉々に砕いただけだった。


(ちぃ、障壁を破っただけか!)


「ほーう、我が障壁を一撃で破るとはな、中々の威力よ。」


マグマにダメージは入っていない。


精神コマンドを二つ使った、残り使用回数はあと二回。慎重に使わねば。


「マグマさん、いいのかい? シールドを張り直さなくても?」


「フン、呪文を詠唱した途端に攻撃されては敵わんのでな。」


(チ、読まれてたか、呪文の詠唱と同時に「アサシンダガー」を放り込もうと思ってたのに。)


鞘からショートソードを引き抜き、構えながら前方に向かって駆け出す。


 スキル「スピード」LV4は普通の人よりもかなり速く走れる。直ぐに近接攻撃距離に入った。


「いくぜ!」


掛け声と共に「零距離スラッシュ」を叩き込む。攻撃はマグマを捉えた。


 だがまたしてもパリン、という音がしただけで、マグマに大してダメージを負わせていない。


「フン、もう「身代わりの護符」が砕けたか、一撃とはな、少々侮ったか?」


マグマの言葉と同時に、周りに炎の玉が幾つも現れ、こちらに向かって飛来した。


(今度は詠唱無しかよ!)


無詠唱で魔法を発動させたマグマは、その場を動かず、只立っているだけだった。


 一方こちらは炎の玉を避ける為、バックステップで後退しつつ、左右にサイドステップを織り交ぜながら躱す。


(少し掠った! ダメージ2、残りHP14! そろそろヤバいか!)


距離が開いた、仕切り直しだ。


(あの杖、只の杖じゃないな、おそらくマジックアイテムだろう、差し詰め「炎の杖」ってやつか。)


まだ「身代わりの護符」を持っているみたいだな、幾つあるのか解らん。


 兎に角、数を撃ってみるしか方法が思いつかない。クナイ、手裏剣、ナイフをありったけ乱れ撃つ。


「必中」の精神コマンドを使っているので、攻撃すれば必ず命中する。


 投擲攻撃は次々と命中していき、マグマの懐から「身代わりの護符」の砕けた欠片が、次々に床に落ちていた。


「マグマさん、あんた一体幾つ身代わりの護符を持ってんの? そういうのホント勘弁して欲しいよ。まったく。」


「チッ、」


乱れ撃ちを続けたお陰だろうか、急にマグマが回避行動をとり始めた。


 しかし、「必中」の為、マグマが避けた所に投擲武器が飛来し、ことごとくを被弾していた。


「チッ、どうなってる!? 何故こうも当たる!」


「おや? マグマさん、顔色が悪いよ、どったの?」


(よしよし、避け始めたという事は、そろそろ品切れという事か。)


構わず投擲し、連続的に投げる。


スキル「ストレングス」LV5なので、筋力だけなら相当な数値だ。


 そこらの戦士を軽く凌駕していると思う。その投擲攻撃なのだ、一撃でも貰ったら一溜りも無かろう。


マグマの足元には大量の破片が落ちていた、それだけ護符を持っていたという事だな。


ガラスの割れる音が次々と響いた。


「フン、もういい! ここまでだ!」


「何焦ってんのマグマさん、俺みたいな雑魚に何慎重になってんの? らしくないよ。」


ここで、マグマの指に嵌まっている指輪が光る。


(こいつ! ここまで来てテレポートリングで逃げる気か!?)


いいのか? このままで。このままこいつを逃がしていいのか? 否! よくない!


 闘気を練る、剣に宿らせるのを感じる、そして放つ。「遠距離スラッシュ」を、………だが。


「何だ? 何をするつもりだったのかは知らんが、チャンスだな!」


(ええーい! ミスった。遠距離スラッシュが発動しなかった!)


マグマはこの隙を見逃すはずもない。呪文を詠唱し始めた。


「炎よ! 火球となり、燃やせ! 《ファイヤーボール》」


マグマの眼前に火球が出現し、こちらに向かって勢いよく飛んできた。


避けられない! 範囲が広い! 当たる!


「ぐ、あつっ。」


火球は当たり、炎が辺りにまき散らされ、絨毯などを焦がす。炎ダメージを負った。


(ダメージ10!? 残りHP4!? まずい!)


精神コマンドの「熱血」と「不屈」を使う、保険の為だ。


「まだ倒れんか! ええーいしぶとい! もうよいわ!!」


マグマはテレポートリングが嵌まっている腕を上げ、この場から逃げようとしていた。


(させるか! させるもんかよ!!)


このままこいつを逃がしたら、きっと今後碌な事にならない。


「では、さらばだ。」


(こいつを逃がす訳にはいかないんだ! 師匠、力を貸してくれ。こいつを許す訳にはいかない!)


その時だった、急に肩の力が抜けた様に感じた。


 体の至る所の力の入れ方が、急にやんわりとしたものへとなり、ごく自然体になった。


そして、何の気なしに「普通」に剣を横に振っていた。


それだけだった。


それだけで、出来てしまった。


エリック師匠は言った、「己が成すべき事を見つけ出せ。」と。


だから!!


(今こそ放つ! 真のスラッシュを! いや………。)


 体の動きが、一挙手一投足が、自然や空気に逆らわず、まるで流れる様な動きへと変わっていくのを感じた。


「師匠直伝!!! 必殺・横一文字斬りいいいいいいいーーーーーーー!!!!!」


 目の前に真空の刃が出現、勢いよく飛翔していき、マグマへ向かって一直線に飛び、そして命中。


マグマの体をくの字に折り曲げながら、ノーバウンドで後方へと吹っ飛んでいった。


「ぐぼああああああぁぁぁぁぁーーーー………………。」


 マグマの体からガラスの割れる音が幾つも響き、その度に身代わりの護符の欠片が大量に床に落ち続けた。


最後はあっけなかった。


 身代わりの護符を全て砕ききった必殺技は、そのままマグマの体を上下に真っ二つにし、二つに裂いて、玉座の壁に亀裂を作って止まった。


ここに、マグマは倒れた。


しかし、ここで終わりでは無い事を知っていた。自分の周りに黒い炎が出現した。


暗黒魔法の「ダークブレイズ」だ。これを知っていた、遅延魔法ってやつだ。


「残念、不屈のお陰でダメージ1で済んでる。」


マグマの絶命と共に、黒い炎もまた、直ぐに掻き消えた。


辺りは静寂に包まれ、立っていたのは一人だけだった。


「勝負ありだ。………あばよ、マグマ。」


(やったぜ、…………師匠。)


ああーー、疲れたなあ、ホント。こういうのはもう勘弁して欲しいぜ。

まったく。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る