第63話 アリシア動乱 ②



  王都アリシア  王城――――



「兄上! 兄上はどこだ!」


 この国の第二王子、アロダントは玉座の間への扉をバタンと勢いよく開け、ズカズカと歩幅を開けてやって来る。


どうやらこの国の第一王子である、ダイサークを探している様だった。


「何だ騒々しい、私は今感慨にふけっておるのだぞ。父上の座っていた玉座には、今は誰も座ってはおらん、寂しいとは思わんか?」


ダイサークは自分の父親が亡くなった事に、悲しみを覚えている様。


「感傷に浸るなど、後でもできます。それよりも! 何故降臨祭をやるのですか! 父上が亡くなったのですぞ! この国の王が!」


アロダントは苛立ちを覚え、ダイサークに意見していた。


「アロダントよ、祭りは行う。国民皆の者が楽しみにしておったのだ。中止する事は無い、祭りはすべきだ。父上も湿っぽいのは好きではなかった。酒でも飲んで、踊って、騒いで、歌って、そうして送り出した方が、きっと父上も喜ばれるだろう。」


「………不謹慎な!!」


アロダントはダイサークの顔を見ずに、一人独白の様に返事をした。


 ダイサークは「ふう~~」と溜息を付き、アロダントから顔を逸らし、再び玉座を見つめた。


「兄上はただ、酒を飲みたいだけではないのですか! スラムの薄汚い下賤の輩などと一緒になって、酒を毎晩の様に飲み騒ぐだけ、兄上は王族としての自覚や品位が欠けています! いつか後ろから刺されますぞ!」


アロダントは苛立ち、ダイサークのやる事成す事全てが気に入らない様だった。


「アロダントよ、民を愚弄する事は許さん。民あっての国なのだ。王族や貴族だけでは国は立ち行かなくなるぞ。」


「違いますな、兄上。国あっての民です。民など、貴族達の足を引っ張るぐらいしか取り柄が無いではないですか。スラムに住む者など、寄生虫以外の何物でもありませんな。」


「………言葉が過ぎるぞ………。」


「フンッ。」


そして、二人の間にしばし沈黙が流れる。


「兎に角、葬儀は行いますぞ兄上! 国葬をして、国の内外へ向けて知らせねばなりませんからな! 政治は難しいのです、兄上。」


まつりごとなど、宰相や他の文官に任せれば良いではないか。我等は国の顔としての役割を担っておれば良い。」


「甘い! 甘いですぞ兄上! いつこの状況下で隣国が攻めて来てもおかしくは無いのですぞ! 備えねばならないのです! 国葬は行いますぞ!」


「好きにせい、父上を弔うという事では、お前との意見は一致したな。」


 アロダントは足元をダンッと踏み、ダイサークに言ってのけ、「話は終わりだ」と言わんばかりに踵を返して、玉座の間を出ようとした。


「待て、アロダントよ。」


「………何か?」


アロダントは呼び止めらっれ、足を止め振り返る。


「………なあ、アロダント、昔の様にはいかんのか?」


「どういう意味です?」


ダイサークは物思いに耽る様子で、語り始めた。


「昔は楽しかったよな、姉上が居て、妹のサナリーが生まれて、お前は俺の後をテクテク付いて来て、母上も生きておいでになって、父上は相変わらずの素っ頓狂な性格で、………なあ、アロダントいつからだ? いつからお前は変わってしまったのだ?」


