第68話 アリシア動乱 ⑦
王都アリシア 女神神殿――――
綺麗に掃除が行き届いた部屋に、白く
一人はアリシア王国、第二王女サナリー・A・アリシア、今は王位継承権を放棄して、ここ、女神神殿に務める一人のシスターとして、日々女神教や人々の為に勤しんでいた。
そしてもう一人は、セコンド大陸中央部に位置する「エストール大神殿」に本部がある、女神教会の最大戦力、女性ばかりで構成された聖騎士隊の一つ、「シャイニングナイツ」の戦乙女隊所属、ペガサスナイトのマーテルである。
二人は部屋の中で静かに過ごし、会話をしていた。
「サナリー様、朝のお勤めお疲れ様でした。」
「この様な事、シスターとして当然の務めですよ、マーテル。朝のお祈りもまた、心穏やかに過ごす為でもありますからね、わたくしの場合。」
「王城から出られて、サナリー様は変わられましたね。何だか活き活きとしておいでです。」
「フフ、そうね、自分でもそう思うわ。」
二人はとても仲が良く見えるが、マーテルはサナリーを護衛する任務を帯びていた。
「アリシア王国に邪悪な気配あり」という女神から巫女への啓示により、マーテルはセコンド大陸から飛び立ち、ここ、アワー大陸へと渡った。そして現在に至る。
「貴女がここへ来て、わたくしの護衛をして下さるのは、とても有難く思っています。王城に居た頃のわたくしは、何時、兄のアロダントに寝首をかかれるかと、眠る事さえ難しかったのです。」
「………サナリー様、心中お察しします。王族というのも大変なのだと、私は思い至りました。私に出来る事があれば、仰って下さい。」
「ありがとう、マーテル……ですけど………。」
サナリーは思う、このままこうして、何事も無く、ただ平穏な生活が送れれば、と。
しかし、こうも思う、アロダントに命を狙われているという事に、不安や恐怖を感じて王城を飛び出したが、シスターとしての自分の生き方もいいものだと。
王城にアロダントが居る以上、戻るつもりも無かった。
「アロダントがいなければ………。」
「サナリー様、本当に第二王子がお嫌いなのですね。」
「当たり前です、兄とは思っていません。話しているだけでも心がかき乱されます。」
「………サナリー様、ダイサーク様がいらっしゃいます、第二王子も好き勝手は出来ないでしょう。ダイサーク様が次の国王です。ご安心を、父君の事は残念です。良き王だったと私も思います。」
「ダイサークお兄様はきっと、良き王になられます。わたくしはそう思いますわ。アロダントが王にならず、ほっとしています。」
「私も、第二王子と話していると、心が重苦しくなります。第二王子は私も好きになれません。」
「フフ、貴女もそう思うわよね、わたくしも気疲れしてしまいます。」
二人にとって、アロダント第二王子は不評だった。ダイサーク第一王子は好感が持てるようだ。
「あ、いけない。そろそろ時間ですね、わたくしは行かなければ。」
「サナリー様、どちらへ。」
「スラム街です、スラムの人々に炊き出しをする事になっています。わたくしもお手伝いを頼まれておりました。」
「私も同行致します。」
サナリーは少し思った、マーテルは良い人だと、だが、彼女は「シャイニングナイツ」なのだ。
その事が、サナリーは申し訳なく思っていた。
「マーテル、貴女はシャイニングナイツ、本来ならば力持たぬ人々の剣であり、人々を守る盾なのです。わたくし一人を護衛し、本来の貴女の務めを狭くしている自分に、心苦しく思っています。」
「………サナリー様、その様な事は仰らないで下さい。他の任務が来るまでは、サナリー様の護衛任務、このマーテル、身命を賭して邁進していきます。どうか、それまではお傍に控えさせて頂きます。」
「………ありがとう、マーテル。さあ、参りましょう。皆さんが待っていますわ。」
「はい。」
二人は今日も、人々の笑顔を見たさに、街へと出かけるのであった。それは、小雨が降る午後の事であった。
王都アリシア スラム街――――
モー商会から頼まれた今回の護衛任務も、もう目的地に到着した。
後は積み荷を、アロダント第二王子の使いの受取人に渡すだけとなった。だが。
「本当にこいつ等でしょうか? 隊長。」
「ああ、間違いないと思うが、よし、私が対応する、このまま進め、ニール二等兵。」
「はい。」
ニールの操縦で、荷馬車はまた進みだした。空き地の中へ入る。
目の前の同じ黒い鎧を着た男達は、それを眺め、ただ突っ立っていた。
(不気味だな。)
荷馬車は空き地の中央辺りへと移動し、そこで止まる。サキ隊長が相手へ向け、声を掛ける。
「モー商会からの使いで参った、アリシア軍の者だ。アロダント第二王子の使いの方で間違いないか?」
サキ隊長が聞くと、男の一人が前へ出て来て「そうだ」と、一言返事をした。
どうやら受取人はこいつ等らしい、どう見ても只の一般人には見えない。
20人と言う人数も、ほぼどこぞの中隊規模だな。
アロダント第二王子の使いという事は、こいつ等アロダントの私設部隊か何かか?
