第62話 アリシア動乱 ①
アリシア王国 王都アリシア 王城にて――――
それは、三日前の事だった。
「陛下、お部屋のお掃除を致します。」
一人のメイドさんが王様の寝室の扉の前に立ち、扉をノックして返事を待っていた。
「陛下?」
しかし、いつまで経っても王様からの返事はありませんでした。
不審に思ったメイドさんは、思い切って扉を開け、王様の寝室に足を踏み入れた。
「失礼致します陛下、寝室のお掃除とシーツのお取替えを致します。さあさあ、起きて下さい、早く起きないとまた宰相様に叱られてしまいますよ。」
しかし、王様からの返事はありません、また、起きてくる様子もありません。
「陛下?」
メイドさんは「まさか」と漏らし、同時に「もしや!?」と思ったよう。
「陛下! ちょっと失礼を致します!」
メイドさんは慌てながらも、自分の手をベッドで寝ている王様の口元にかざし、呼吸を確かめた。
「た!? 大変! 息をしていらっしゃらない!? 誰か!? 誰かあーーーーー。」
その日、王都アリシアに激震が走り抜けた。
アリシア王国国王、トーフ・A・アリシアが崩御されていたのである。
この知らせは、早馬を使って王国中に広まったのだった。
現在 クラッチの町――――
今日は雨が降っていた。
「止まないな、雨。」
「ああ。」
兵舎の中で、武器の手入れをしている。
自分の扱う武器の手入れを自分でするのが、今日のやる事だ。
ニールと二人、それぞれ自分の使っている武器を、油を布に染み込ませ、丁寧に磨いていく。
中々ピカピカに磨き上げている。兵舎の中はそんな油の匂いで充満していた。
「祭り、中止かな………。」
「雨が降ったぐらいでか?」
「………解ってる癖に。」
ニールと二人、無言で、只、武器の手入れをする。
会話は無い、兵舎の中に居る他の兵士達も、黙々と作業をしていた。
暗く沈んだ重たい空気が、辺りに漂っていた。
「………王様………死んじゃったな。」
「………ああ、三日前らしいな。」
王様が亡くなっていたという知らせが届いたのが、昨日、そして、一般兵にその情報が伝わったのが今日だった。
王様は国民に人気があったのか、町の中は暗く沈んだ空気に包まれていて、降臨祭の祭りの準備作業も、一旦中止している。
まあ、そうだろうな。普通、一国の王が亡くなった場合、まず間違いなく祭りなどの催しは、自粛、あるいは中止になるのが世間一般だろう。
(祭り、楽しみにしてたけどな………。)
何だか、町全体が重たい空気の様に感じられた。
皆に慕われていたんだな、王様は。
「ところで話は変わるんだがさあ。」
ここでニールは、暗い空気に耐えかねたのか、明るく振舞いながら話しかけてきた。
この空気は苦手なので、ニールの話しに乗っかる事にした。
「何だよ? ニール。」
ニールは笑顔になり、活き活きと語りだした。
「降臨祭の言い伝えって知ってるか? ジャズ。」
「言い伝え? 何だ?」
「降臨祭の日に告白すると、結ばれる確率が高くなるんだぜ。」
「へ~、そうなんだ。」
「言い伝えによるとだな、その昔、義勇軍の若い男と魔王軍の若い女が結ばれたんだってよ。その結ばれた日ってのが、丁度降臨祭の日だったそうだぜ。」
「ああ、その話知ってる、アトロムとリーリエの大恋愛の話だろ。降臨祭の日だったのは知らんかったが。」
「な~んだ、知ってたか、流石義勇軍だな。」
その話は知っている、ゲーム「ラングサーガ」にあった有名なイベントだ。
義勇軍のアトロムという戦士が居て、そのキャラは成長率が高く、最後まで使っていけるキャラとして一軍で活躍できるキャラだ。
リーリエというのは、魔王軍幹部の女将軍キャラで、序盤から主人公達を苦しめる存在として、度々出てきた人気キャラだ。
見た目も美しく、所謂「うすい本」が沢山あったのは有名だった。
アトロムとリーリエは戦いの中で、お互いの事を認め合い、互いに少しずつ惹かれていった。
ラストバトルではリーリエが仲間になって、魔王を倒した後、エンディングで二人は結ばれるというストーリーだった。
