第54話 老兵は死なず ③
「どうしようジャズ! 帰れって言われちゃったじゃない! どうすんのよ!」
「落ち着けガーネット、きっと新聞屋の勧誘かセールスマンか何かと勘違いしているかもしれない。」
エリックさんのお宅に訪問しに来たのだが、門前払いもいいところの扱いを受けた。
一体どうなっているのやら? 兎に角まずはこちらの事を信用して貰わなければ。
「ガーネット、まずは俺達の事を名乗ろう。きっと信用してくれるよ。」
「そ、そうね。」
ここでガーネットは前に出て、大きな声で自己紹介し始めた。
「エリックさん、私は冒険者のガーネットと言います。エリックさんの様子を見に来ただけです、お話をさせて頂けませんか?」
すると、扉の向こう側からエリックさんらしき声が聞こえてきた。
「冒険者じゃと? アロダントの私兵ではないのか?」
(アロダントの私兵?)
「いえ、違います。冒険者ギルドに所属している駆け出し冒険者です。」
「………信用ならんな、兎に角帰れ、話しは終わりだ。」
やっぱり追い払われたな、参ったな、気難しい人なのかな?
「どうしようジャズ、信用して貰えないわよ。」
「うーん、ご年配の方ってめんどくさいのを嫌う傾向があるかもしれないからね、よーし、ここは俺が何とかしてみるよ。」
「どうするの?」
「まあ、任せておいて、元軍属って事は、軍隊式の挨拶ってのがあるんだよ。」
俺は一歩前に出て、気を付けの姿勢を保ち、はっきりとした声で自分の事を話した。
「大声で失礼します! 自分はセールスマンではありません。笑ってもいません。かと言って不気味な泡でもありません。自分はアリシア王国軍、クラッチ駐屯軍ブラボー中隊所属、サキ小隊のジャズ上等兵であります! エリック伍長、至急、お伝えしき事があり、ここに参りました。お目通り願います!」
これでどうだろうか? 一応軍隊式の自己紹介なのだが。
これで駄目ならいよいよ強硬手段を取るしかないが、さて、上手くいくかな?
しばらく待っていると、ガチャリと扉が開き、お年を召した男の人が姿を現した。
その眼光は鋭い。
「アリシア軍じゃと? 証拠は? 認識票を見せて貰おうかの。」
「は! こちらになります。」
俺は首から下げている認識票を服の中から取り出す。
そしてエリックさんに見せる。
エリックさんは俺の認識票をまじまじと見つめて、一つポンっと手を打って納得した様子で表情が和らいだ。
「何じゃ、本当にアリシア軍人じゃったか。それならそうと早よう言わんか。入ってこい。」
ほ、どうやら信用して貰えた様だ。お家の中へ入れて貰えるらしい、まずは一安心だな。
俺の用件は、実際にエリックさんに会わなければ達成出来ない事だからな。
「は! 失礼します。ガーネットも一緒に入ろう。」
「ええ、解ったわ。やるわねジャズ。」
「ただ挨拶しただけだよ、誠意をもってね。」
こうして俺達はエリックさんのお宅へと入れて貰えた。
部屋の中はご年配の人が生活しているっといった感じではあるが、綺麗に掃除がされている。
物も少ない。案内された部屋へ入り、床に座布団が敷かれているので、そこに座る。
部屋の中央には足の短いテーブルが一つ、湯飲みにお茶が入っていた。
「お茶しか出せんが、構わんかの?」
「はい、お構いなく。」
エリックさんは俺とガーネットの分の湯飲みを用意して、お茶を急須から注いでくれた。
こういうお茶は美味いんだよな。
やはりお茶は急須から淹れた方が、らしくなるってもんだよな。
まあ、俺はあまり拘らないけど。
出されたお茶を一口啜り、ほっと一息つく。
そして、エリックさんが話の本題に入ろうと話し始めた。
「それで? ジャズ上等兵、儂に何か用件があるんじゃったな、何用かの?」
「はい、実は今回エリックさんの所にお邪魔したのは、これをお探しなのではないかと思いまして、持って参りました。」
そう言いながら、ポケットから一枚のコインを取り出し、エリックさんに見せた。
それを見たエリックさんは、驚きを隠さず目を見開きながら尋ねてきた。
「こ、これは! 何処にあったんじゃ! そいつを今でも探しておったんじゃ! よう見つけてくれたな。」
「はい、自分が使っているロッカーの下から出てきました。拾い上げて確認し、調べたところ、エリックさん、貴方の物だと解ったのです。そして、こうして持ってきた次第なのです。」
