第69話 アリシア動乱 ⑧



 腰に提げてあるショートソードを鞘から抜き、腰だめに構える。


攻撃に備えねば。こっちがやられる。


見たところ、こいつ等はバラけて行動している、まったく統制が執れていない。


 軍隊って訳じゃなさそうだが、ナイフの投擲を剣で弾いたプロ並みの奴も居る。油断ならん。


ジリジリと男達が距離を詰めて来ている、こっちも少しずつ後退する。


急がねばサキ隊長を助けられん。時間は掛けられん。


後ろからドニの声が掛かった。


「ジャズ! ニール! すまんが俺はこの襲撃計画をギルドのギルマスに知らせにゃならねえ! この場を離脱するがいいか! 今から急げばまだ間に合うかもしれねえ!」


そうだな、知らせに行くべきだ。


「解った! 行け! ニールも一緒に行け! ドニに協力してやってこい!」


ニールは背中のバスタードソードを構えながら、こっちを向き声を上げた。


「何言ってんだジャズ! 隊長はどうすんだよ! お前だって!」


男達との距離を測りながら、ニールに答える。


「隊長は俺が何とかするから! お前は行ってくれ、俺の事は心配するな。上手くやるさ! いいから行けって!」


「け、けどよ!」


はっきりと言う。


「ニール、悪いがお前は足手まといだ。お前を守りながらじゃ戦えん。この場を離脱してくれ。」


「……ジャズ……解った。」


ニールは渋々といった様子ではあったが、言う事を聞いてくれる様だ。


「おいニール! さっきのこいつ等の話聞いてたな! サナリー第二王女が狙われている! いいか、この事を女神神殿に詰めている聖騎士に伝えろ! いいか! 解ってるなニール! 頼るからな! 無茶だけはするなよ!」


「お、おう! 頼られた! 任せろ! お前も死ぬんじゃねえぞジャズ!」


ニールとドニがこの場を離れようと後ろを向き、全速力で離脱していく。


 その間に割って入る様に、男達の間に自分の体を移動させる。この場はやらせん!


 男の一人が「チッ、逃したか」と舌打ちしつつ、こちらを半包囲しながら陣形を整えている。


 しかし、まったく統制が執れていないので、男達はバラバラに行動していて、まったく陣形の意味を成していない。


(こいつ等、本当にプロの集まりか? 兵隊って訳じゃなさそうだが、お揃いの黒い鎧を着ているからてっきり軍属かと思ったが。)


さてと、強そうなのが一人居る事は解っている。それ以外は解らん。


ニール達はもう見えなくなっている、よし、上手く離脱出来た様だ。


盗賊ギルドや傭兵ギルドの中に、手練てだれが居る事を期待するしかない。


目の前に集中する、武器を構え、相手との距離を一定に保つ。


(五対一、圧倒的に不利、おまけに手練れが居る、完全に分の悪い賭けだ。だが。)


 ショップコマンドを開き、魔法のスクロールを五つ購入、すぐさまアイテムボックスから取り出し、「使用」する。


(頼むぞ!)


 魔法とは本来、一回につき一度までしか発動しない。だが、巻物スクロールならば一度に複数の使用が可能となる。


こういった状況では、寧ろアイテム戦が有利に事を運ぶ事もある。


 目の前に五つ、空中にスクロールが現れて、蝋封が剥がれ落ち、スクロールが開き、そして一瞬のうちに燃え尽きる。


(どうなる!)


 すると、目の前に魔法の矢「マジックアロー」の形をした物が五つ形成され、男達に向かって飛翔していく。


よし、上手くいった。「マジックアローの巻物」はその効果を発動した。


「いっけえええーーー!!」


 勢いよく飛んでいった魔法の矢は、五人の男達にそれぞれ命中、五人のうち三人の体を貫き、倒す。


(三つ、あと二つ。)


 三人は倒したが、残りの二人はダメージを負った位だ。まだ倒れない、手練れも立っているが、もう一人は虫の息だ。


 ホルダーからナイフを引き抜き、弱っている奴に向け投擲、「フルパワーコンタクト」は忘れない。


 ナイフが飛び、弱っている男の喉にグサリと刺さった、そのまま男は後ろへ倒れ、絶命した。


(四つ、あと一つ。)


やはり手練れが残ったか、油断せず距離を測る。


こっちの間合いではあるが、むこうもそれは同じだと思う。


よっしゃ、ここらで一丁、稼ぐか。


「なあ、あんた等何もんだ? どう見ても只の兵隊さんには見えんが、お揃いの鎧も着てるし。あんた等本当にアロダント第二王子の手の者か?」


(さて、乗って来るかな?)