まさに大恋愛だな。
「で? その話がどうかしたか?」
ニールはどこか、思いつめた様子で話し始めた。
「うん、………何時だったか、お前がリップに指輪を渡した事があったよな?」
「ああ、サナリー様救出の時な、マジックアイテムの「フルブロックの指輪」だが、それがどうした?」
「うん、………あの時さ、俺、ちょっと焦ったんだよね、「何してくれてんだジャズ」と思ったし、リップの奴も満更でも無かった様だし、でさ、気付いたら俺、リップの事ばかり考える様になっちまってたんだ。」
「そうか、お前等二人、似合いだと思うがな。とうとう、自分の気持ちに気付いたか。ニール。」
「ああ、………それでな、俺、降臨祭の日にリップに告白しようと思うんだよ。」
「そうか、いいんじゃないか。」
ニールはポケットから一つの指輪を取り出した。
それを見つめながら、ニールは顔をニヤケさせ、決意を新たにした。
「お給料を全部つぎ込んだ指輪だ、これをリップに渡す。そして告白する。そこでな、ジャズ、お前に頼みがあるんだ。」
「おう、聞いてやるよ、何だ?」
ニールは指輪を仕舞い、こっちの方に顔を向け、真面目な表情で言った。
「俺がもし、もしもだぞ、リップがこの指輪を受け取ってくれなかった場合は、ジャズ、お前リップを貰ってやってくんねえか。」
「おいおい、何言ってんだニール。告白する前にもう諦めてんのか? らしくねえぞ。それに、そういう事はリップの気持ちであって俺がどうこうする事じゃねえだろ。」
(まったく、ニールの奴、何言ってんだか。)
「はは、見てれば解るよ。リップの奴、お前の事ばっか見てっからな。」
「………すまんニール、俺は、リップの事を戦友としてしか見ていない。女として見たのは一度だけだ。」
「………そうか、でな、もしリップがこの指輪を受け取ってくれたとする、でな、もしも、もしもだぜ、俺に万が一の事があった時………。」
「おいニール、何お前フラグ立ててんだ。リップが指輪を受け取ったらお前、死んでも生き残れ。いいな。」
「はは、死んでも生き残れか。お前難しい事言うな。兎に角聞けって、俺に万が一の事があった時、お前リップから指輪を回収しといてくれや。あいつを未亡人にするつもりは俺には無えからよ。頼むわ。」
「だから! フラグ立てんなって! お前幸せになれ! 死んでも生き残れ! いいなニール!」
(何死亡フラグ立ててんだニールの奴。そういう事を俺に頼むなよ。やりにくいだろうが。)
と、丁度そこへ、オブライ先輩がやって来て、こちらに声を掛けてきた。
「おお、二人共ここだったか。サキ少尉が呼んでるぞ。急いでブリーフィングルームに集合だってさ、急いだ方がいいぞ。」
「解りました、おいニール、行くぞ。」
「おう。」
(こんな話を聞いた後に、何かの任務だなんて。これはあれか? 何かの罠か。)
急ぎ、ブリーフィングルームへ向かうのだった。
「おいニール、お前の事は俺が出来るだけカバーするからな。」
「? ああ、頼む。」
こうして、雨が降る中、兵舎を出て外へ行き、ブリーフィングルームがある建物へと走って向かった。
ブリーフィングルームに到着すると、既にサキ少尉が黒板の前に立ち、こちらが到着するのを待っていた様だった。
「来たか二人共、席に着け。今から説明する。」
席に着き、サキ少尉を見て聞く姿勢をとった。サキ少尉は黒板に文字を書き始めた。
それには「モー商会」と書かれていた。
「早速だが、我らに任務が下った。モー商会からの依頼で、荷馬車の護衛をする事になった。目的地は王都、王都アリシアだ。そこで物資受取人と接触し、荷物を渡す。以上が任務となる。」
やれやれ、お休みは無しか。まあしょうがないよな。
「それと、ジャズ上等兵、コジマ司令がお呼びだ。直ぐに司令室へ向かえ。」
「は!」
(コジマ司令が俺を? 何事であろうか。兎に角行ってみよう。)
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