「うむ、それは間違いなく儂の物じゃ、ロッカーの下からと言ったな、という事は兵舎か、オブライエンの奴め、儂のコインを隠しおって。兎に角、ありがとう。礼を言うぞい。」
「は!」
俺はエリックさんに記念コインを渡した。
やれやれ、これで一仕事終えたな、俺の用件は済んだ。
後はお
と、ここでガーネットがエリックさんに尋ねた。
「エリックさん、何ですか? そのコインは?」
「これか? これはの、今の国王陛下が40年前に王様に即位した時の記念コインなんじゃ。お嬢ちゃんは知らんじゃろうな、なんせ40年前の記念コインじゃからのう。」
「40年前?」
「うむ、当時まだ国王が王子じゃった頃、ある作戦があっての、その時に活躍した兵士全員が賜った記念コインなんじゃ。それにしてもオブライエンの奴め、ふざけて隠しおって、儂が今の今まで探しておったというのに、オブライエンというのは戦友での、よく共に戦ったもんじゃわい。かっかっか。」
「へえ~、エリックさんにとって、とても大切な物なのですね。」
「うむ、嬢ちゃんには古臭い代物じゃと思うかもしれんがの、当時はそれは大変有難い物じゃったんじゃよ。兎も角、ジャズ上等兵、探し出して見つけてくれた事に感謝するぞい。これで一安心といったところじゃわい。かっかっか。」
「エリックさん、見つかって良かったですね、それにしても40年前から探していたというのは、中々大変ではありませんでしたか? 自分は降臨祭の前の大掃除の時に見つけたのですが。」
「うむ、当時はまだ自分の手元にあったのじゃが、作戦完了と共に色々とドタバタしておっての、中々探せなんだわい。まさかロッカーの下から見つかるとは思わんかったわい。………それにしても懐かしいのう、この記念コインがとうとう儂の元に戻ってきたか、………。」
40年前、アリシア王国北部、バルビロン要塞にて―――
「オブライエン! そっちに行ったぞ!」
「無茶言うな! こっちだってまだゴブリンと戦っている最中だ! エリックの方で何とかならんか?」
「こっちも手一杯だ! オークの野郎! ばかすか攻撃してきやがって!」
「バルビロン要塞攻略戦は、もうとっくに始まってんだぞ! 急がないと敵の増援がやってきちまう!」
「わかってらい! わざわざ言うなよ! オブライエン! 手が空いたらこっち手伝え!」
「エリックこそ! そっちの手が空いたら手伝えよ!」
「よう諸君、やっとるかね?」
「「 王子! トーフ王子じゃねえですかい! 何前線に出てきちゃってんの! あんた大将だろう! 」」
「いやあ、だって退屈なんだもの。」
「退屈なんだものじゃねーよ! 何考えてんの! あんた後方に居て指揮を執ってりゃいいんだよ! 周辺の地図と睨めっこしながらウンウン唸ってりゃいいの! 後方でデーンと構えてりゃいいの! わかりましたか王子!」
「ちぇ、つまんねーの。」
「つまるとか、つまらないとかの問題じゃねーんだよ! おいオブライエン! 王子連れて一度後方に撤退だ! 急げ!」
「まったく、面倒掛けやがって。あんた王子なんだから前線に出てこなくていいの!」
「後退! 急げ! 後たああああい!」
現在――――
「まあ、そんな感じで、当時は要塞攻略戦は大変じゃったんじゃよ。その時の王子がまた素っ頓狂な性格をしておってのう、護衛するのも大変じゃったわい。かっかっか。」
「なるほど、その当時の王様はそんな無茶な事をしておられたのですか、若いですね。」
「そりゃそうじゃよ、皆当時は若かった。体も思う様に動けたしのう、軍では伍長まで昇進したしの、………………おっと、昔語りをしてしまったの、お嬢ちゃんには退屈じゃったじゃろう。」
「いえ、とても貴重なお話でした。その当時の王様の事が聞けて、何だか意外な一面があるんだなって思いました。」
「かっかっか、そう言って貰えるとこちらとしても嬉しいわい。………ところで若いの、そこにある木剣を二つ持って表へ出ろ、ジャズ上等兵に儂から一つ技を伝授してやるわい。行くぞい。」
「え!? よろしいのですか?」
「早ようせい。」
「は、はい!」
なんと、意外にもエリックさんは俺に何か技を教えてくれるらしい、これは有難い。
技ってのは誰かに教わらないと使えないからな。
スキル習得とは違う、鍛錬をして会得する技だ。
一度その身に受ければ扱い方が解る様になる。これはいいな、エリックさんに教わろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます