第53話 老兵は死なず ②



 エリックさんを探して、今俺は冒険者ギルドへとやって来たところだ。


ギルドの中は活気に満ちている、ここでもやはり降臨祭に向けて、皆が色んな準備をしている様だ。


冒険者の人達も依頼をしに行っていたり、依頼から帰ってきていたりと、人の入れ替わり立ち代わりが激しく動き回って、慌ただしくなっていた。


「随分と活気に満ちている様だな、この時期は皆が忙しいみたいだな。」


降臨祭か、女神教というのは色んな所に信者がいる様だな。


確かニールが言うには、世界中に信者がいるって言っていたな。


ゲーム「ラングサーガ」でもそういう感じに表現されていたっけな。


(おっと、こうしちゃいられないな、早速受付嬢にエリックさんの事を聞いてみよう。)


 ギルドの中に入った俺は、まず先に受付カウンターのところまで行って、列に並ぶ。


冒険者達は依頼を達成して、受付嬢に報告している。


結構並んでいるな、隣のカウンターでも似たような感じになっている。


比較的にこっちの方が空いているので、このまま並ぶ事にする。


列に並んで待っていると、ギルドの出入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あ~~、疲れた~、だけど今日の上がりは一日にしては結構な稼ぎでしたよね、姐御。」


「ええ、そうね、………フフ、ガーネット、貴女今回の依頼はかなり張り切っていたじゃない。そろそろ駆け出しは卒業かしらね。もうソロでもやっていけるんじゃないの?」


この声は、ガーネットだ。それにガーネットの隣に居る女性は見た事があるぞ。


確か俺がポエム山賊団を抜ける時に、ガーネット達と一緒にいた凄腕の女剣士だったよな。


シミター男を一刀両断してたっけな。


俺は片手を上げて手を振り、ガーネット達を呼んでみる。


「ガーネット、こっちだ。元気だったか?」


俺が呼ぶと、ガーネットはこちらを向いて俺を発見し、にぱりっとした笑顔の表情をしてこちらに近づいて来た。


ガーネットがあちこちボロボロになっているところを見ると、どうやら戦闘をしていたみたいだった。


モンスターの討伐依頼でも受けていたのかな?


「ジャズじゃない! 元気だった? 軍服を着てるって事はまだ軍のお仕事中?」


「いや、仕事ではないよ、かと言ってお休みでもないけどね。実は人を探していてね、なあガーネット、このギルドに戦術講師のエリックさんって人いないかな? 俺ちょっとその人に用事があってさ。」


俺が聞くと、ガーネットの代わりに姐御が答えてくれた。


「え~っと、初めましてになるのかしら? だけど貴方は何処かで見た事があるのよね。何処だったかしら?」


ここでガーネットが、姐御の事を俺に紹介してくれた。


「ジャズ、覚えてる? あの時の山賊の砦で出会った人よ、この冒険者ギルドの看板をしょってる人で、一応名前はあるんだけど、皆は「姐御」って呼んでるから私も姐御って呼んでいるの。凄腕の剣士なんだから。」


「ああ、覚えているよ。………その節はお世話になりました。俺はジャズと言います、今はもう山賊ではありませんよ、足を洗ってまっとうに生きています。今はこの町の駐屯地でアリシア軍の兵士をやっています。よろしく。」


「よろしく、私は一応名前があるんだけど、皆からは姐御って呼ばれているから、貴方も姐御でいいわよ。それにしても珍しいわね、この時期に兵隊さんが冒険者ギルドに居るなんて。基地の方で降臨祭に向けて色々と準備をしていると思ったんだけど。」


俺と姐御はお互いに握手をして、言葉を交わす、握手しただけで解る。


力強い、相当な手練てだれだな、この人。こういう人ってのはオーラが違う。


間違いなく凄腕冒険者だ。貫禄が違う。


クラスはおそらく上級職のソードマスターあたりだろうか、鼻に掛けないのが好感が持てる。


と、ここでガーネットが俺の言いかけた事を聞き返した。


「探している人? ギルドの戦術講師をなさっているエリックさんの事よね、勿論知っているわよ。私も冒険者になり立ての頃、武器の持ち方から敵との間合いの取り方まで、色々教わったもの。確か、中級冒険者の人達にも何かの技を教えている元気なお爺ちゃんよ。」


