第64話 アリシア動乱 ③



  王都アリシア  王城  アロダントの私室――――



 この部屋には、実に様々な「道具」が飾られている。そのどれもが、拷問などで使われる物である。


部屋の中には女性が一人と、部屋の主、アロダント第二王子が居た。


女性はロープで手足を縛られ、吊るされている。


女性は気を失っているのか、ダラリと倒れ掛かっている。


しかし、ロープで吊るされている為、倒れる事は叶わない。


「ハハハ、どうした! 泣け! 喚け! 泣かんか! このっ! このっ!」


アロダントは女性に鞭を振るい、連続的に女性に悲鳴を上げさせている様だ。


しかし、女性はいつしか、悲鳴や声を発しなくなっていた。


「ハア、ハア、ハア、………フンッ、何だ、もう「壊れた」のか。やはり「茨の鞭」は駄目だな。直ぐに悲鳴を聞けるが、直ぐに「壊れる」。」


 女性は既に事切れていた、アロダントは「フン」と鼻を鳴らし、「茨の鞭」をコレクションをしている棚へと置いた。


その棚には、色々な鞭が飾られていた。


「荒れておりますな、殿下。」


 アロダントの私室には、他にもう一人居たようだ。カーテンの裏に隠れて待機していた様である。


「マグマか?」


マグマと呼ばれた男は、黒いローブに身を包み、手には一つの杖が握られていた。


マグマはカーテンの裏からヌッ、と出て来て、アロダントの前に姿を現した。


「殿下、降臨祭の話はどうなりましたか?」


「……ダイサークの奴、祭りを中止するつもりは無いらしい。」


 アロダントはマグマに言い、テーブルに置いてあるピッチャーから水をコップへ注ぎ、水を飲んで、乾いた喉を潤した。


「では、報告を聞こうか。」


アロダントはソファーに腰掛け、マグマからの話を聞こうと、マグマに向き直った。


マグマはゆっくりとした口調で話し始めた。


「はい、計画は予定通り進んでおります、既に我が配下の者が王都中に配置しております。」


「………ダークガード、だったか? 当てになるのか? その者共は?」


「はい、捨て駒にするには丁度良いかと。」


「………ええい! 忌々しい、降臨祭など! 女神教の連中を調子づかせて邪魔なだけだというに!」


「その通りですな、女神教など、この国には必要ありませぬ。」


「そうだな、お前の言う通りだな。」


アロダントもマグマも、降臨祭については快く思っていない様だった。


「やはり、第一王子を何とかせねばなりませんな。」


「ふんっ、ダイサークか、確かに目の上のたん瘤だな。障害以外の何者でも無い!」


「………たん瘤程度で済めばよいですが、「ナンバーズ」をお使いになられては如何ですかな?」


「ナンバーズか、確か、お前の「所」の実働部隊、だったか? 使えるのか?」


「………道具としてなら、申し分ないかと、いずれも一騎当千の者達でございます。」


「………今はまだ、その時期ではない。ダイサークもサナリーも利用価値がある。我が私兵に妹のサナリーを見張らせている所だ。サナリー自ら動く気配は無い。だが、周りの連中がもしサナリーを担ぎ上げれば、その者達共々始末するがな。」


「王女にはシャイニングナイツが着いています、事はそう上手く運ばないかと。」


「解っている! みなまで言うな! ええーい! 何故こうも予定通りに行かんのだ!?」


アロダントは苛立ち、コップの水を吊るされた女性に掛けた。女性に反応は無い。


「丁度良い、「ナンバーズ」の中で誰が直ぐに使える?」


「こちらに控えております、ナンバー「エイト」がおりますが?」


「なら、エイトに命ずる。この「ゴミ」を片付けよ。」


 アロダントがそう言うと、マグマの後ろの影からスッと現れ、前に出てきた者が一人、かしずく様に頭を下げながら、前へと出てきた。


「殿下、「ナンバーズ」の使い方が間違っております。」


そう言いながら、マグマは杖の先端を女性に向け、「やれ」と一言言った。


 その刹那、「エイト」と呼ばれた者が、颯爽と動き、女性の元まで来た途端、女性の体は横に真っ二つに切り裂かれた。


「こう使うのです、殿下。」


「ふん、まあ、いいだろう。他の者に「ゴミ」を掃除させる。」


「所で、何ですかな? このゴミは。」


「なあに、ただの口封じだよ。父上に毒を盛った事へのな。」


「老衰ではなかったのですかな?」


アロダントはにやけ顔になり、平坦な声で語った。


「父上に毒を盛る様、私がこのゴミに命じたのだ、鞭を打ち、「茨の鞭」を見せて、「更に痛い目にあいたくなければ、言う事を聞け」とな。茨の鞭を見せれば誰でも直ぐに言う事を聞く様になる。」