男が答える。


「だったらどうだと言うのだ。」


ふむ、やはりアロダント第二王子の私兵か何かか。


大方、殺人などの重犯罪者達を集めて、戦力に仕立て上げているんだろうな。


だから統制が執れていなかった訳か、納得だ。


「あんた等、犯罪者だろ、こんな人を簡単に殺すとか、普通じゃねえよな。」


「無駄話はそこまでだ、いくぞ。」


 ふむ、大体の事は解った、義勇軍の任務で色々と動かにゃならなさそうだが、さて、ここで精神コマンドを使うのは得策ではない。


この後も戦いは続くかもしれない。経戦力は残しておいた方がよさそうだ。


その時だった、空き地の外側から大声で声を出し、こちらにまで聞こえてきた。


「そこで何をしているのです!!」


 声のした方を向くと、そこには見知った人達が居た。マーテルさんと、それから第二王女のサナリー様だった。


(いかん! こいつ等の狙いは第二王女だ!)


「いけませんサナリー様! こいつ等の狙いは貴女です! お下がりを!」


 声と同時だった、手練れの男はこちらを無視して王女の方へ駆け出して、剣を掲げながら一直線に走り込んだ。


「サナリー様! お下がりを!」


 王女の前に立ち塞がる様に、マーテルさんが前に出た。抜刀はしていない、その身を呈して王女を守るつもりだ。


「させるかよおおおおーーーー!!」


無意識だった。


剣を居合抜きの要領で振り抜き、横一閃していた。


闘気を纏わせていたかどうかは解らない、只、無意識だった。


ショートソードを振り抜いた直後、剣の軌道に沿うように真空の刃が発現した。


男目掛け音速の速さで飛び、男の背中に直撃、その瞬間、男は真っ二つになった。


(出来た、出来てしまった。「遠距離スラッシュ」が、今の感覚を忘れない様にしなくては。)


この場にはもう、敵は居なかった。


「そうだ! サキ隊長が!」


急ぎ隊長の元へと駆け寄る。傍まで来て、様子を確かめる。


「………ハア、………ハア、」


(良かった! まだ息はある! これなら!)


呼吸は浅いが、四の五の言ってられない。


 自分のホルダーから回復薬を取り出し、蓋を開けサキ隊長の刺された傷口に全て振りかける。


「う、………うう………。」


(よし! 傷口が少しずつ塞がってきた。血も止まった。)


だが、回復薬一本だけでは足らない。


サキ隊長のスカートのポケットに手を突っ込み、弄りながら隊長の回復薬を探す。


あった! これだ!


急ぎ取り出し、蓋を開け、サキ隊長の口元に飲み口をあてがい、飲ませる。


「隊長、これを飲んで下さい。回復薬です。さあ、飲んで。」


「………う………ゴホッ………。」


「吐き出さないで! しっかり飲んで!」


 サキ隊長に回復薬を少しずつ飲ませていく、すると、サキ隊長の体がうっすらと光りだして、みるみるうちに傷口が塞がり、呼吸も浅いものから深いものへと変化してきた。


「よし、もう大丈夫そうだな、ふう~~何とかなったか。」


サキ隊長はまだ目を覚まさないが、このまま休ませておけば問題なさそうだった。


丁度そこへ、マーテルさんとサナリー王女がこちらへとやって来た。


「貴方は、ジャズさんではありませんか? この様な場所で何をなさっていたのですか?」


マーテルさんが聞くと、サナリー王女もこちらの事を心配そうに見つめていた。


「貴方は確か、修道院での時に、ジャズ、と、言いましたね。」


(な、なんと、俺みたいな一般兵の事を覚えておいでになられていたとは、この方は良き王女様だな。)


聞かれたので、やんわりと答える。


「これは大変失礼を致しました、自分は確かにジャズと申します。実は、この場にて、アロダント第二王子の私兵と戦いになりました。そして、その者達の真の目的は、第二王女サナリー様のお命だったのです。」


 それを聞いた二人は、顔を見合わせ、嘆息しつつ、何か、解っている様な態度で答えた。


「やはりアロダントの仕業でしたか。わたくしが狙われたのも、おそらくもう用済みという事なのでしょうね。」


ふーむ、サナリー様は何か解っていらっしゃるらしいな。


「サナリー様、このままでは第二王子の専横を許す事になります。自分は納得出来ません。」


「そうですね、わたくしももう、黙っている訳にはいかなくなりました、何か策を講じようと思います。それと、先程はわたくし達を助けて頂き、感謝致します。」


「いえ、勿体なきお言葉。」


そうか、遂にサナリー様が動かれるか。だったら。


「マーテル殿、申し訳ありませんが、自分は仲間の事が心配なので、この場を離れ探しに行こうと思います。サキ隊長の事をお任せしてもよろしいでしょうか?」


「はい、解りました、サキ少尉は私が見ておきます。ジャズさんは急いで仲間を探して来て下さい。」


「ありがとうございます。では、自分はこれで、サナリー様、失礼致します。」


さてと、兎に角まずは、ニールの奴とドニの事を探さないとな。


この場はお二人にお任せしよう。


ニール達を探しに、マーテルさん達の場を後にして、スラム街の中を駆け出した。








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