「へえ~、有名なんだね、エリックさんって。」


ここで姐御も話に加わる。


「私が駆け出しの頃からお世話になっているのよ、私の剣の先生ね。初めて技を教わったのもエリック先生だったわ。」


なるほど、そんな昔から戦術講師をされているのか、人に歴史ありだな。


「だけど、エリックさんは最近は見かけないわね、どうしちゃったのかしら?」


「え? という事は今はここには居ないって事かい?」


「ええ、おそらくはね。」


ふーむ、ギルドに居ないとなると、お家の方にいらっしゃるのかな? 


まあいいや、折角ここまで並んでいるんだ、ギルドの受付嬢に聞いてみよう。


「ねえジャズ、私達ここに並んでもいい?」


「え? 横入りは不味いんじゃないかな、ちゃんと並んだ方がいいよ。ほら、後ろの人怖い顔してるし。」


「あ、そ、やっぱりズルは良くないわよね、姐御、後ろに並びましょうか。」


「それがいいわね、それじゃあジャズ、またね。」


「はい、姐御、ガーネットも。」


こうして、俺の順番まで並んで待っていて、しばらく経ったら俺の番に回って来た。


早速受付嬢に聞いてみよう。


「すいません、自分は人を探していまして、このギルドに戦術講師をされているエリックと言う方を捜していまして、こちらにいらっしゃいますか?」


受付嬢のおねえさんは、直ぐに答えてくれた。


「ああ、エリックさんですね。確かにこのギルドに戦術講師として在籍しておられますが、最近はちょっとお見掛けしませんね、体調でも優れないのでしょうか? 連絡は来ていませんが、どうしたんでしょうね。」


ふーむ、やはりエリックさんはここには居ない様だな。お家の方に行ってみるか。


「解りました、自分はエリックさんのお宅へ行ってみます。では、ここで失礼致します。」


受付カウンターから離れ、ガーネットが並んでいる所まで行って、ガーネットに声を掛ける。


「ガーネット、俺ちょっとエリックさんのお宅まで行って、様子を見に行こうと思うから、それじゃあな。」


「ちょ、ちょっと待ってジャズ。私も一緒に行くから少しだけ待ってて頂戴。」


「いいわよガーネット、ギルドへの報告は私がしておくから、ジャズと二人で行って来なさいな。報酬はちゃんと貰っておくから、貴女の分も後で渡すわよ。冒険者としてエリックさんの様子を見に行って来てくれない。」


「え、いいんですか? すいません姐御。ありがとうございます、それじゃあちょっとジャズと一緒に行って来ます。」


どうやらガーネットは、俺と一緒にエリックさんの所まで行く事にしたようだ。


ギルドへの報告を姐御に任せて、俺のところまで来た。


「いいのかい? 姐御に頼んじゃって。」


「ええ、姐御は優しいから、それに、私もエリックさんの事、ちょっと心配だし、冒険者として訪ねに行くだけよ。行きましょうジャズ。」


「ああ、解った。早速行こうか。」


こうして、俺とガーネットは冒険者ギルドを後にして、一般住宅街へ向けて歩き出した。


確か東側に家があるって、町役場の人から聞いたな。


 一般住宅街に到着した。ここの東側だったな、家の一軒一軒ずつ調べていく。


エリックさんはご在宅だろうか? 


家の表札みたいな物は無いが、玄関の扉にその人が住んでいる名前が書かれているので、直ぐにエリックさんのお宅は解った。


「ここだ、エリックさんのお宅は。」


「ドアをノックしても返事が無い、なんて事は無いわよね、この時間はまだ日も傾きかけだし、何処かに出かけているかもしれないけど。」


「まあ、ノックしてみればわかるよ。」


俺はエリックさんのお宅の玄関の扉を、コンコンとノックする。しばしの間待って返事を待つ。


ところが………。


「帰れええええ!!」


「「 ええええ!!? 」」







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