使いの男が、こちらに向かって声を掛けた。
「随分遅かったな、まあいい。」
そう言って、男は向き直り、他の私兵っぽい連中に命令した。
「よし、計画通りだ。全員荷物を受け取り、それぞれ行動を開始せよ。」
他の者達は無言で頷き、一人一人が進み出て荷馬車の積み荷を降ろし、蓋を開けて中を確認した。
「間違いないな、これだ。」
ここで、サキ隊長が積み荷を見て、一言言った。
「これは? 武器か? 王都にも武器屋ぐらいはあるだろうに、何故わざわざ他の町から輸送したのだ?」
男は答える。
「なに、ちょっと色々と事情があってな。」
会話はそこで途切れた。こいつ等、何か怪しいな。
アロダント第二王子の私兵っぽい連中は、それぞれ積み荷の武器を手に持ち、方々へ散っていった。
この場に残っているのは5人だ。ちょっと小声で隊長に言ってみるか。
「隊長、こいつ等何にこの武器を使うんでしょうか?」
隊長も小声で返事をする。
「解らん、少し聞いてみるか。」
「あ、俺も付いて行きます。」
二人で受取人の近くまで行き、サキ隊長が目的を尋ねた。
「貴方方は、この武器を何に使うつもりですか?」
この問いに、男はすんなり答えた。
「なに、ちょっとスラムにある盗賊ギルドと傭兵ギルドに攻撃を仕掛け、騒ぎを起こして混乱に乗じ、サナリー第二王女を始末するんだよ。この街の武器屋で買ったら足が付くんだ、スラムの連中がやった様に見せかけられんだろう?」
………………はい?
(こいつ等!? 極秘作戦っぽい事、部外者の俺達に喋りやがった! こっちを生かして帰す気ねえじゃん! 殺す気満々じゃん!)
「すまん、もう一度言ってくれ、よく聞こえなかった。」
「そう言えば、代金がまだだったな、今払ってやる。」
「何を言っている、代金ならモー商会から既に受け取って………。」
サキ隊長が言い終わる前だった、隊長の背中から剣が生えてきた様に見えた。
(いや!? 違う! 刺された!)
「………ガハッ………ゲハッ………。」
隊長が咳込んだ。次に、ガクリと膝から崩れ落ち、そのままパタリと倒れた。
隊長の脇腹から血が滴り、水たまりが赤く染まった。
「隊長おおおおおおおおおーーーーー!?」
サキ隊長が刺された、こいつ等、やっぱり「悪」のアロダントの手の者か!
「何だ!? どうなってるジャズ!」
「ニール! こいつ等敵だ! 備えろ! ドニは下がれ!」
「敵!? 敵ってなんだよ! 何で隊長が刺されて倒れんだよ!?」
ウェポンホルダーからナイフを抜き、すぐさま投擲、隊長を刺した男目掛けてナイフが飛ぶ。
だが、ガキッ、という音と共に、ナイフは男の手に持つ剣の腹に当たる様に軌道を合わせ、剣を使われて弾かれた。
(何!? 防がれた!)
こいつ等、只もんじゃねえ。
「ニール! 気をつけろ! こいつ等プロだ! 今までの奴等じゃない!」
突然の事態に、ただ、対応するしか無かった。
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