「左様でしたか、では、このゴミはもう用済みという事ですな。」


「そうだ、もう用は無い。片付けさせる。」


マグマは今一度、アロダントに聞いた。


「ダイサークは如何致します?」


「今はまだ良い、だが、街に潜伏しておる者共は、祭りと同時に事を起こす様、命じてある。もう間も無くだ。それまでは貴様も静かにしておれば良い。」


「解りました、そのように致します。」


マグマはそれだけ言い、また姿をくらました。


アロダントは部屋に一人、ソファーに座りながら、顔を歪めて笑った。


「もう間も無くだ、父上同様、ダイサークも、私の前から居なくなる。そうなれば、王は私だ。ふふ、ふふふ。」


アロダントの部屋には、薄気味の悪い笑い声が、こだましていた。



  クラッチの町――――



 ニールを探して、兵舎へとやって来たのだが、何処にもニールの姿は無かった。


「あいつ、何処いったんだ?」


しばらくの間、待っているとニールがやって来た。


何か顔がにやけている様だ。何かイイ事でもあったのかな?


「おいニール、お前の荷物俺のアイテムボックスに入れておくから、用意してくれ。」


「へへ、へへへ。」


ニールは笑っていた。何だよ、何笑ってんだ? ちょっと聞いてみるか。


「おいニール、聞いてるのか? お前の荷物………。」


「おお! ジャズ! ここだったか!」


ニールはやたらと元気な様子だった。さてはこいつ、リップとうまい事やったのか?


「おいニール、何顔がニヤついてるんだ? 何かいい事でもあったのか?」


聞くと、ニールは顔を破顔して、勢いよくこちらに近づき、声を上げて話し始めた。


「おいジャズ、聞いてくれよ。リップの奴がさ、俺の告白を聞いて、顔を赤らめたんだ。それでさ、俺が指輪を渡そうとしたら、その指輪をふんだくられた。んで、こう言ったんだ。」


「お、そうか、とうとうやったな、ニール。」


「ああ! 思い切って言ってみるもんだな。そんでさ、リップの奴、こう言ったんだ。「あたしを幸せにしなかったら、不幸にしてやる」、って言ってた。」


「はは、そうか、リップらしいな。きっと照れ隠しだよ。」


「うーん、けどさ、幸せなのか不幸なのか、今一ピンと来ないんだよな。なあ、リップは指輪を受け取ったんだよな、間違いないよな?」


「ふんだくった、って事は、多分そうなんじゃないのか? 受け取ったんだよ。指輪を、やったなニール。これでお前はもう、一人じゃないぞ。」


「………ああ、そうなんだよな、俺、もう一人じゃないんだよな。」


「おいニール、お前幸せになれよ、勝手に死ぬなよ、いいな。」


「お、おう、解ってるぜ。」


そうか、ニールとリップがなあ、二人共お似合いのカップルだと思うよ。


よかったな、ニール。


そうだ、ニールに何かお祝いの品でもくれてやろうかな。何がいいかな? 


ショップコマンドを開き、何かないかと商品をスクロールさせる。


お、あったあった、こういうのがニールにいいかもしれんな。


 ショップポイントは50ポイントか、ちょっと高いが、まあ祝いの品だ。奮発してやるか。


 ショップコマンドを操作して、アイテムを購入、アイテムボックスに送られてきている事を確認し、アイテムを取り出す。


そして、ニールの方へ向け、アイテムを差し出した。


「おいニール、こいつをお前にやる。」


「おいおい、ジャズ、俺は野郎から指輪を貰う趣味はねーぞ?」


「ちげーよ、こいつはマジックアイテムだ。「大剣ベルト」と言ってな、誰でも大剣を扱える様になるベルトだ。こいつをお前にくれてやるよ。持っていけ。」


「ジャズ、有難いが、いいのか? そんなにポンポン人にマジックアイテムをあげて、お前の財布事情が心配だよ。こっちは。」


「いいから、貰っとけって、俺の酒代くらいは残してあるからよ。」


ニールは申し訳なさそうにしながらも、渡したアイテムを受け取った。


そして、早速「大剣ベルト」を身に着けた。


「ありがとよジャズ、恩に着るぜ。」


まあ、これでニールの奴も、少しはまともに大剣が扱える様になってると思う。


やれやれ、あとはこいつを生きてこの町に連れ帰ってやるという事だな。


まったくニールの奴、フラグ立てやがって。知らんぞ。





























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