「………私は私ですぞ、兄上。何も変わりませぬ。」


「お前は俺に意見や反対ばかり、何が気に入らんのだ?」


「兄上こそ、スラムに入り浸って何が楽しいのですかな?」


「お前の周りに居る、良からぬ者共の存在は、この王城に出入りするにはあまり相応しくないようだがな。」


「何の事ですかな?」


「………知っている、闇の崇拝者であろう。もうあのような連中と繋がるのはやめよ。アロダント、お前の為なのだぞ。」


「………。」


 アロダントは無言になり、返事も無く後ろを振り向き、大股で歩いて玉座の間を退出していった。


「ふう~~。」


ダイサークは一人、取り残された様な感覚を覚え、溜息を付いた。


「………アロダントよ、政治は難しいとお前は言うが、難しくしておるのはお前なのだぞ………。」



 クラッチの町――――



 コジマ司令に呼び出されて、司令室の前までやって来た。扉の前でノックをして返事を待つ。


「入りたまえ。」


「は! ジャズ上等兵、参りました。失礼致します。」


 扉を開け、入室し、敬礼、「お呼びでしょうか?」と言い、「休め」と一言コジマ司令が言ったので楽な姿勢を取る。


「やあ、来たね。ジャズ君、早速で悪いが、君に義勇軍の任務がある。伝えるから頭に入れておいてくれたまえ。」


コジマ司令は、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「義勇軍の任務、で、ありますか?」


「うむ、ジャズ君、君にやって貰いたいのは、王都へと赴き、第二王子アロダントの動向の調査と、身辺の捜査、それと、この国での何かの不測の事態に備える事、以上となる。何か質問はあるかね?」


ふーむ、第二王子アロダントの素行調査ってやつか。何かあるのかな?


「司令、何か問題があるのでしょうか?」


 こちらが聞くと、コジマ司令は立ち上がり、窓の方へゆっくりと移動し、窓の外を眺めながら答えた。


「うーん、実はね、「アロダント王子に不審な動きあり」という報告を受けていてね。そこで君に頼もうかと思ったのだよ。ジャズ君、君は義勇軍のメンバーだからね、頼らせて貰うよ。」


「はい、あのう、具体的には何をすればよろしいのでしょうか?」


「君の思う通りに行動すればいいと思いますよ、丁度君の小隊に任務があるじゃないですか、そのついでに義勇軍の任務を遂行してくれれば、一向に構いませんよ。」


ふーむ、身辺調査といっても色々とあるからなあ、どこまでやっていいものか?


「アロダント第二王子の事は、自分はあまり詳しくは無いのですが、調査をしなければならない所まできている相手、という事でしょうか?」


「うーん、実はね、あるのだよ。根拠が。」


「何の? ですか。」


「………ダークガードと思わしき人物との接触が、だよ。」


な、なんと。この国の王族が? そんな繋がりがあるのか? 


そりゃいかんじゃないか。義勇軍の任務って事は、世界を脅かしかねない案件。


という事で間違いないだろうな、きっと。


………もしくは、この国の不安材料に他ならない案件とかかな。


「引き受けて貰えるかね? ジャズ君。」


「はい、解りました。その任務、やってみます。ただ、自分に出来そうな事をやってみようと思います。」


「うん、君はそれでいいと思うよ。義勇軍としての任務。しっかりとやって来て下さい。こちらからは以上になります。」


「は! では、自分はここで失礼致します。」


「気を付けたまえ、相手は水面下で事を起こそうと企む者です。ジャズ君、くれぐれも頼みましたよ。」


「はい。」


司令室を後にして、扉の前でしばし佇む。


(ふーむ、アロダント王子の調査か、確か、性格が歪んでいるって話だったよな。それとなく調べるのなら、注意しといた方がいいな、こりゃ。)


 基地の外へ出る前に、一度装備課へ行き、武器を申請する。


対応してくれるのは「おやっさん」だ。


「おやっさん、いつもの武器を用意して下さい。」


「おう、ジャズ、いつものって事は、ショートソードだな。武器だけでいいのか?」


「あ、それと外套がいとうも用意してほしいのですが。」


「おう、まあ雨が降っているからな、そういえばさっき、ニールが来てたぞ。あいつ相変わらず大剣を申請してやがったがな、はっはっは。」


そうか、もうサキ少尉のブリーフィングは終わったのか。


後でニールに任務内容を詳しく聞こう。


おやっさんから武器と外套を受け取り、身に着ける。


よし、いつものショートソードだ。こいつは扱い易いんだよな。


やっぱり使い慣れている武器じゃないとしっくりこない。


「どうも、おやっさん。」


「おう、しっかりな。」


おやっさんに背中を押される様に、言葉を掛けて貰い、外へと出る。


まずはニールを探さなくては、多分兵舎に居ると思うが。


雨はまだ、止む気配がなかった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る